脳梗塞や脳出血、交通事故などのあとに、記憶や注意力、段取りの力に支障が残る「高次脳機能障害」。外見からは分かりにくく、ご本人にも自覚が乏しいことがあるため、ご家族が「これは障害年金の対象になるのだろうか」と調べ始めるケースが多い障害です。

高次脳機能障害は、障害年金の障害認定基準では「症状性を含む器質性精神障害」として認定の対象に含まれています。本記事では、認定基準上の位置づけ、等級判定の考え方、令和8年度の年金額、診断書の準備、交通事故が原因のときの注意点までを順に解説します。

高次脳機能障害とは(障害年金での位置づけ)

高次脳機能障害は、障害年金の国民年金・厚生年金保険障害認定基準(以下「障害認定基準」)において、「精神の障害」の中の症状性を含む器質性精神障害に含まれるものとして扱われます。診断名そのものではなく、日常生活や労働にどの程度の制約があるかによって認定が行われる点が、まず押さえておきたい前提です。

障害認定基準では「症状性を含む器質性精神障害」に含まれる

障害認定基準は、高次脳機能障害を次のように位置づけています。

症状性を含む器質性精神障害(高次脳機能障害を含む。)とは、先天異常、頭部外傷、変性疾患、新生物、中枢神経等の器質障害を原因として生じる精神障害に、膠原病や内分泌疾患を含む全身疾患による中枢神経障害等を原因として生じる症状性の精神障害を含むものである。

(出典:国民年金・厚生年金保険障害認定基準(令和4年4月1日改正版)第8節 精神の障害)

脳梗塞・脳出血・くも膜下出血などの脳血管疾患、頭部外傷、脳腫瘍、脳炎、低酸素脳症など、原因はさまざまですが、いずれも同じ「精神の障害」の区分で認定されます。

認定の対象となる主な症状

障害認定基準は、高次脳機能障害を「脳損傷に起因する認知障害全般」とし、日常生活または社会生活に制約があるものが認定の対象になるとしています。主な症状として挙げられているのは、失語、失行、失認のほか、記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害です。

なお、症状の医学的な評価や治療については主治医の領域です。本記事では、障害年金の認定基準に沿った制度面の解説を行います。

高次脳機能障害で障害年金を受給できる可能性

高次脳機能障害の方が障害年金を受給できるかどうかは、傷病名ではなく、3つの受給要件を満たすかどうかで判断されます。とくに初診日の特定は、その後の手続き全体の土台になる重要なポイントです。

3つの受給要件

障害年金を受給するには、次の3つの要件をすべて満たす必要があります。

  1. 初診日要件:障害の原因となった傷病で初めて医師又は歯科医師の診療を受けた日(初診日)が、所定の期間内にあること
  2. 保険料納付要件:初診日の前日において、初診日のある月の前々月までの被保険者期間のうち、保険料納付済期間と免除期間が3分の2以上あること(初診日が令和18年3月末日までにあり、初診日において65歳未満であれば、初診日のある月の前々月までの直近1年間に未納がなければよいという特例があります)
  3. 障害状態要件:障害認定日等において、障害等級に該当する状態にあること

初診日にどの制度に加入していたかで、受け取れる年金の種類と等級が変わります。

初診日の加入制度受給できる年金と等級
国民年金に加入中(自営業・学生・第3号被保険者の方等)1級・2級 → 障害基礎年金 / 3級相当 → 原則として支給対象外
厚生年金に加入中(会社員・公務員の方等)1級・2級 → 障害基礎年金 + 障害厚生年金 / 3級 → 障害厚生年金のみ
20歳前で、年金制度に加入していない期間1級・2級 → 障害基礎年金 / 3級相当 → 原則として支給対象外
60歳以上65歳未満で日本国内に居住し、年金制度に加入していない期間(老齢基礎年金を繰上げ受給している方を除く)1級・2級 → 障害基礎年金 / 3級相当 → 原則として支給対象外

障害基礎年金には3級がありません。高次脳機能障害では3級に相当する状態と判断されるケースもありますが、その場合に年金を受給できるのは、初診日に厚生年金に加入していた方に限られます。なお、20歳前であっても厚生年金の被保険者期間中に初診日がある場合は、20歳以降と同じく障害厚生年金(1〜3級)の対象です。

受給要件の全体像は、障害年金をもらえる人|3つの受給要件 でも詳しく解説しています。

原因別の初診日の考え方

高次脳機能障害の初診日は、原因となった傷病によって考え方が変わります。

  • 脳梗塞・脳出血・くも膜下出血などの脳血管疾患が原因の場合:その脳血管疾患で初めて医療機関を受診した日(救急搬送された日を含む)
  • 交通事故・転落などの頭部外傷が原因の場合:事故により初めて医療機関を受診した日
  • 脳炎・脳腫瘍・低酸素脳症などが原因の場合:その傷病で初めて医療機関を受診した日

いずれも「高次脳機能障害と診断された日」ではなく、原因となった傷病で最初に受診した日が初診日になるのが原則です。診断名が後から付いたケースでも、前の傷病との間に相当因果関係があると認められる場合には、最初の傷病の初診日が採用されます。詳しくは 障害年金の「相当因果関係」とは をご参照ください。

20歳前・60歳以上65歳未満に初診日がある場合

20歳前の年金制度に加入していない期間に初診日がある場合、保険料納付要件は問われません。ただし、20歳前の傷病による障害基礎年金には本人の前年所得による支給制限があります。

  • 扶養親族等がいない場合、前年所得が3,761,000円を超えると2分の1が、4,794,000円を超えると全額が支給停止となります
  • 扶養親族等がいる場合は、原則1人につき38万円(老人控除対象配偶者・老人扶養親族は48万円、特定扶養親族または19歳未満の控除対象扶養親族は63万円)が基準額に加算されます
  • 支給停止の対象期間は10月分から翌年9月分までです(受給権が消えるわけではなく、所得が下がれば支給が再開されます)
  • このほか、恩給や労災保険の年金等を受給しているときは調整が行われ、海外に居住したときや矯正施設に入所した場合(有罪が確定していない場合を除く)も支給が停止されます

また、60歳以上65歳未満で日本国内に住み、年金制度に加入していない期間の初診日も障害基礎年金の対象ですが、老齢基礎年金を繰上げ受給している方は対象になりません。

いつから請求できる?障害認定日の考え方

「1年6か月を待たずに請求できると聞いた」というご相談は、脳血管疾患のケースでとくに多く寄せられます。ただし、高次脳機能障害については取扱いが異なる可能性があるため、注意が必要な論点です。

原則は初診日から1年6か月経過した日

障害認定日は、原則として初診日から1年6か月を経過した日、またはその期間内に傷病が治った(症状が固定した)日です。障害認定日に障害等級に該当していれば「障害認定日による請求」ができ、該当しなかった場合でも、その後悪化して等級に該当したときは事後重症による請求を行えます。障害認定日による請求は、認定日から時間が経ってから行うこともでき、その場合は時効により最大5年分までさかのぼって支給されます(この形が一般に「遡及請求」と呼ばれます)。

なお、20歳前の年金未加入期間に初診日があり、本来の障害認定日(初診日から1年6か月経過日等)も20歳前になる場合は、20歳に達した日(20歳の誕生日の前日)が障害認定日となります。本来の障害認定日が20歳以後になる場合は、原則どおりその障害認定日(初診日から1年6か月経過日等)が基準となります。

脳血管障害の特例と、高次脳機能障害での注意点

障害認定基準は、第9節「神経系統の障害」の認定要領(4)アにおいて、脳血管障害により機能障害を残しているときは、初診日から6か月を経過した日以後に、医学的観点からそれ以上の機能回復がほとんど望めないと認められるときは、1年6か月の経過を待たずに障害認定日として取り扱うと定めています。

(出典:国民年金・厚生年金保険障害認定基準(令和4年4月1日改正版)第9節 神経系統の障害)

ただし、これは「6か月経てば一律に障害認定日になる」という意味ではありません。判断の軸は、リハビリテーションを実施しているかどうかではなく、医学的観点からそれ以上の機能回復がほとんど望めないと認められるかです。したがって、リハビリを継続していることだけを理由に症状固定が否定されるわけではなく、今後の機能回復の見込み、症状の推移、主治医の医学的所見などから個別に判断されます。

さらに、高次脳機能障害は第8節「精神の障害」で認定される障害であり、認定基準は次のように述べています。

なお、障害の状態は、代償機能やリハビリテーションにより好転も見られることから療養及び症状の経過を十分考慮する。

(出典:同基準 第8節 精神の障害)

つまり、症状の経過を十分に考慮したうえで判断される領域であり、症状固定の判断は慎重に行われます。麻痺などの機能障害と高次脳機能障害を併せ持つ方の場合、どの障害を軸に、いつの時点で請求するかは、個別の事案により判断が異なります。診断書を作成する主治医の見解と併せて検討することが大切です。

くも膜下出血の後遺症で、症状固定日を障害認定日として障害厚生年金1級が認定された事例

※個別事案により判断は異なります。

高次脳機能障害の障害年金は何級?等級判定の目安

等級は、診断名や画像所見だけで決まるものではなく、認知障害や人格変化などによって日常生活・労働がどの程度制限されているかによって判断されます。障害認定基準の例示と、精神の障害に係る等級判定ガイドラインの2つが判断の柱です。

障害認定基準の等級例示

障害認定基準は、症状性を含む器質性精神障害について、各等級に相当するものを次のように例示しています。

等級障害の状態(例示)
1級高度の認知障害、高度の人格変化、その他の高度の精神神経症状が著明なため、常時の援助が必要なもの
2級認知障害、人格変化、その他の精神神経症状が著明なため、日常生活が著しい制限を受けるもの
3級①認知障害、人格変化は著しくないが、その他の精神神経症状があり、労働が制限を受けるもの ②認知障害のため、労働が著しい制限を受けるもの
障害手当金認知障害のため、労働が制限を受けるもの

(出典:同基準 第8節 精神の障害)

前述のとおり、3級と障害手当金は障害厚生年金のみの取扱いです。また、障害手当金は等級ではなく一時金であり、受け取るには次の要件を満たす必要があります。

  • 厚生年金の被保険者である間に初診日があること
  • 保険料納付要件を満たしていること
  • 初診日から5年以内に傷病が治り(症状が固定し)、その日に障害厚生年金3級より軽い一定の障害が残っていること

なお、公的年金(国民年金・厚生年金・共済年金)を受給している場合や、その傷病について労働基準法・労災保険法等による障害補償を受ける権利がある場合などは、上記の要件を満たしていても障害手当金を受給できないことがあります。

障害手当金の詳細は 障害手当金とは をご参照ください。

精神の障害に係る等級判定ガイドラインと総合評価

精神の障害については、地域差をなくす目的で「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」(厚生労働省が策定、平成28年9月1日実施)が運用されています。症状性を含む器質性精神障害はこのガイドラインの対象傷病に含まれます(てんかんは対象外とされ、障害認定基準により認定されます)。

ガイドラインでは、診断書の「日常生活能力の判定」の平均値と「日常生活能力の程度」の組み合わせから障害等級の目安を示したうえで、療養状況、生活環境、就労状況などの要素を考慮して、認定医が総合的に判定するとされています。目安はあくまで参考であり、目安と異なる認定結果となることもあり得る旨がガイドラインに明記されています。

なお、器質性精神障害の総合評価では、「精神障害」「知的障害」「発達障害」の区分にとらわれず、該当または類似する考慮要素を用いて評価するものとされています。

受給できる場合の金額(令和8年度)

受給できる金額は、初診日にどの年金制度に加入していたか、そして認定された等級によって変わります。ここでは令和8年度(2026年4月分から)の金額を掲載します。

障害基礎年金の年金額

初診日に国民年金に加入していた方、20歳前や60歳以上65歳未満の非加入期間に初診日がある方が対象です。

等級年額(令和8年度)月額換算
1級1,059,125円約88,260円
2級847,300円約70,608円
  • 昭和31年4月1日以前にお生まれの方は別額です(1級 1,056,125円、2級 844,900円)
  • 子の加算の対象となる子は、18歳になった後の最初の3月31日までの子、または20歳未満で障害等級1級・2級の状態にある子で、生計を維持されている方です。加算額は第1子・第2子が各243,800円、第3子以降が各81,300円です
  • 障害基礎年金を受給し、一定の所得要件を満たす方には、障害年金生活者支援給付金(令和8年度:1級 月額7,025円、2級 月額5,620円)が上乗せされます

障害厚生年金の年金額

初診日に厚生年金に加入していた方は、1級・2級であれば障害基礎年金に障害厚生年金が上乗せされます。3級は障害厚生年金のみの支給です。

等級障害厚生年金の額(令和8年度)
1級報酬比例の年金額 × 1.25 + 配偶者加給年金額(243,800円)
2級報酬比例の年金額 + 配偶者加給年金額(243,800円)
3級報酬比例の年金額(最低保障額 635,500円)
障害手当金(一時金)報酬比例の年金額 × 2(最低保障額 1,271,000円)
  • 上の表は障害厚生年金の額です。1級・2級の方は、これに障害基礎年金(1級 1,059,125円/2級 847,300円)が併せて支給されます(3級は障害厚生年金のみ)。ただし、65歳以降に厚生年金加入中の初診日がある場合は、1級・2級であっても障害基礎年金は支給されず、障害厚生年金のみとなる場合があります
  • 報酬比例の年金額は過去の標準報酬に基づくため、個人差が大きくなります(被保険者期間が300月未満の場合は300月とみなして計算されます)
  • 配偶者加給年金額の対象は、生計を維持されている65歳未満の配偶者です。配偶者が老齢厚生年金・退職共済年金(加入期間20年以上等)の受給権を有するときや、障害年金を受け取る間は支給停止となります
  • 3級の最低保障額と障害手当金の最低保障額は、昭和31年4月1日以前にお生まれの方は別額です(それぞれ633,700円、1,267,400円)

金額の詳細は 【2026年度(令和8年度)】障害年金でもらえる金額はいくら? でも解説しています。

申請のポイント(診断書の様式と書類の組み立て)

障害年金は書類審査です。症状の重さそのものではなく、日常生活や就労上の支障が書類に反映されているかが結果を大きく左右します。高次脳機能障害では、症状が多岐にわたるため、どの診断書を用意するかという最初の設計が特に重要になります。

どの診断書様式を使うか

高次脳機能障害は「精神の障害」に区分されるため、認知障害が中心であれば精神の障害用の診断書(様式第120号の4)を使用するのが基本です。

一方で、脳血管疾患や頭部外傷では、麻痺や言語の障害を併せ持つことが少なくありません。障害の状態を最も的確に記入できる診断書を用い、場合によっては2種類以上を提出することになります。

主な障害の中心使用する診断書の様式
記憶障害・注意障害・遂行機能障害等の認知障害精神の障害用(様式第120号の4)
手足の麻痺など肢体の機能障害肢体の障害用(様式第120号の3)
失語症・構音障害など聴覚・鼻腔機能・平衡機能・そしゃく・嚥下機能・音声又は言語機能の障害用(様式第120号の2)

診断書は、精神科のほか、脳神経外科・脳神経内科・リハビリテーション科等の主治医に作成を依頼するケースもあります。どの科の医師に依頼するかは、症状の中心と通院状況によって異なります。

高次脳機能障害で障害厚生年金1級が認定された事例(交通事故が原因のケース)

※個別事案により判断は異なります。

診断書の「現症日」と枚数

診断書には、いつの時点の状態を記載するかという現症日の決まりがあります。

  • 障害認定日による請求:障害認定日後3か月以内の現症の診断書が必要です
  • 障害認定日から1年以上経過して請求する場合:認定日後3か月以内の診断書に加えて、請求日前3か月以内の現症の診断書も必要になります(合計2通)
  • 事後重症による請求:請求日前3か月以内の現症の診断書が必要です
  • 20歳前の年金未加入期間に初診日があり、本来の障害認定日も20歳前になる場合:障害認定日は20歳に達した日となり、診断書は20歳到達日の前後3か月以内の現症のものを用意します。本来の障害認定日(初診日から1年6か月経過日等)が20歳以後になる場合は、その障害認定日後3か月以内の現症の診断書が必要です

事後重症による請求は請求した月の翌月分からの支給で、さかのぼりはありません。また、原則として65歳の誕生日の前々日までに請求書を提出する必要があります。

診断書の準備については 障害年金の申請は「診断書」で9割が決まる!? もあわせてご覧ください。

複数の障害がある場合の考え方

「複数の診断書を出せば等級が上がる」と説明されることがありますが、障害認定基準の取扱いは分けて理解する必要があります。

  • 症状性を含む器質性精神障害と、その他の精神疾患が併存している場合:障害認定基準は「併合(加重)認定の取扱いは行わず、諸症状を総合的に判断して認定する」としています(第8節)
  • 失語症など音声又は言語機能の障害:認定基準は「本章『第6節 音声又は言語機能の障害』の認定要領により認定する」と定めており、第6節は音声又は言語機能の障害が肢体の障害・精神の障害と併存する場合について「併合認定の取扱いを行う」としています
  • 肢体の障害を併せ持つ場合:それぞれの障害について認定を行い、併合認定の対象となり得ます

また、障害認定基準は、脳の器質障害について「精神障害と神経障害を区分して考えることは、その多岐にわたる臨床症状から不能であり、原則としてそれらの諸症状を総合して、全体像から総合的に判断して認定する」としています。複数の診断書を提出すれば必ず上位等級になるというものではなく、どの障害を軸に組み立てるかを見極めることが実務上のポイントです。

小脳出血で構音障害・高次脳機能障害を併発し、体幹機能の障害に絞って請求して障害厚生年金2級・遡及が認められた事例

※個別事案により判断は異なります。

病歴・就労状況等申立書に日常生活の実際を反映させる

高次脳機能障害では、ご本人が症状を自覚しづらく、診察の場でも「できます」と答えてしまうことがあります。声かけや見守り、確認がどれだけ必要かという点は、ご家族や支援者にしか分からない部分です。日々の困りごとを具体的に記録し、病歴・就労状況等申立書に落とし込むことが、診断書との整合を取るうえで役立ちます。

書き方は 【自分で書ける】病歴・就労状況等申立書の書き方 をご参照ください。

請求書の様式と提出先

年金請求書は、初診日の加入制度によって様式と提出先が異なります。

請求する年金年金請求書の様式提出先
障害基礎年金様式第107号原則として住所地の市区町村役場(初診日が国民年金第3号被保険者期間中の場合は年金事務所または街角の年金相談センター)
障害厚生年金・障害手当金様式第104号年金事務所または街角の年金相談センター

申請の全体の流れは 障害年金の申請から受給までの流れ、必要書類は 障害年金の必要書類一覧 で確認できます。

交通事故・労災が原因のときの注意点

高次脳機能障害は、交通事故や労災事故を原因とするケースが少なくありません。この場合、通常の請求書類に加えて、事故関係の書類が必要になります。

第三者行為による障害の添付書類

書類の要否を決めるのは、交通事故か労災事故かという事故の種類ではなく、障害の原因が第三者(加害者)の行為によるものかどうかです。年金請求書でも「傷病の原因は業務上か」と「障害の原因は第三者の行為によるか」は別々に確認され、第三者の行為による場合に第三者行為事故状況届等を提出する仕組みです。

交通事故・傷害事件など障害の原因が第三者の行為による場合は、次のような書類の提出が求められます。第三者が関与しない自損事故や労災事故では、この届が一律に必要になるわけではありません(ただし、労災給付を受けている場合は、その受給を確認できる書類が別途必要になることがあります)。

  • 第三者行為事故状況届(所定の様式)
  • 交通事故証明または事故が確認できる書類
  • 確認書(所定の様式)
  • 被害者に被扶養者がいる場合、扶養していたことが分かる書類
  • 損害賠償金の算定書(すでに損害賠償額が決定している場合)
  • 損害保険会社等への照会に係る同意書(所定の様式)

なお、第三者行為による障害で加害者から損害賠償を受けた場合は、二重の補償を避けるため、損害賠償金のうち休業損害・逸失利益など生活補償に相当する部分と障害年金等との調整が行われ、障害年金または障害手当金が一定期間支給されないことがあります(慰謝料や実際の医療費等がそのまま調整対象になるわけではありません)。平成27年10月1日以後に発生した事故では、支給を行わない期間は事故発生の翌月から起算して最長36か月が上限とされています。損害賠償金の算定書は、この調整のために必要となる書類です。

交通事故による後遺症(軽度の高次脳機能障害を含む)で障害厚生年金2級が認定された事例

※個別事案により判断は異なります。なお、損害賠償請求そのものについては弁護士へのご相談をおすすめします。

労災保険・傷病手当金との関係

同一の事由で労災保険の年金給付と障害年金を受ける場合、原則として障害年金は全額支給され、調整によって減額されるのは労災保険の給付の側です。また、同一の傷病で傷病手当金と障害厚生年金を受けられる場合は、傷病手当金の側が支給停止となり、傷病手当金の日額が障害年金等の日額を上回るときはその差額が支給されます。

ただし、20歳前の傷病による障害基礎年金は例外です。この障害基礎年金は本人が保険料を納めていない(無拠出)ことから、労災保険の年金等を受けているときは、その受給額の範囲で障害基礎年金の側が支給停止となります(国民年金法第36条の2)。ご自身がどちらのケースに当たるかは、初診日の加入制度によって異なります。

「もらえない」と言われるケースと、その後の選択肢

高次脳機能障害で不支給や非該当となるケースには、一定の傾向があります。認定の仕組みから逆算して、事前に備えられる部分を確認しておきましょう。

生活上の支障が書類に表れていないケース

もっとも多いのは、実際の生活には多くの援助が必要であるにもかかわらず、その実態が診断書や申立書に表れていないケースです。診察室でのやり取りは短時間であり、症状の自覚が乏しい場合には「できています」と伝わってしまうことがあります。

また、就労している事実だけが記載され、職場の配慮の内容が伝わらないケースもあります。障害認定基準は、労働に従事していることをもって直ちに日常生活能力が向上したとは捉えず、仕事の種類・内容・就労状況・職場で受けている援助の内容等を十分確認したうえで判断するとしています。就労中であることが直ちに不支給を意味するわけではありません。

記憶障害・遂行機能障害があり、一人暮らしの方が障害基礎年金2級に認定された事例

※個別事案により判断は異なります。

不支給となった後の選択肢

不支給の決定を受けた場合、次の2つは目的が異なる手続きです。

  • 決定そのものに納得できない場合:審査請求(処分があったことを知った日の翌日から3か月以内に社会保険審査官へ)。その決定にさらに不服がある場合は、決定書の謄本が送付された日の翌日から2か月以内に社会保険審査会へ再審査請求
  • 書類を整え直す、あるいはその後に症状が悪化した場合:再請求(事後重症による請求等)

再請求は、当初の決定を取り消すものではありません。また、事後重症による請求は請求した月の翌月分からの支給となり、請求が遅れるとその分だけ支給開始も遅くなります(原則として65歳の誕生日の前々日までの請求が必要です)。時期を空けずに、早めに検討することが大切です。

なお、障害年金は障害の状態が固定していると見込まれる場合を除き有期認定となり、更新(再認定)の際に障害状態確認届の提出が必要です。高次脳機能障害は、認定基準上も代償機能やリハビリテーションによる好転が見られるとされている領域であり、更新時にも生活状況を正確に伝えることが重要になります。

更新については 【丸わかり】障害年金の更新について をご覧ください。

高次脳機能障害・脳血管疾患の事例

弊事務所では、高次脳機能障害や脳血管疾患の後遺症で障害年金を申請される方のサポートを数多く手がけています。以下は、実際に支援した事例の一部です。

※個別事案により判断は異なります。同じような状態でも、初診日・納付状況・診断書の内容により結果は異なります。

関連する疑問

高次脳機能障害の申請を検討される際に、あわせて確認されることの多いテーマをまとめました。

まとめ

高次脳機能障害は、障害認定基準上「症状性を含む器質性精神障害」に含まれ、障害年金の認定対象とされています。押さえておきたいポイントは次のとおりです。

  • 等級は診断名ではなく、認知障害等による日常生活・労働への制限の程度で判断される
  • 障害基礎年金は1級・2級のみ。3級と障害手当金は、初診日に厚生年金に加入していた方が対象
  • 障害認定日は原則として初診日から1年6か月経過日。脳血管障害の特例(第9節)はあるが、6か月経過で一律に認定されるものではない
  • 麻痺や失語を伴う場合、どの診断書を軸に組み立てるかが実務上の分かれ目になる
  • 障害の原因が第三者の行為による場合(交通事故・傷害事件など)は、第三者行為事故状況届など追加の書類が必要で、損害賠償を受けたときは障害年金と調整される

外見から分かりにくい障害だからこそ、日々の生活の実際を書類に反映させることが受給の可能性を高めます。

障害年金申請のご相談は、わくわく社会保険労務士法人(全国障害年金サポートセンター)までお気軽にお問い合わせください。


※本記事は2026年7月時点の年金法令・障害認定基準に基づき作成しています。法令改正等により内容が変更される可能性があるため、最新の情報は 日本年金機構の公式サイト 等でご確認ください。個別の事案については社会保険労務士・弁護士等の専門家へのご相談を推奨します。医学的判断は主治医にご確認ください。