うつ病|障害基礎年金2級 

はじめに

心の不調で最初に受診したのが、精神科や心療内科ではなく内科だったという方は少なくありません。

本記事では、精神科の受診日を初診日とすると保険料納付要件を満たさず、ご自身では申請を諦めかけていた方が、それより前に一度だけ受診した内科の記録をたどって障害基礎年金2級を受給された事例をご紹介します。

障害年金では、どの受診日を初診日とするかによって、受けられる年金の種類も、保険料納付要件の判定も変わります。

本事例は、まさにその初診日だけが争点になったケースでした。

(※うつ病で障害年金の申請をご検討の方は『うつ病で障害年金はもらえる?3つの条件と金額の目安』をご覧ください。)

対象者の基本データ

はじめに、ご相談者様の当時の状況を一覧にまとめます。

支給額は、請求当時に決定された額です。

項目内容
傷病名うつ病
性別女性
障害の状態就労できない状態。
自宅で過ごすことが多く、ご家族の援助を受けて生活。
気分の落ち込み、倦怠感、悪夢などの症状
障害者手帳精神障害者保健福祉手帳2級
就労状況就労なし
申請結果障害基礎年金2級
支給額請求当時の決定額で年額 約78万円

上記は当法人が関与した個別の事例であり、認定の一般的な基準を示すものではありません。

障害年金の額は毎年度改定されるため、現在の金額は障害年金でもらえる金額はいくら?をご覧ください。

ご相談までの経緯

ご相談者様の体調の変化は、中学生の頃にさかのぼります。

精神科を受診されるまでに10年近い時間が空いており、この空白が後に初診日の判断を難しくしました。

ここでは、ご本人からうかがった経過を時系列で整理します。

中学から高校にかけての体調不良と、18歳のときの内科受診

中学生の頃から、テスト前になると強いストレスを感じ、腹痛や下痢が現れるようになりました。

高校に入学する頃には腹痛が慢性化し、週に2〜3回は下痢のために学校を休んでいたとのことです。

腹痛・下痢・動悸・偏頭痛などの症状が続き、精神的にも弱っていたため、18歳のときにご両親に連れられて一度だけA内科を受診されました。

このときの診断は、過敏性腸症候群および胃腸炎でした。

その後は体調が改善しないまま、我慢をしながら過ごしていたといいます。

高校卒業後の就労と、精神科の受診・自力での申請の断念

高校を卒業した後、ご相談者様はアルバイトを始めました。

しかし疲れやすさや倦怠感を強く感じて欠勤が多くなり、勤務中や出勤前に涙が出ることも多かったとのことです。

そこでB精神科を受診したところ、うつ病と診断されました。

その後は1か月に1回程度の通院で治療を続けましたが、症状はなかなか改善しませんでした。

自宅で過ごす日々が続くなかで障害年金の存在を知り、ご自身で手続きを進めようとされました。

ところが、B精神科の受診日を初診日とすると保険料納付要件を満たさないと分かり、諦めかけていたそうです。

その状態で、当事務所へご相談の連絡をいただきました。

①申請のポイントと苦労した点

本事例で当事務所が行った作業は、ほぼすべてが初診日の確認に費やされました。

障害の状態そのものは診断書で示すことができましたが、初診日の扱いが変わらなければ、保険料納付要件を満たさないまま請求することになる状況だったためです。

ここでは、どのような順序で記録を確認していったのかをご説明します。

争点は「どの受診日を初診日とするか」の一点だった

障害認定基準では、初診日は「障害の原因となった傷病につき、初めて医師又は歯科医師の診療を受けた日」と定義されています。

3 初診日
「初診日」とは、障害の原因となった傷病につき、初めて医師又は歯科医師の診療を受けた日をいう。

(出典:『国民年金・厚生年金保険 障害認定基準』令和4年4月1日改正 第1の3。)

初診日は、次の3つを決める起点になります。

  1. どの障害給付の対象になるか:国民年金の加入期間、20歳前、日本国内に住んでいる60歳以上65歳未満で年金制度に加入していない期間に初診日があるときは障害基礎年金の対象となり、厚生年金保険の被保険者期間中に初診日があるときは障害厚生年金の対象となります(障害厚生年金で1級または2級に該当する場合は、障害基礎年金もあわせて受給できます)
  2. 保険料納付要件を満たすか:初診日の前日の時点で、初診日がある月の前々月までの被保険者期間について、保険料納付済期間と保険料免除期間をあわせた期間が3分の2以上あることが原則です
  3. 障害認定日がいつになるか:原則として初診日から起算して1年6か月を経過した日が障害認定日となります(初診日が20歳前にある場合の取扱いは後述のご質問をご覧ください)

なお保険料納付要件には特例があり、初診日が令和18年3月末日までのときは、初診日において65歳未満であれば、初診日の前日において、初診日がある月の前々月までの直近1年間に保険料の未納がなければよいとされています。

(出典:日本年金機構『障害基礎年金の受給要件・請求時期・年金額』更新日2026年4月1日)

一見すると、本事例の初診日はB精神科を初めて受診した日のように思えます。

しかしB精神科の受診日を初診日とした場合、初診日の前日における保険料納付要件を満たしていませんでした。

ここで大切なのは、初診日は実際に受診した事実によって決まるものであり、請求する側が都合のよい日を選べるものではないという点です。

そのうえで、B精神科より前に受診したA内科の日が初診日になりうるかを検討することになります。

このとき、性質の異なる2つの道筋を区別して考える必要があります。

ひとつは、A内科で診療された身体症状が、後のうつ病と医学的に同一の傷病と判断できる場合です。

もうひとつは、A内科で診断された傷病と後のうつ病とが別の傷病であり、両者に相当因果関係が認められる場合です。

2つの違いと、それぞれの根拠は、後述の「本事例のポイント」で整理します。

本事例では、このどちらに当たるかを見極めることが出発点でした。

先にA内科のカルテを確認した

そこで当事務所は、まずA内科の記録を確認するところから着手しました。

いずれの道筋をとる場合でも、A内科でどのような症状について診療を受けていたのかが、判断の出発点になるためです。

しかし調査の結果、カルテには精神症状に関する記述がありませんでした。

診療を受けた症状の内容が記録から確認できない場合、その受診日を初診日として申し立てることは難しくなります。

この時点で、同一の傷病としても、相当因果関係によっても、根拠を示しにくい状況になりました。

B精神科の記録に残っていた前医受診の記載

次に当事務所は、B精神科へ照会を行いました。

初診の医療機関の記録だけで判断せず、2番目以降に受診した医療機関の記録もあわせて確認するのが、初診日を扱う際の基本だからです。

照会の結果、B精神科を初めて受診した際の記録に、A内科を受診した経緯がわずかに記載されていることが分かりました。

そこで、その内容を書類に反映していただくことができました。

なお、障害認定基準は、障害の程度の認定に当たって、原則として本人の申立て等及び記憶に基づく受診証明のみでは判断せず、必ずその裏付けの資料を収集するとしています(第2の3(1))。

古い受診の記憶だけでは足りず、記録として残っているものを探す必要があるのは、このためです。

病歴・就労状況等申立書で経過を補強した

あわせて、病歴・就労状況等申立書にも、中学時代から精神的に不安定な状態が続いていたという経過を盛り込んで請求を行いました。

申立書は、診断書に書ききれない生活の実態や経過を、請求される方ご自身の言葉で伝える書類です。

書類ごとの記載が食い違わないよう、経過を時系列で整理したうえで作成しました。

申立書の書き方は『「病歴・就労状況等申立書」の書き方|記入例と自分で書く9つのコツ』で解説しています。

②結果

ここまでの準備を経て、請求は認められました。

決定の内容は次のとおりです。

審査の結果、障害基礎年金2級として認定されました。

A内科の受診経緯を裏づける記録と、中学時代からの経過を記した申立書を提出したうえでの決定でした。

請求当時の決定額は、年額で約78万円でした。

障害年金の額は毎年度改定されますので、現在の金額は障害年金でもらえる金額はいくら?をご確認ください。

③担当者の振り返りと感想

本事例で当事務所が行ったのは、記録を順番にたどるという地味な作業の積み重ねでした。

その一つひとつが結果につながったと感じています。

最初にA内科のカルテを確認した時点では、精神症状に関する記載が見つからず、見通しは厳しいものでした。

しかしそこで手を止めず、B精神科の記録まで確認したことが、結果的に手がかりにつながりました。

初診の医療機関に必要な記録が残っていなくても、その後に受診した医療機関の記録に前の受診が書かれていることがあります。

ご相談者様は、ご自身で年金事務所の窓口まで進んだうえで、納付要件を理由に諦めかけておられました。

その判断は、B精神科の受診日を初診日とする前提に立てば、決して誤りではありません。

ただ、初診日をどこに置くかという点には、まだ検討の余地が残っていました。

ご本人の記憶を丁寧にうかがい、それを裏づける記録を探す時間を確保できたことが、今回の申請を支えたと考えています。

本事例のポイント

本事例から一般化してお伝えできる点を整理します。

なお、実際にどこが初診日と認められるかは、日本年金機構による個別の判断となります。

【本事例のポイント】精神科以外の診療科の受診が初診日になることがある

障害年金の初診日は、最終的に診断された病名で最初に受診した日とは限りません。

診療科が異なる受診が初診日として扱われる道筋には、性質の異なる2つがあります。

ひとつは、診断名が後に変わっただけで、医学的には同一の傷病と判断される場合です。

このときは、その同一の傷病について初めて医師または歯科医師の診療を受けた日が初診日となります。

相当因果関係を持ち出す必要はありません。

もうひとつは、前後が別の傷病であり、両者に相当因果関係が認められる場合です。

障害認定基準は、相当因果関係について次のように定めています。

(2) 「起因する疾病」とは、前の疾病又は負傷がなかったならば後の疾病が起こらなかったであろうというように、前の疾病又は負傷との間に相当因果関係があると認められる場合をいい、負傷は含まれないものである。

(出典:『国民年金・厚生年金保険 障害認定基準』令和4年4月1日改正 第1の2。)

この場合、前の傷病で初めて医師の診療を受けた日が、後の傷病の初診日として取り扱われます。

なお、障害認定基準上、原因となる前の傷病は疾病でも負傷でもかまいませんが、そこから生じたものとして扱われるのは疾病であり、後に生じた負傷は含まれません。

いずれの道筋をとる場合でも、傷病名の組み合わせだけで自動的に決まるものではありません。

内科の受診が初診日として扱われるためには、その受診の際にどのような症状について診療を受けていたのかが、記録から確認できる必要があります。

相当因果関係の考え方については『障害年金の「相当因果関係」とは|「初診日」との関係をわかりやすく解説します』で詳しく解説しています。

※個別事案により判断は異なります。

【本事例のポイント】初診の医療機関のカルテが廃棄されていた

初診の医療機関のカルテが廃棄されていたり、必要な記載がなかったりすることは珍しくありません。

そうした場合に手がかりとなるのが、2番目以降に受診した医療機関の記録です。

日本年金機構は、初診時の医療機関の証明を得ることが難しい場合の対応方法を公表しており、そのなかには、請求の5年以上前に医療機関が作成したカルテの写し等であって、請求者が申し立てた他の医療機関での初診日が記載されているものを用意する方法が挙げられています。

(出典:日本年金機構『障害年金の初診日証明書類のご案内』)

同じ案内では、初診日が20歳前にある場合について、2番目以降に受診した医療機関が作成した受診状況等証明書または診断書を用意する方法も示されています。

ただしこの方法には条件があり、2番目以降に受診した医療機関の受診日から障害認定日が20歳到達日以前であることが確認できること(原則として、その受診日が18歳6か月前にあること)と、その受診日前に厚生年金保険の加入期間がないことの両方を満たす必要があります。

初診日の調べ方や、証明が取れない場合の対処については『障害年金の初診日は調べられる?確認方法と証明できない場合の対処法』でも解説しています。

本事例に関するよくあるご質問

本事例に関連して、よくいただくご質問にお答えします。

いずれも一般的な考え方であり、個別の判断は請求される方の状況によって変わります。

Q. 内科で心の不調を訴えていなくても、その日が初診日になりますか?

その内科の受診が、請求する傷病と医学的にどう結びつくのかによって判断が変わります。

診断名が後に変わっただけで同一の傷病と判断される場合や、内科で診断された傷病と請求傷病との間に相当因果関係が認められる場合には、その受診日が初診日となることがあります。

いずれの場合も、その受診の際にどのような症状について診療を受けていたのかが記録から確認できるかどうかが、判断の材料になります。

本事例でも、まずA内科のカルテを確認しましたが、精神症状に関する記載がありませんでした。

診療科が内科であること自体が問題になるわけではありません。

※個別事案により判断は異なります。

Q. 初診日が20歳前だった場合、保険料納付要件はどうなりますか?

20歳前の年金制度に加入していない期間に初診日がある場合は、保険料納付要件は問われません。

ただし、納付要件が問われないというだけで、障害の状態が障害等級表に定める1級または2級に該当していることは別途必要です。

また、障害の程度を判定する日は障害認定日ですが、障害認定日以後に20歳に達したときは、20歳に達した日となります。

この場合、年金は20歳に達した日の翌月分から受給できます。

なお、初診日が20歳前であっても、その日が厚生年金保険の被保険者期間中であれば、障害厚生年金の対象となり、保険料納付要件が問われます。

20歳前の傷病による障害基礎年金には、ご本人の前年の所得による支給制限もあります。

令和8年10月分からは、前年の所得額が4,918,000円を超える場合は全額が支給停止となり、3,858,000円を超える場合は2分の1が支給停止となります(令和8年9月分までは4,794,000円・3,761,000円。扶養親族がいる場合は所得制限額が加算されます)。

支給停止となる期間は、10月から翌年9月までです。

(出典:日本年金機構『20歳前の傷病による障害基礎年金にかかる支給制限等』更新日2026年4月1日)

20歳前傷病の詳しい取扱いは『20歳前障害年金とは|はじめての人にも分かりやすく解説します』をご覧ください。

Q. 昔のカルテが残っていない場合はどうすればよいですか?

初診の医療機関の証明が得られない場合でも、別の方法が用意されています。

初診日が20歳以降にある場合は、第三者証明2通と、診察券や領収書などの参考資料をあわせて用意する方法があります。

初診日が20歳前にある場合は、2番目以降に受診した医療機関の証明を用意する方法のほか、第三者証明2通のみを用意する方法もあります。

いずれの場合も、初診日頃に受診した医療機関の医療従事者による第三者証明であれば、1通で足りる取扱いがあります。

どの方法が使えるかは、初診日が20歳前かどうかなどによって異なります。

第三者証明については『第三者証明とは|はじめての人にも分かりやすく解説します』で解説しています。

Q. 障害者手帳が2級なら、障害年金も2級になりますか?

障害者手帳の等級と、障害年金の等級は、根拠となる制度も判定の方法も異なります。

そのため、手帳が2級であることをもって障害年金も2級になるとは限らず、逆に手帳より障害年金のほうが上位の等級で認定される事例もあります。

当事務所が関与した事例にも、手帳と年金の等級が一致しなかったものがあります。

※個別事案により判断は異なります。

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本事例に関連する記事をご紹介します。

なお、診断名が途中で変わったことにより、初診日の検討が必要となった事例もございます。

※個別事案により判断は異なります。

障害年金の申請でお困りの方は、わくわく社会保険労務士法人(全国障害年金サポートセンター)までお気軽にお問い合わせください。


※本記事は2026年8月時点の年金法令・障害認定基準に基づき作成しています。
法令改正等により内容が変更される可能性があるため、最新の情報は日本年金機構の公式サイト等でご確認ください。
個別の事案については社会保険労務士等の専門家へのご相談を推奨します。
医学的判断は主治医にご確認ください。

当事務所で申請サポートさせて頂いた、その他のうつ病の方の事例をご紹介します。

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