【事例854】うつ病|障害基礎年金2級(不安障害で治療をしていた事例)

はじめに

はじめに

精神科の診断名は、通院を続けるなかで変わることがあります。

初診のころは不安障害と診断され、その後うつ病と診断された、というケースもあります。

このような場合、過去にさかのぼって障害年金を請求することはできるのでしょうか。

本記事では、障害認定日当時の傷病名が不安障害であったため障害認定日による請求を見送り、事後重症による請求で障害基礎年金2級が認定された事例をご紹介します。

(※うつ病で障害年金の申請をご検討の方は『うつ病で障害年金はもらえる?3つの条件と金額の目安』をご覧ください。)

対象者の基本データ

本事例は、うつ病により障害基礎年金2級が認定された男性の事例です。

障害認定日当時の傷病名が不安障害であったことから、障害認定日による請求(遡及請求)を行うかどうかが最初の論点となりました。

まず、ご相談者様の基本データをご紹介します。

項目内容
傷病名うつ病(障害認定日当時は不安障害)
性別男性
障害者手帳精神障害者保健福祉手帳3級
就労状況就労なし(閉居生活が続いている)
請求方法事後重症による請求
申請結果障害基礎年金2級
支給額年額 約78万円(請求当時の決定額。現在の額は下記リンクをご覧ください)

障害の状態は、次のとおりでした。

  • 衣食住など身の回りのことだけでなく、金銭管理や社会的な手続きにもご家族のサポートが欠かせない
  • 閉居生活が続いており、ご家族の付添いがなければ通院も難しい
  • 希死念慮が続いている

支給額は、請求当時に決定した金額です。

障害年金の額は毎年度改定されるため、現在の金額は障害年金でもらえる金額はいくら?をご覧ください。

なお、本事例は当法人が関与した個別の事例であり、認定の一般的な基準を示すものではありません。

※個別事案により判断は異なります。

ご相談までの経緯

ご相談までの経緯

ご相談者様が最初に医療機関を受診されてから、当事務所にお問い合わせいただくまでの経緯をご紹介します。

診断名が途中で変わっている点が、後の請求方法の検討に関わってきます。

大学を卒業後に就職されましたが、2年ほどで退職されました。

その後、大学院に進学されています。

ご家族と金銭面でのトラブルがあった時期に、顔のほてり、息切れ、頻尿といった身体面の不調が現れたとのことでした。

さらに睡眠障害、食欲不振、意欲の低下、希死念慮なども加わり、A病院を受診されました。

A病院では不安障害と診断され、投薬による治療を受けておられました。

しかし症状は改善せず、大学院も退学されることになります。

生活のためにアルバイトもされましたが長続きせず、次第に外出が減り、閉居がちになっていきました。

希死念慮が強まったことから、B病院へ転院されました。

転院先のB病院ではうつ病と診断され、現在まで薬物療法と精神療法を継続されています。

症状は一進一退で、他者との交流も途絶えた状態が続いていました。

閉居生活が続き、ご家族のサポートがなければ日常生活が成り立たない状況でした。

就労の見通しも立たず、経済的な不安を抱えておられました。

ご家族に負担をかけていることを、いつも心苦しく感じておられたそうです。

知人の方から障害年金について教えてもらい、自分も対象になるのであれば申請したいとお考えになりました。

そして当事務所のホームページをご覧になり、メールでお問い合わせをいただきました。

①申請のポイントと苦労した点

本事例で最初に検討したのは、障害認定日による請求(遡及請求)ができるかどうかでした。

障害認定日による請求ができるかどうかで、受け取れる年金額が変わる可能性がありました。

ここでは、当事務所が確認した内容と、その結果どのような判断に至ったかをご説明します。

障害認定日当時の受診先と診断名を確認した

障害認定日当時の受診先と診断名を確認した

障害認定日による請求を行うには、障害認定日より3か月以内の現症を記載した診断書が必要です。

ご相談者様は、障害認定日のころも初診のA病院に通院されていました。

そこで、A病院に診断書の作成を依頼しました。

その過程で、障害認定日当時の傷病名が「うつ病」ではなく「不安障害」であったことが分かりました。

ここで押さえておきたいのは、診断名が変わったというだけで初診日が変わるわけではない、という点です。

前後の傷病に相当因果関係があり、医学的に同一の傷病(一連の病態)と判断される場合には、変更前の傷病で最初に受診した日が初診日となります。

相当因果関係の考え方は、障害年金の「相当因果関係」とは|「初診日」との関係をわかりやすく解説しますで解説しています。

「初診日をいつと認定するか」と「障害認定日の時点で障害の状態が等級に該当していたか」は、別の論点です。

本事例で問題になったのは、後者のほうでした。

カルテに精神病の病態を示す記載があるかを照合した

カルテに精神病の病態を示す記載があるかを照合した

不安障害は、ICD-10コード上でF40からF48に分類される傷病群に含まれます。

この傷病群は、障害年金の実務で「神経症」と呼ばれています。

障害認定基準は、神経症について次のように定めています。

(5) 神経症にあっては、その症状が長期間持続し、一見重症なものであっても、原則として、認定の対象とならない。ただし、その臨床症状から判断して精神病の病態を示しているものについては、統合失調症又は気分(感情)障害に準じて取り扱う。なお、認定に当たっては、精神病の病態がICD-10による病態区分のどの区分に属す病態であるかを考慮し判断すること。

(出典:厚生労働省「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」第3 第1章 第8節 精神の障害、令和4年4月1日改正版)

つまり、神経症であっても、臨床症状から判断して精神病の病態を示しているものは、統合失調症または気分(感情)障害に準じて取り扱われます。

そこで当事務所は、障害認定日当時のカルテに次のような記載がないかを、A病院に確認しました。

  • 抑うつ気分や希死念慮などの抑うつ症状
  • 気分の高揚、多弁、多動などの症状
  • 幻覚、幻聴、妄想などの症状
  • 抗うつ薬をはじめとする精神科の薬剤の処方

確認の結果、障害認定日当時のカルテには、これらに当たる記載が見当たりませんでした。

ICD-10コードの分類については、「ICD-10コード」とはで解説しています。

障害認定日による請求を見送り、事後重症による請求とした

障害認定日による請求を見送り、事後重症による請求とした

以上の確認をふまえ、障害認定日当時の資料からは、当時の障害の状態を裏づける記載が得られていない状況であることを、ご相談者様にお伝えしました。

障害認定日による請求を行う場合、障害認定日より3か月以内の現症を記載した診断書を別途取得する必要があり、その作成費用が生じます。

不支給という結果になった場合、この費用は戻りません。

費用負担の見通しをお伝えしたうえで、請求方法の選択はご相談者様にお委ねしました。

ご本人のご希望により、今回は事後重症による請求を行うこととしました。

A病院で受診状況等証明書を取得し、B病院で現在の障害の状態を記載した診断書を作成していただいて請求しました。

②結果

②結果

請求の結果と、事後重症による請求を選んだことによる支給開始時期について整理します。

審査の結果、障害基礎年金2級に認定されました。

事後重症による請求のため、年金は請求した日の翌月分から支給されます。

障害認定日による請求とは異なり、過去にさかのぼって受け取ることはできません。

※個別事案により判断は異なります。

③担当者の振り返りと感想

本事例で当事務所が実際に行ったことを、順に振り返ります。

最初に行ったのは、診断書を依頼する前に、障害認定日当時の傷病名をA病院に確認することでした。

障害認定日当時の傷病名は、診断書を取得して初めて分かることもあります。

先に確認できたことで、費用が生じる前に見通しをお伝えすることができました。

次に行ったのは、障害認定日当時のカルテの記載を照合することです。

障害認定基準のただし書きに当たる可能性があったため、精神病の病態を示す記載がないかを確認しました。

結果として該当する記載は見当たりませんでしたが、確認せずに諦めることも、確認せずに請求することもしませんでした。

最後に、請求方法の選択をご相談者様にお委ねしました。

障害認定日による請求には診断書の費用が伴い、その結果は事前には分かりません。

費用と見通しの両方をお伝えしたうえでご判断いただくことが、当事務所の役割だと考えています。

本事例のポイント

本事例で論点となったのは、神経症の傷病名の取扱いと、事後重症による請求という2点です。

制度の詳しい内容は、それぞれの解説記事もあわせてご覧ください。

【本事例のポイント】神経症の傷病名と障害年金の認定

神経症の認定基準

障害年金の実務で「神経症」と呼ばれる傷病群の取扱いを整理します。

「神経症」とは、ICD-10コード上でF40からF48に分類される傷病群を指して用いられる呼び方です。

不安障害、パニック障害、強迫性障害、適応障害、解離性障害、身体表現性障害などが含まれます。

障害認定基準は、神経症について次のように定めています。

(5) 神経症にあっては、その症状が長期間持続し、一見重症なものであっても、原則として、認定の対象とならない。ただし、その臨床症状から判断して精神病の病態を示しているものについては、統合失調症又は気分(感情)障害に準じて取り扱う。なお、認定に当たっては、精神病の病態がICD-10による病態区分のどの区分に属す病態であるかを考慮し判断すること。

この規定は、原則・ただし書き・なお書きの3層で構成されています。

原則として認定の対象とならないとしたうえで、ただし書きで、臨床症状から判断して精神病の病態を示しているものは統合失調症または気分(感情)障害に準じて取り扱うとしています。

さらになお書きで、認定に当たっては、精神病の病態がICD-10による病態区分のどの区分に属す病態であるかを考慮して判断するとされています。

したがって、傷病名だけで結論が決まるわけではなく、診断書やカルテにどのような臨床症状が記載されているかが問われることになります。

ICD-10コードの分類については、「ICD-10コード」とはで解説しています。

なお、傷病名や症状についての医学的な判断は、主治医にご確認ください。

【本事例のポイント】事後重症による請求という選択

遡及請求と事後重症請求の違い

障害認定日による請求ができない場合に選択肢となる、事後重症による請求について整理します。

障害認定日とは、障害の程度を認定する日をいいます。

原則として、初診日から起算して1年6月を経過した日です。

その期間内に傷病が治った場合(症状が固定し、治療の効果が期待できない状態に至った場合を含みます)は、その日が障害認定日となります。

なお、人工透析療法や人工骨頭・人工関節の挿入置換など、一定の処置・傷病については、1年6月の経過を待たずに障害認定日が定まる特例があります。

障害認定日の時点で障害の状態が等級に該当しない場合でも、その後に症状が重くなり等級に該当する状態になったときは、事後重症による請求ができます。

ただし、初診日の要件と保険料納付要件を満たしていることが前提となります。

事後重症による請求では、年金は請求した日の翌月分から支給されます。

障害認定日による請求とは異なり、過去にさかのぼって受け取ることはできません。

また、原則として65歳の誕生日の前々日までに請求する必要があります。

請求が遅れるとその分だけ支給の開始も遅くなるため、等級に該当する状態にあると考えられる場合は、期間を空けずにご検討ください。

制度の詳細は、障害認定日とは|はじめての人にも分かりやすく解説しますと障害年金の遡及(そきゅう)請求とは|はじめての人にも分かりやすく解説しますをご覧ください。

本事例に関するよくあるご質問

本事例に関連して、お問い合わせをいただくことの多いご質問にお答えします。

いずれも一般的な取扱いの説明であり、個別の事案についての判断を示すものではありません。

Q. 初診のときの病名が神経症でも、障害年金を請求できますか

傷病名だけで請求できるかどうかが決まるわけではありません。

障害認定基準は、神経症について原則として認定の対象とならないとしたうえで、臨床症状から判断して精神病の病態を示しているものは、統合失調症または気分(感情)障害に準じて取り扱うとしています。

また、初診のころの診断名と現在の診断名が異なっていても、前後の傷病に相当因果関係があり、医学的に同一の傷病と判断される場合には、初診日は最初に受診した日となります。

一方、別の傷病と判断される場合でも、請求できなくなるわけではありません。

その場合は、後から発症した傷病の初診日をもとに、初診日の要件・保険料納付要件・障害の状態を改めて判定することになります。

本事例でも、初診日はA病院を受診した日として請求しています。

※個別事案により判断は異なります。

Q. 過去にさかのぼって受け取ることはできますか

公的な呼称は「障害認定日による請求」です(実務では「遡及請求」とも呼ばれます)。

障害認定日の時点の障害の状態をもとに請求する方法です。

(※遡及請求に関しては『障害年金の遡及(そきゅう)請求とは|はじめての人にも分かりやすく解説します』をご覧ください。)

ただし、次の3つがそろっている必要があります。

  1. 初診日の要件を満たすこと
  2. 保険料納付要件を満たすこと
  3. 障害認定日の時点で、障害の状態が障害等級(障害基礎年金の場合は1級または2級)に該当すると認められること

障害認定日の時点の状態は、障害認定日より3か月以内の現症を記載した診断書によって確認されます。

なお、障害認定日と年金請求日が1年以上離れている場合は、これに加えて、直近の診断書(年金請求日前3か月以内の現症のもの)も必要となります。

(出典:厚生労働省「【国民年金】障害基礎年金 必要書類リスト」)

これらが認められた場合、年金は障害認定日の翌月分から支給されます。

ただし、年金を受ける権利は5年で時効にかかるため、さかのぼって受け取れるのは最大で5年分です。

3つの要件については、障害年金をもらえる人|3つの受給要件をわかりやすく解説をご覧ください。

障害認定日そのものの考え方(原則と特例)は、障害認定日とは|はじめての人にも分かりやすく解説しますをご覧ください。

Q. 精神障害者保健福祉手帳が3級でも、障害年金は2級になりますか

障害者手帳と障害年金

障害者手帳の等級と障害年金の等級は連動しません。

精神障害者保健福祉手帳は精神保健及び精神障害者福祉に関する法律、障害年金は国民年金法および厚生年金保険法と、根拠となる法律が異なります。

認定を行う機関も、判定の基準も別のものです。

本事例のご相談者様も、精神障害者保健福祉手帳は3級でしたが、障害基礎年金は2級に認定されています。

逆に、障害者手帳の等級のほうが上位になることもあります。

※個別事案により判断は異なります。

詳しくは精神障害者手帳3級では障害年金はもらえない?をご覧ください。

関連する記事

本事例に関連する解説記事をご紹介します。

うつ病での障害年金の全体像、2級の金額、事後重症による請求について、それぞれ詳しく解説しています。

障害年金申請のご相談は、わくわく社会保険労務士法人(全国障害年金サポートセンター)までお気軽にお問い合わせください。


※本記事は2026年8月時点の年金法令・障害認定基準(令和4年4月1日改正版)に基づき作成しています。法令改正等により内容が変更される可能性があるため、最新の情報は日本年金機構の公式サイト等でご確認ください。記載の支給額は請求当時の決定額であり、現在の金額とは異なります。申請に必要な書類は個別の事情により異なりますので、詳細は年金事務所等でご確認ください。個別の事案については社会保険労務士・弁護士等の専門家へのご相談を推奨します。医学的判断は主治医にご確認ください。

当事務所で申請サポートさせて頂いた、その他のうつ病の方の事例をご紹介します。

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