障害年金の遡及(そきゅう)請求とは

はじめに

はじめに

「障害年金の制度を最近知った」「初診日から長期間が経過している」というご相談を、弊事務所では多くいただきます。

実は、障害認定日時点ですでに障害認定基準上の等級に該当していた場合、一定の条件を満たせば過去にさかのぼって障害年金を請求できる可能性があります。

これを「遡及請求(そきゅうせいきゅう)」と呼びます。

ただし、時効により遡及できる期間は最大5年に限られ、診断書の取得などにも特有の論点があります。

本記事では、遡及請求の定義・3つの要件・5年時効の根拠条文・必要書類・難しいケースへの対応・関連事例の 6つのポイント で解説します。

障害年金の遡及請求とは

障害年金の遡及請求とは

遡及請求とは、障害認定日時点ですでに障害等級に該当していた場合に、過去にさかのぼって障害年金を請求する方法です。

条件を満たせば、最大で過去5年分が一時金として支給される可能性があります。

制度上、遡及請求は「障害認定日請求」のうち、障害認定日から1年以上経過した後に行われたものを指す一般的な呼称です。

日本年金機構の公式サイトでは「障害認定日による請求」と「事後重症による請求」の2区分で説明されており、「遡及請求」は法令上の正式な区分名ではありません。

遡及請求が認められた場合、年金は障害認定日の翌月分にさかのぼって発生します。

ただし、年金を受け取る権利は5年で時効消滅するため、初回振込時に過去最大5年分が一時金として支給されるしくみです。

数百万円規模の一時金になるケースもありますが、最終的な認定可否や等級は日本年金機構の認定医の審査によって決まり、個別事案により判断は異なります。

認定日請求・遡及請求・事後重症請求の違い

認定日請求・遡及請求・事後重症請求の違い

障害年金の請求方法は、障害認定日時点の状態と請求のタイミングによって3つに整理されます。

遡及請求を正しく理解するには、まず認定日請求と事後重症請求との違いを押さえることが大切です。

ご自身がどの請求方法に該当するかを最初にご確認ください。

認定日請求(本来請求)

障害認定日時点ですでに等級に該当しており、請求もそのタイミング近くで行う最も基本的な方法です。

障害認定日(原則として初診日から1年6ヶ月を経過した日、または1年6ヶ月以内に症状が固定した場合はその日)時点で障害認定基準上の等級に該当しており、障害認定日から1年以内に請求した場合は「本来請求」と呼ばれます。

年金は障害認定日の翌月分から支給開始されます。

遡及請求(認定日請求のうち1年以上経過したもの)

障害認定日時点では等級に該当していたものの、何らかの事情で請求が遅れた場合の請求方法です。

障害認定日から1年以上経過してから請求する場合、制度上は「認定日請求」と同じ枠組みですが、結果として過去分の年金が一時金で支給されるため「遡及請求」と一般に呼ばれます。

年金の発生時点は障害認定日の翌月分ですが、後述する5年時効により、支給される過去分は 最大5年分 にとどまります。

事後重症請求

障害認定日時点では等級非該当だったものの、その後悪化して等級に該当するようになった場合の請求方法です。

事後重症請求では、請求した月の翌月分から年金が支給され、過去にさかのぼった一時金は発生しません。

また、原則として 65歳の誕生日の前々日までに請求する必要があります

3つの請求方法を整理すると次のようになります。

請求方法障害認定日時点の状態提出する診断書支給開始過去分の支給
認定日請求(本来請求)等級に該当障害認定日以後3か月以内の診断書1通認定日の翌月分からあり
遡及請求等級に該当障害認定日以後3か月以内+請求日前3か月以内の2通認定日の翌月分から最大5年分(時効による)
事後重症請求等級に非該当請求日前3か月以内の1通請求月の翌月分からなし

※20歳前傷病など一部の請求では診断書の現症日の扱いが異なる場合があります。詳細は年金事務所でご確認ください。

遡及請求の3つの要件

遡及請求の3つの要件

遡及請求が認められるためには、原則として次の3つの要件をすべて満たす必要があります。

法令と障害認定基準に基づく要件であり、ご自身が対象になるかを確認するための基本となります。

具体的な該当性は個別の事情によって異なりますので、ご検討段階で年金事務所や社労士へのご相談もあわせてご検討ください。

障害認定日時点で障害認定基準上の等級に該当していたこと

遡及請求の中核要件は、過去のある時点(障害認定日)で、すでに障害等級に該当する状態にあったことです。

「障害認定日」とは、原則として初診日から1年6ヶ月を経過した日、または1年6ヶ月以内に症状が固定した場合はその日を指します。

ただし、人工関節・人工骨頭の挿入置換、人工透析、ペースメーカー・ICDの装着、人工肛門の造設、喉頭全摘出、在宅酸素療法の開始など、1年6ヶ月以内でも障害認定日が別に定まる場合があります

ご自身の傷病に該当するかは年金事務所でご確認ください。

障害認定日時点で 障害認定基準上の1級・2級(障害厚生年金は3級も含む) に該当していたと判断される必要があります。

障害認定基準上は、日常生活能力や就労状況、症状経過などを総合的にみて等級が判断される傾向があります。

具体的な等級判定は日本年金機構の認定医の審査によるため、個別事案により判断は異なります。

障害認定日時点の診断書が取得できること

遡及請求では、現在の状態だけでなく、過去の障害認定日時点の状態を医師が記載した診断書が必要となります。

原則として 障害認定日以後3か月以内 の現症が記載された診断書が必要です(20歳前傷病など一部のケースでは扱いが異なるため、年金事務所でご確認ください)。

診断書はカルテに基づく作成が原則とされており、当時のカルテが残っていることが前提となります。

医師法上、カルテの保存期間は原則5年とされているため、初診日から長期間が経過しているケースでは、カルテが廃棄されている、医療機関が閉院しているなどの理由で診断書を取得できない場合があります。

このような場合の対応は本記事の後半で解説します。

診断書作成の可否や記載内容については主治医にご相談ください。

初診日要件・保険料納付要件を満たしていること

遡及請求の前提として、通常の障害年金と同様に初診日要件と保険料納付要件を満たす必要があります。

初診日とは、障害の原因となった傷病で初めて医師の診療を受けた日を指します。

初診日における加入制度(国民年金か厚生年金か)によって、受給する年金の種類が決まります。

保険料納付要件は、原則として 初診日のある月の前々月までの被保険者期間で、保険料納付済期間と免除期間の合計が3分の2以上 であることです。

特例として、初診日が 令和18年(2036年)3月末日まで にあり、かつ初診日において 65歳未満 である場合は、初診日のある月の前々月までの直近1年間に未納がないことでも要件を満たします。

なお、初診日が20歳前の年金制度に加入していない期間にある場合(20歳前傷病)は、保険料納付要件は問われません。

詳しくは初診日が20年以上前で障害年金を請求する場合もあわせてご参照ください。

5年時効のしくみと過去分の試算

5年時効のしくみと過去分の試算

遡及請求で「最大5年分」とされる根拠は、国民年金法および厚生年金保険法に定められた時効規定にあります。

なぜ5年が上限となるのかを法令条文をもとに確認しておきましょう。

時効の根拠条文

障害年金を受け取る権利には「基本権」と「支分権」の2種類があります。

基本権は年金を受給する権利そのもの、支分権は各支払期月ごとに年金を受け取る請求権を指します。

両法では次のように定められています。

国民年金法第102条第1項 年金給付を受ける権利は、その支給すべき事由が生じた日から五年を経過したとき、当該権利に基づき支払期月ごとに支払うものとされる年金給付の支給を受ける権利は、当該日の属する月の翌月以後に到来する当該年金給付の支給に係る第十八条第三項本文に規定する支払期月の翌月の初日から五年を経過したときは、時効によつて、消滅する。

(出典:e-Gov法令検索『国民年金法』)

厚生年金保険法第92条第1項 保険料その他この法律の規定による徴収金を徴収し、又はその還付を受ける権利は、これらを行使することができる時から二年を経過したとき、保険給付を受ける権利は、その支給すべき事由が生じた日から五年を経過したとき、当該権利に基づき支払期月ごとに支払うものとされる保険給付の支給を受ける権利は、当該日の属する月の翌月以後に到来する当該保険給付の支給に係る第三十六条第三項本文に規定する支払期月の翌月の初日から五年を経過したときは、時効によつて、消滅する。

(出典:e-Gov法令検索『厚生年金保険法』)

これらの規定により、各支払期月に支払うべき年金の請求権(支分権)は、支払期月の翌月の初日から5年を経過すると消滅します。

基本権についても5年で時効消滅しますが、やむを得ない事情により時効完成前に請求できなかった場合には「年金裁定請求の遅延に関する申立書」を提出することで、基本権を時効消滅させない取扱いが行われる運用となっています。

ただし、日本年金機構の案内によれば、平成19年7月7日以降に受給権が発生した年金については、時効を援用しない取扱いにより申立書の提出が不要となる場合があります

詳しくは年金事務所でご確認ください。

5年遡及の具体例

時効の規定により、障害認定日が何年前であっても遡及して支給されるのは「直近の5年分」までとなります。

例えば、障害認定日が8年前で、遡及請求により2級認定された場合を考えてみましょう。

本来、認定日翌月から請求月までの約8年分が支給対象となりますが、時効により請求できるのは 直近5年分 までです。

それ以前(約3年分)は時効により消滅します。

具体的な金額については年度ごとに改定されるため、最新の年金額は令和8年度(2026年度)の障害年金額をご参照ください。

過去年度分の試算は、各年度の年金額にもとづいて計算されます。

遡及請求の必要書類と申請の流れ

遡及請求の必要書類と申請の流れ

遡及請求では、通常の障害年金請求書類に加えて、過去の状態を証明するための書類が追加で必要となります。

提出漏れを防ぐためにも、必要書類を事前に整理しておきましょう。

必要書類

遡及請求では、認定日請求の基本書類に加えて、特に診断書が2通必要となる点が大きな特徴です。

主な書類は次のとおりです。

  • 障害認定日時点の診断書(障害認定日以後3か月以内の現症)
  • 請求日時点の診断書(請求日前3か月以内の現症)
  • 受診状況等証明書(初診日の証明、初診医療機関で作成するのが原則)
  • 病歴・就労状況等申立書(発症から現在までの病歴・日常生活状況を時系列で記載)
  • 年金請求書(障害基礎年金または障害厚生年金)
  • 戸籍謄本・住民票・通帳のコピー等(状況により必要)

戸籍謄本・住民票・通帳のコピーについては、マイナンバーの登録・記入や公金受取口座の利用などにより、添付が省略できる場合があります。

最新の取扱いは年金事務所でご確認ください。

申立書の詳しい書き方は病歴・就労状況等申立書の自分での書き方で解説しています。

また、遡及請求が認められなかった場合に備え、認定日による請求と事後重症による請求をあわせて行う旨の同意を最初から記載しておくことが実務上一般的です。

令和7年6月1日施行の様式変更により、現行の年金請求書(様式第107号)では、この同意が請求書本体の「事後重症請求に関する確認事項」欄に組み込まれています

該当項目に丸を付けておくことで、遡及不認定の場合でも現在症による事後重症請求への切り替えが審査されるため、改めて請求し直す手間を省くことができます。

※令和7年5月以前の旧様式では、「障害給付 請求事由確認書」という独立した書類を別途添付する運用でした。旧様式での提出も引き続き受け付けられますが、現在の標準的な実務は新様式(一体化版)です。

申請の流れ

遡及請求は通常の請求と比べて書類が多くなるため、計画的に進めることが重要です。

一般的な流れは次のとおりです。

  1. 年金事務所への事前相談(初診日・納付要件の確認)
  2. 受診状況等証明書を初診医療機関に依頼
  3. 障害認定日時点の診断書を当時の医療機関に依頼
  4. 請求日時点の現症診断書を主治医に依頼
  5. 病歴・就労状況等申立書の作成
  6. 必要書類をそろえて年金事務所(または市区町村役場)に提出
  7. 審査(数ヶ月程度を要するケースが多いです)

個別の症状や診断書の記載については主治医にご相談ください。書類作成や手続き全体のサポートは社会保険労務士の専門領域となります。

遡及請求が認められにくいケースと対応

遡及請求は通常の請求よりも証明のハードルが高く、認められないケースもあります。

ここでは典型的に難しいパターンと、対応策の考え方をご紹介します。

状況に応じた対応は個別の事情で大きく異なりますので、検討材料としてご活用ください。

カルテが残っていない場合

カルテが残っていない場合

カルテの保存期間経過や医療機関の閉院により、当時の書類が取得できないケースは少なくありません。

対応は「初診日の証明」と「障害認定日時点の状態の証明」で論点が異なります。

初診日の証明が難しい場合

初診日の証明が難しい場合

医師法上、カルテの保存期間は原則5年と定められているため、初診日から長期が経過している場合は、カルテが廃棄されている、医療機関が閉院しているなどの理由で受診状況等証明書が取得できないことがあります。

このような場合は、「受診状況等証明書が添付できない申立書」(日本年金機構の正式書類)を作成し、当時の診察券・お薬手帳・領収書・第三者証明・健康診断記録などの参考資料を添付して、初診日を補強します。

第三者証明は原則として2名以上の作成が求められ、書類全体の整合性で初診日が判断されます。

障害認定日時点の状態の証明が難しい場合

障害認定日時点の状態は、当時の診断書・診療録・お薬手帳・病歴就労状況等申立書などで補うことになります。

当時の主治医が他院へ移られているケースでは、診療録の写しを取り寄せて新たに作成いただける場合もあります。

書類の収集や評価は専門的な判断を要するため、お困りの場合は弊事務所にご相談ください。

障害認定日時点の等級該当を証明しにくい場合

当時の症状が比較的軽かった、診断書の内容が等級に届きにくい場合などは、遡及が認められないこともあります。

このような場合は、前述のとおり 年金請求書の「事後重症請求に関する確認事項」欄で該当項目を選択 しておくことで、遡及が認められなかった場合でも、現在症による事後重症請求として審査が継続される運用となります。

最初から両方の可能性を踏まえて記載しておくことが、結果として時間とご負担を減らすことにつながります。

不支給となった場合は、決定があったことを知った日の翌日から3か月以内に審査請求を行う選択肢もあります。

個別事案により判断は異なりますので、状況に応じた対応をご検討ください。

遡及請求が認められた事例

弊事務所では、これまで多くの方の遡及請求をサポートしてきました。

代表的な事例の一部を以下にご紹介します。なお、いずれの事例も個別の事情に基づく結果であり、同様の条件であっても認定結果は異なる場合があります。

弊事務所は、障害年金専門の社会保険労務士法人として、疾病・状況を問わず幅広い遡及請求を取り扱っています。

遡及請求に関連するよくあるご質問

遡及請求についていただくご質問の中から、特に多いものをまとめました。

それぞれ詳しい解説記事へのリンクもあわせてご紹介します。

Q. 遡及請求は「障害認定日による請求」と同じ意味ですか?

基本的には同じ意味で使われますが、正確には「認定日による請求」のうち、結果として過去分までさかのぼって受け取れる状況を指して「遡及請求」と呼ぶ関係にあります。

詳しくは障害年金の遡及請求は「障害認定日による請求」と同じ意味ですか?で解説しています。

Q. 人工関節を入れた場合の遡及請求はできますか?

人工関節・人工骨頭の置換術を受けた方も、条件を満たせば遡及請求が可能なケースがあります。

詳しくは人工関節や人工骨頭で障害年金をさかのぼって請求(遡及請求)はできますか?をご参照ください。

Q. 知的障害でも遡及請求はできますか?

知的障害の方も、条件を満たせば遡及請求の対象となる場合があります。

詳しくは知的障害で障害年金をさかのぼって請求(遡及請求)はできますか?をご参照ください。

Q. 初診日が20年以上前ですが、遡及請求は可能でしょうか?

初診日が古い場合はカルテ廃棄などの問題で証明のハードルが上がります。

対応策については初診日が20年以上前で障害年金で詳しく解説しています。

まとめ

まとめ

本記事の主要なポイントは次のとおりです。

  • 遡及請求とは、障害認定日時点で等級に該当していた場合に、過去にさかのぼって障害年金を請求する方法
  • 認定日請求(本来請求)・遡及請求・事後重症請求の3つの請求方法のうち、遡及請求は「認定日請求のうち1年以上経過したもの」という整理になる
  • 遡及請求の3要件は、(1)障害認定日時点で等級該当、(2)障害認定日以後3か月以内の診断書取得、(3)初診日要件・保険料納付要件の充足
  • 国民年金法第102条第1項・厚生年金保険法第92条第1項により、過去分の支給は 最大5年分 に限られる
  • カルテ廃棄や証明困難なケースでも、第三者証明や事後重症の確認書併用などの対応策がある

遡及請求は通常の障害年金請求よりも書類が多く、専門的な判断を要する場面が増えます。

初めての遡及請求でお悩みの方や、不支給後の再請求・審査請求をご検討の方は、わくわく社会保険労務士法人(全国障害年金サポートセンター)までお気軽にお問い合わせください。


※本記事は2026年5月時点の年金法令・障害認定基準に基づき作成しています。 法令改正等により内容が変更される可能性があるため、最新の情報は日本年金機構の公式サイト等でご確認ください。 個別の事案については社会保険労務士等の専門家へのご相談を推奨します。 医学的判断は主治医にご確認ください。

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