はじめに

障害年金を請求したあと、提出したはずの書類一式が郵便で戻ってきて驚かれる方は少なくありません。

同封されているのは「返戻(へんれい)」という、日ごろ目にすることのない言葉が書かれた通知です。

不支給になったのではないか、はじめからやり直しなのではないか、と不安になるところですが、返戻は審査の結果をお知らせするものではありません。

審査を先へ進めるために、足りない部分を補ってほしいという連絡です。

この記事では、返戻の意味、不支給・却下との違い、通知が届いたあとの進め方を、順を追って解説します。

障害年金の「返戻(へんれい)」とは

まず、返戻という言葉が何を指しているのかを確認します。

ここを取り違えたまま放置してしまう方がいらっしゃるため、最初に整理しておきます。

障害年金の「返戻」とは、請求した書類に不足や確認したい点があるため、日本年金機構から書類が差し戻され、補ったうえで出し直すよう求められることをいいます。

返戻の通知には、どの書類のどこを補ってほしいのか、いつまでに、どこへ提出してほしいのかが記載されています。

まずはその記載を落ち着いて読むところから始まります。

返戻は「不支給の通知」ではありません

返戻は、審査の途中で行われる手続きです。

等級に該当するかどうかの判断は、この時点ではまだ出ていません。

障害年金を受け取れないという結果が出た場合には、日本年金機構から「不支給決定通知書」が送付されます。

返戻の通知は、これとは別のものです。

書類が戻ってきたことで受給できなかったと受け止め、そのままにしてしまう方がいらっしゃいます。

求められているものを整えて提出すれば、手続きは先へ進みます。

ただし、どの段階で返されたかによって、請求日(受付日)の扱いが変わることがあります。

「すでに受け付けられた請求の審査が一時止まっているだけ」とは限らない点は、あとの章で説明します。

「返戻」は法令に定められた言葉ではありません

「返戻」は、国民年金法や厚生年金保険法に定義が置かれた用語ではなく、実務のなかで使われている呼び方です。

そのため、条文を探しても返戻という言葉は出てきません。

一方、行政機関に対する申請に不備があったときの取扱いは、行政手続法に定めがあります。

行政手続法第7条(申請に対する審査、応答)
行政庁は、申請がその事務所に到達したときは遅滞なく当該申請の審査を開始しなければならず、かつ、申請書の記載事項に不備がないこと、申請書に必要な書類が添付されていること、申請をすることができる期間内にされたものであることその他の法令に定められた申請の形式上の要件に適合しない申請については、速やかに、申請をした者(以下「申請者」という。)に対し相当の期間を定めて当該申請の補正を求め、又は当該申請により求められた許認可等を拒否しなければならない。

(出典:e-Gov法令検索『行政手続法』第7条)

実際の返戻には、性格の異なるものが混在しています。

記入もれや添付書類の不足のように、書類の形を整えるためのものと、審査を進めるために追加の資料や確認を求めるものです。

前者は、上の条文が定める「補正の求め」にあたるものです。

通知に提出期日が書かれているのは、条文の「相当の期間を定めて」に対応しています。

後者は審査の過程で行われる確認であり、この条文が直接定めているものではありません。

返戻・不支給・却下はどう違うのか

障害年金の手続きでは、結果を表す言葉がいくつも出てきます。

返戻の通知を受け取った方が「却下されたのか」と受け止めてしまうことがありますが、この3つは段階も意味も異なります。

ここで整理しておきます。

3つの言葉を並べて整理します

次の表のとおり、返戻だけが審査の途中の手続きで、あとの2つは審査を終えた結果です。

用語どの段階か意味
返戻審査の途中書類の不足や確認事項があり、補って出し直すよう求められた状態
不支給決定審査の結果障害の状態が等級に該当しない場合のほか、保険料納付要件や初診日における加入の要件など、支給の要件を満たさないと判断された場合にも行われることがあります
却下審査の結果初診日を確認できないなど、請求の前提となる事実が確認できず、裁定請求を受け入れられないと判断された場合に行われることがあります

※どの区分になるかは事案によって異なり、「等級の問題なら不支給、初診日の問題なら却下」と一対一で決まるものではありません。実際に、加入の要件を満たさないことを理由に支給しない旨の処分がされた例と、初診日を確認できないことを理由に却下する処分がされた例の双方が、厚生労働省が公表している社会保険審査会の裁決例のなかに見られます。お手元の通知書に記載された処分名と理由をご確認ください。

次にどの手続きをとるのが適切かは、処分の理由によって変わります。

等級の判断に納得できないのか、初診日の立証が足りなかったのかで、進め方が異なるためです。

(出典:厚生労働省「社会保険審査会 裁決例一覧」)

不支給決定や却下に納得できない場合の手続きには、期限が定められています。

返戻をそのままにするとどうなるか

返戻は審査の途中の手続きですが、応じないままにしてよいという意味ではありません。

先ほどの行政手続法第7条は、形式上の要件を満たさない申請について、行政庁は相当の期間を定めて補正を求めるか、申請を拒否するかのいずれかを行うと定めています。書類の形が整わないままでは、審査を先へ進めることができません。

また、審査に必要な資料が出されないまま判断が行われれば、その資料がないことを前提とした結果になります。

いずれの場合も、対応しないまま置いておくことに利点はありません。

内容が分からない場合でも、そのままにせず、下記の窓口にご確認ください。

返戻が起こる主な場面

どのような点について返戻が行われるのかを知っておくと、通知を読んだときに何を求められているのかを把握しやすくなります。

ここでは主な場面を4つに分けて説明します。

実際にどの点が問われるかは、請求の内容によって異なります。

初診日の証明に関するもの

初診日(障害の原因となった傷病について初めて医師又は歯科医師の診療を受けた日)は、どの年金制度から支給されるか、保険料納付要件を満たすかを判断する前提になります。

そのため、証明の内容について確認を求められることがあります。

受診状況等証明書と診断書で記載が食い違っている場合や、初診日を裏づける資料が足りないと判断された場合などが該当します。

カルテの保存期間が過ぎているなどで受診状況等証明書を用意できないときは、「受診状況等証明書が添付できない申立書」を作成します。

当時の診察券やお薬手帳などの資料をあわせて提出し、第三者からの申立書を用いる方法もあります。

診断書の記載に関するもの

診断書は、障害の状態を審査側に伝える中心的な資料です。

記入されていない欄がある場合や、記載された内容から状態を読み取れないと判断された場合に、追記や確認を求められることがあります。

診断書には傷病に応じた様式があり、記入すべき欄も様式によって異なります。

空欄が残っていること自体が、確認の対象になることもあります。

詳しくは 障害年金の診断書とは|種類・重要性と準備のポイント をご覧ください。

診断書と病歴・就労状況等申立書の食い違い

病歴・就労状況等申立書は、発病から現在までの経過や日常生活の状況をご本人(またはご家族)が記入する書類です。

診断書と申立書は別の方が作成するため、内容がそろっていないことがあります。

たとえば通院や買い物に付き添いが必要かどうかについて、両者の記載が異なっていると、どちらが実際の状態なのかを確認する必要が生じます。

詳しくは 【自分で書ける】病歴・就労状況等申立書 をご覧ください。

加算や支給額の計算に関するもの

障害の状態そのものではなく、支給額の計算に必要な情報について確認を求められることもあります。

加算の対象となる配偶者やお子さんがいる場合の、生計維持関係の確認書類などがこれにあたります。

また、20歳前の傷病による障害基礎年金には所得による支給停止の仕組みがあるため、所得の状況を確認する書類を求められることがあります。

返戻の通知が届いたときの進め方

ここからは、通知を受け取ったあとの進め方を整理します。

慌てて出し直すよりも、何を求められているのかを正確につかむことが先になります。

通知書で「何を・いつまでに・どこへ」を確認します

返戻の通知には、補ってほしい内容、提出の期日、提出先が記載されています。

まずはこの3点を書き出しておくと、その後の段取りが立てやすくなります。

とくに提出期日は、通知書に記載されたものが基準になります。

インターネット上には「返戻の期限は一律に何日」といった説明も見られますが、期日は通知に書かれているものをご確認ください。

提出先が指定されている場合もあります。

指定と異なる窓口へ送ると、手元に届くまでに余分な時間がかかることがあります。

内容が分からないときは問い合わせて差し支えありません

返戻の通知は書面だけでやり取りが進むため、何を求められているのか読み取りにくいことがあります。

その場合は、問い合わせて確認していただいて構いません。

まずは返戻の通知書に記載された連絡先にご確認ください。

連絡先が分からない場合は、年金事務所または街角の年金相談センターにご相談ください。

障害基礎年金を市区町村の窓口に提出された方は、その市区町村役場でも受け付けています。

「どの書類のどの部分について、何を確認したいのか」を具体的に尋ねると、必要な準備が絞り込めます。

分からないまま推測で資料を集めると、かえって時間がかかることがあります。

初診日について指摘されたとき

返戻のなかでも、初診日に関するものは慎重に扱う必要があります。

初診日が変わると、どの年金制度から支給されるか、障害認定日がいつになるか、保険料納付要件を満たすかの判断も変わるためです。

審査側から初診日について指摘があった場合は、なぜその点が問題になっているのか求められている資料は何かを確認したうえで対応します。

手元の資料が示す事実と異なる内容に書き換えることはできません。

判断に迷う場合は、専門家にご相談ください。

診断書の訂正を主治医に依頼するときは、事実の部分を伝えます

診断書の記載について確認を求められた場合、診断書を訂正できるのは作成した主治医だけです。

ご本人やご家族が書き加えることはできません。

主治医にお願いするのは、通院の頻度や同居の状況、就労の形態といった事実に関する部分の確認です。

症状の評価や等級に関わる医学的な判断は、主治医が診療に基づいて行うものであり、こちらから内容を求める性質のものではありません。

日常生活の状況をメモにまとめてお渡しすると、事実関係を確認していただきやすくなります。

期日までに間に合いそうにないとき

医療機関の都合で診断書の作成に時間がかかるなど、期日までに書類がそろわないことがあります。

その場合も、そのままにせず、事情を上記の窓口にお伝えのうえご相談ください。

返戻と審査期間・支給の始まる月の関係

返戻が起きると審査が中断するため、結果が出るまでの期間は長くなります。

「そのぶん受け取れる年金が減るのではないか」という不安をお持ちの方が多いため、この点を整理します。

審査の進み具合は問い合わせることができます

行政手続法は、申請から処分までに通常必要となる標準的な期間を定めるよう努めることを求めています(第6条)。

また、申請者から求めがあれば、審査の進行状況と処分の時期の見通しを示すよう努めることも定めています(第9条第1項)。

審査の期間の目安と、結果が届くまでの流れは 障害年金の申請から受給までの流れ で解説しています。

審査が長引いても、支給の始まる月が後ろにずれるわけではありません

障害認定日による請求では、初診日の要件と保険料納付要件を満たしたうえで、障害認定日に法令に定める障害の状態にあるときは、障害認定日の翌月分から年金を受け取ることができます。

なお、障害認定日以後に20歳に達したときは、20歳に達した日(20歳の誕生日の前日)の翌月分からとなります。

事後重症による請求では、請求日の翌月分からの支給となります。

いずれも、審査にかかった日数によって始まりの月が決められているわけではありません。

決定が出れば、支給の始まる月までさかのぼった分が、初回の振込でまとめて支払われます(初回の振込でどの月分まで支払われるかは、振込の時期によって異なります)。

ただし、さかのぼって受け取れる年金は、時効により原則5年分が限度です。

障害認定日から長く経ってから請求した場合、支給の始まりが障害認定日の翌月であっても、実際に受け取れるのは直近5年分までとなります。

また、事後重症による請求には、請求書を65歳の誕生日の前々日までに提出する必要があるという期限があります。

返戻を受けて再提出する際に、この期限が近い場合はとくにご注意ください。

(出典:日本年金機構「障害基礎年金の受給要件・請求時期・年金額」)

ただし、返戻を受けて再提出したときに、請求日(受付日)がどの時点になるかは、返戻の内容や段階によって取扱いが異なることがあります。

事後重症による請求では請求した日が支給の始まりに関わるため、気になる場合は上記の窓口にご確認ください。

受給の要件そのものについては 障害年金をもらえる人|3つの受給要件をわかりやすく解説、請求方法については 障害年金の遡及(そきゅう)請求とは事後重症請求とは をご覧ください。

更新(障害状態確認届)でも返戻はあります

返戻は、はじめて請求するときだけの話ではありません。

すでに障害年金を受給している方が更新の手続きをする際にも起こります。

請求時とは事情が異なる部分があるため、分けて説明します。

請求時の返戻との違い

更新では、日本年金機構から送られてくる「障害状態確認届」の診断書欄に主治医の記載を受けて、提出します。

記入されていない欄がある場合などに、補うよう求められることがあります。

すでに受給権をお持ちの方の手続きであるため、はじめての請求とは論点が異なります。

更新の仕組みそのものは 【丸わかり】障害年金の更新について障害年金の更新で落ちる確率 で解説しています。

提出期限との関係

障害状態確認届は、提出が必要となる年の誕生月の3か月前の月末に日本年金機構から送付され、誕生月の末日が提出期限です。

診断書に記入する障害の状態は、提出期限前3か月以内のものである必要があります。

日本年金機構は、提出が遅れたり記載内容に不備がある場合は、年金の支払いが一時止まることがあるとしています。

請求時の返戻と異なり、受給中の支払いに影響しうる点は押さえておいてください。

記入もれなどに気づいたら、早めに医療機関へご相談ください。

(出典:日本年金機構「障害状態確認届(診断書)が届いたとき」)

提出前にできる備え

返戻をゼロにする方法はありませんが、提出前に見直しておくことで、確認を求められる場面を減らすことはできます。

ここでは見ておきたい点を挙げます。

  1. 必要な書類がそろっているか:請求方法によって必要な書類が変わります
  2. 診断書に空欄が残っていないか:受け取った時点で確認します
  3. 診断書の現症日が要件に合っているか:請求方法によって必要な診断書の時点と枚数が異なります
  4. 診断書と病歴・就労状況等申立書で、事実の記載がそろっているか:通院の状況や同居の有無など、双方に出てくる事項を照らし合わせます
  5. 加算の対象となる方がいる場合、確認書類がそろっているか

必要書類の一覧は 障害年金の必要書類一覧 をご覧ください。

なお、令和7年(2025年)6月1日から年金請求書の様式が変更されています。

「障害給付 請求事由確認書」は独立した書類としては廃止され、年金請求書本体の「事後重症請求に関する確認事項」欄に統合されました。

旧様式についても、日本年金機構の広報誌では当面の間受け付けられる旨が案内されていますが、お手元の用紙が旧版の場合は、提出前に提出先にご確認ください。

返戻についてよくあるご質問

返戻について弊事務所にお寄せいただくご質問のうち、多いものを取り上げます。

Q. 返戻が届いたら、不支給になる可能性が高いのでしょうか

いいえ、返戻は審査の途中の手続きであり、この時点で支給・不支給が決まっているわけではありません。

求められた書類を整えて提出すれば、審査は再び進みます。

Q. 期日を過ぎてしまった場合はどうなりますか

まずは通知書に記載された連絡先か、年金事務所等にご連絡ください。

書類が整わないままでは審査を先へ進めることができず、時間だけが過ぎてしまいます。

医療機関の都合など事情がある場合は、その旨をお伝えください。

Q. 求められていない資料も一緒に出したほうがよいですか

求められている点に対応する資料を整えることが基本です。

関連の薄い資料を多く添えると、書類の間で記載が食い違い、確認事項が増えることがあります。

追加で出したい資料がある場合は、何を示すための資料なのかを添え書きしておくと伝わりやすくなります。

Q. 返戻が2回、3回と続くことはありますか

あります。

ひとつの点を確認した結果、別の点について確認が必要になることがあるためです。

回数が多いこと自体が結果を示すものではありません。

Q. 「返戻」と「返納」は違うものですか

別のものです。

返戻は書類が差し戻されることをいいます。

返納は、受け取った年金を返すことをいい、支給が停止された期間の分などが対象になります。

書類が戻ってきた段階で、お金を返す必要が生じるわけではありません。

返戻を経験した申請の事例

弊事務所では、返戻を受けたあとの対応を含めて障害年金の申請をサポートしています。

実際の事例をご紹介します。

診断書の内容を確認したうえで、求められた資料の必要性を検討した事例です。

【事例2136】うつ病|障害基礎年金2級(返戻でカルテ開示を求められた事例)

対象者の基本データ 病名うつ病性別女性支給額年額 約82万円障害の状態・家族以外との対人関係が築けず、外出時の対応やコミュニケーションに著しい困難がある・食事や…

【事例765】パーキンソン病|障害厚生年金2級

対象者の基本データ 病名 パーキンソン病 性別 男性 支給額 年額 約123万円 障害の状態 動作緩慢のため巧緻性がなく、食事や着替えなどの動作にも異常に時間を要する …

【事例1912】うつ病・双極性感情障害|不支給の事例

対象者の基本データ 病名 うつ病・双極性感情障害 性別 女性 支給額 不支給 障害の状態 抑うつ状態の期間が長く、寝込む事が多く、身の回りのことも出来ない 躁状態では自…

まとめ

障害年金の返戻について、要点を整理します。

  • 返戻は、書類の不足や確認事項があるため差し戻されることをいい、不支給の通知ではありません
  • 返戻は審査の途中の手続き、不支給決定と却下は審査の結果であり、段階が異なります
  • 不支給決定と却下は、「等級の問題」「初診日の問題」で一対一に分かれるものではありません
  • さかのぼって受け取れる年金は、時効により原則5年分が限度です
  • 「返戻」は法令上の用語ではありませんが、書類の形を整えるための補正については行政手続法第7条に定めがあります
  • 通知書に記載された何を・いつまでに・どこへの3点をまず確認します
  • 診断書を訂正できるのは主治医のみで、お願いするのは事実に関する部分の確認です
  • 審査が長引いても、支給の始まる月が審査の日数で決められているわけではありません
  • 更新時の障害状態確認届は、提出の遅れや記載の不備により年金の支払いが一時止まることがあります

返戻の通知が届いてお困りの方は、わくわく社会保険労務士法人(全国障害年金サポートセンター)までお気軽にお問い合わせください。


※本記事は2026年9月時点の年金法令・障害認定基準に基づき作成しています。法令改正等により内容が変更される可能性があるため、最新の情報は 日本年金機構の公式サイト 等でご確認ください。個別の事案については社会保険労務士・弁護士等の専門家へのご相談を推奨します。医学的判断は主治医にご確認ください。