
人工関節(人工股関節や人工膝関節など)を挿入置換した場合、障害年金を受給できる可能性があります。
そして適切な条件を満たせば、遡及請求(過去にさかのぼった請求)によって最大5年分の障害年金をまとめて受け取ることも可能です。
以下では、人工関節による障害年金の受給条件と、遡及請求を行うためのポイントをわかりやすくご説明したいと思います。
人工関節や人工骨頭で障害年金を受給できる条件
人工関節(または人工骨頭)置換術を行った場合、原則として障害年金の等級は「3級」に認定されます。
これは厚生労働省が定める障害認定基準に明記されており、股関節・膝関節・足関節など下肢の主要な関節に人工関節(または人工骨頭)を一つでも挿入置換した場合は障害等級3級と判断されます。(ただし、そう入置換後も関節の全廃相当など重い状態に該当する場合は、上位等級となることがあります。)
ここで非常に重要なポイントがあります。
障害年金3級が受給できるのは初診日(その障害の原因で初めて医療機関を受診した日)に厚生年金に加入していた場合です。
3級は「障害厚生年金」の等級であり、会社員や公務員など厚生年金保険の加入者だけが対象になります。
初診日に国民年金のみに加入していた方(自営業・無職など)は、原則として人工関節だけでは障害年金を受給できません。
これは国民年金の障害基礎年金では等級2級までしか支給がないためで、人工関節や人工骨頭による障害が通常は3級相当である以上、基礎年金の対象外になってしまうためです。
例えば、変形性膝関節症で膝に人工関節を入れた場合でも、初診時に厚生年金に入っていなければ障害基礎年金の2級以上に該当しない限り年金はもらえないということです。
ただ、人工関節や人工骨頭を入れた後でも症状が重く筋力の大幅な低下や関節の強直(動かない状態)が残る場合は、障害等級2級以上と認定される可能性もあります。
このように状態が重ければ国民年金加入者でも障害基礎年金の対象(2級)となり得ますが、通常の人工関節の術後状態であれば3級相当が基本となります。
障害年金の受給要件
障害厚生年金(3級を含む)の受給には、①初診日に厚生年金保険の被保険者期間中であること、②障害認定日に障害等級(1~3級)に該当することに加え、③初診日の前日時点での保険料納付要件を満たしていることが必要です。納付要件を満たさない場合、等級に該当していても支給されません。
人工関節や人工骨頭の障害認定日と特例
障害認定日は原則として「初診日から1年6か月経過した日」ですが、人工関節(人工骨頭を含む)のそう入置換には例外があります。
初診日から1年6か月以内に人工骨頭または人工関節をそう入置換したときは、そのそう入置換日が障害認定日となります。
いっぽう、そう入置換が初診日から1年6か月を超える場合は、原則どおりの障害認定日で判断されます。
例えば、変形性股関節症で初診から半年後に人工股関節の置換手術を受けた場合は、その手術日が障害認定日となり、通常より早いタイミングで障害年金の権利が発生します。
一方、初診日から1年6か月より後になって手術を受けた場合は、原則通り初診日から1年6か月経過日が障害認定日になります。
人工関節の手術時期によって障害認定日が変わる点が重要です。
この特例のおかげで、早期に手術を受けたケースでは障害年金の請求を前倒しできる可能性があります。
人工関節や人工骨頭で障害年金の遡及請求は可能?
結論から言えば、人工関節や人工骨頭による障害年金でも条件を満たせば遡及請求が可能です。
遡及請求とは、本来受け取れるはずだった過去分の年金をまとめて請求することです。(※遡及請求に関しましては『障害年金の遡及(そきゅう)請求とは|はじめての人にも分かりやすく解説します』のページで詳しくご説明していますので、ご参照ください。)
具体的には、障害認定日の翌月から現在までの未支給分をさかのぼって受け取る手続きを指します。
人工関節や人工骨頭の場合、手術日=障害認定日となるケースでは「手術直後から障害年金をもらえる状態だったのに、申請が遅れて受け取っていない分」を遡及して受給できる可能性があります。
遡及請求を行うためにはいくつか条件と注意点があります。
障害認定日時点で障害年金の等級に該当していること
遡及請求には、障害認定日当時に障害状態が等級に該当していた証拠が必要です。
人工関節や人工骨頭の場合、前述のように手術を受けていれば原則3級相当の障害状態とみなされます。
したがって、初診から1年6か月以内に手術を受けたケースであれば、その手術日の時点で3級の状態になっているため、この条件を満たしやすいと言えます。
逆に、初診から1年半経過日が障害認定日になったケース(手術がそれより遅かった場合など)は、その時点でまだ人工関節や人工骨頭を入れていなかった可能性があります。
障害認定日(1年6か月経過日)当時に症状がそれほど重くなかった場合は、残念ながら当時は障害年金等級に該当せず遡及分を受け取る権利が発生していなかったことになります。
この場合は後から手術で悪化して等級に該当したとしても、障害認定日で権利が生じていないため、遡及請求はできず「事後重症」としての請求(※後述)しかできません。
医師の診断書など当時の障害状態を証明する書類
障害認定日による請求(遡及を含む)では、原則として「障害認定日より3か月以内の現症日」で作成された医師の診断書が必要です。
また、障害認定日と年金請求日が1年以上離れている場合は、請求日前3か月以内の現症日の診断書もあわせて求められます。
障害認定日当時に受診がなく診断書の作成が難しい場合は、遡及請求が成立しにくく、基本的には事後重症による請求を検討することになります。
5年の時効(請求の期限)
障害年金の受給権には時効があり、遡及できるのは最大で過去5年分までと定められています。
これは法律上、受給権発生日から5年を経過するとその分は消滅してしまうためです。
そのため、仮に障害認定日から7年経って初めて請求した場合でも、さかのぼって受け取れるのは直近5年分までで、それより前の2年分は時効で受け取れません。
遡及請求を考えている方は、一日でも早く手続きを行うことが大切です。
請求が遅れるほど未支給となる期間が増え、そのうち5年を超えた分はもらえなくなってしまいます。
以上の条件を満たせば、人工関節や人工骨頭による障害厚生年金3級の遡及請求が可能となります。
受け取れる金額は、原則として報酬比例で計算され、加入期間や標準報酬月額などにより個人差があります。
なお、障害厚生年金3級には最低保障額が設けられており(例:令和7年4月分からは年額623,800円〔昭和31年4月2日以後生まれ〕)、実際の年金額はこれを下回らない仕組みです。
正確な見込み額は、ご自身の加入記録・報酬記録をもとに確認する必要があります。
人工関節・人工骨頭で遡及請求が認められた事例
当事務所でサポートをして、人工関節や人工骨頭で遡及請求が認められた事例は以下のページでご紹介しています。
- 【事例1034】両変形性股関節症(人工関節)|障害厚生年金3級 遡及金額 約190万円
- 【事例935】右変形性股関節症(人工関節)|障害厚生年金3級 遡及金額 約300万円
- 【事例673】左変形性股関節症(人工関節)|障害厚生年金3級 遡及金額 約224万円
- 【事例550】右特発性大腿骨頭壊死症(人工骨頭)|障害厚生年金3級 遡及金額 約400万円
- 【事例356】特発性大腿骨頭壊死症(人工骨頭)|障害厚生年金3級 遡及金額 約171万円
事後重症による請求
一方で、次のような場合は遡及ではなく「事後重症による請求」扱いになります。
障害認定日当時は障害状態に該当していなかった場合
先述の通り、手術が遅くなり障害認定日時点ではまだ障害が軽かったケースなどでは、後からどんなに障害状態が悪化しても遡及はできません。
その代わり、現在の障害状態で請求する「事後重症請求」を行うことになります。
事後重症請求では、請求した月の翌月分から年金が支給開始となり、過去分は支給されません。
なお、請求書は「65歳の誕生日の前々日まで」に提出する必要があります。
障害認定日から時間が経ちすぎて5年を超える遅れになった場合
この場合も、時効で消えた期間については受け取れないため、結果的に請求時点から過去5年以内の分しかさかのぼれません。
たとえば10年前に障害認定日に該当していた人が今請求すると、直近5年分までしか遡及が認められず、それより前の5年間分は受け取れません。
なお、請求自体は可能なので、諦めずにまずは手続きを進めましょう。
以下に「遡及請求」と「事後重症請求」の違いをまとめた表を掲げます:
| 請求の種類 | 請求できるタイミング | 受給できる年金の開始時期 | 備考・条件 |
|---|---|---|---|
| 障害認定日による遡及請求(さかのぼり請求) | 障害認定日以降ならいつでも可能。ただし時効に注意(5年以内が有効) | 障害認定日の翌月分から請求前月分までを一括受給(最大5年分) + 請求月以降は継続年金 | 障害認定日時点で障害等級に該当していた場合のみ。当時の診断書や証拠資料が必要。5年を超える過去分は受給不可。 |
| 事後重症による請求(今後分の請求) | 障害認定日以降いつでも可能。障害状態が後に悪化して等級該当した場合に行う | 請求した月の翌月分から支給開始(将来に向けて受給) | 障害認定日時点では等級該当せず、その後悪化した場合など。過去の未受給分は支給されない。請求は65歳の誕生日の前々日までに行う必要。 |
上記のように、人工関節が原因の障害でも適切な条件下では遡及して年金を受け取れることが分かります。
一方で、条件に当てはまらない場合は将来分の受給となりますので、自分のケースがどちらに該当するか専門家に相談しながら確認すると良いでしょう。
まとめ
人工関節の置換術によって生じた障害についても、条件を満たせば障害年金を遡及請求することができます。
ポイントは、初診時の加入年金や障害認定日の時点で等級該当していたかどうかです。
初診日時点で厚生年金に加入し、手術を含め障害認定日当時に3級相当の障害状態であれば、請求の遅れた過去分も最大5年までまとめて受け取れる可能性があります。
ただし請求が遅れると時効で一部受け取れなくなるため、思い当たる方は早めに手続きに着手しましょう。
一方、障害認定日当時は軽症で後から悪化した場合などは遡及分は受け取れませんが、それでも諦めずに事後重症請求を行えば将来の年金受給は可能です。人工関節と障害年金の制度は複雑な部分もありますので、不安な方は社会保険労務士など専門家に相談し、ご自身の権利をしっかりと確かめてください。
そうすることで、「人工関節を入れたけれど障害年金をもらい損ねていた」という事態を防ぎ、受け取れるはずの年金で生活の安心につなげることができます。
読者の皆さまの疑問や不安が少しでも解消し、適切な障害年金の請求につながれば幸いです。
※障害年金をさかのぼってする請求(遡及請求)に関しましては『障害年金の遡及請求とは|はじめての人にも分かりやすく解説します』のページで詳しくご説明していますので、ご参照ください。
障害年金の遡及請求に関する説明ページと動画
障害年金の診断書に関しましては『障害年金の遡及請求とは?』のページで詳しくご説明していますので、ご参照下さい。
以下の動画でも遡及請求に関する説明をしていますので、是非ご覧ください。
遡及請求に関するよくある質問
複数の病院を受診している場合の障害年金申請と必要書類について
カルテが残っていれば遡及請求は可能?
ご自身の精神疾患による新規申請とお子様の額改定請求について
過去に短い期間働いていたのですが、遡って障害年金を請求することはできますか?
気分障害・適応障害による申請と11年前からの遡及請求について
糖尿病で障害年金をさかのぼって請求(遡及請求)はできますか?
私は障害年金が受給できるの?
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