【事例874】うつ病|障害基礎年金2級(精神疾患で一人暮らしの事例)

はじめに

はじめに

「一人暮らしをしていると、障害年金は認められにくいのではないか」

そうお考えの方は少なくありません。

本事例は、ご家族と離れて15年間おひとりで暮らし、精神障害者保健福祉手帳もお持ちでなかった男性が、うつ病で障害基礎年金2級に認定され、過去5年分をさかのぼって受け取ることができたケースです。

(※うつ病で障害年金の申請をご検討の方は『うつ病で障害年金はもらえる?3つの条件と金額の目安』をご覧ください。)

対象者の基本データ

対象者の基本データ

本事例の概要を表にまとめました。

障害の状態も支給額も請求当時のものです。

障害年金の額は年度ごとに改定されるため、現在の金額とは異なります。

項目内容
病名うつ病
性別男性
障害者手帳なし(精神障害者保健福祉手帳の交付を受けていない)
就労状況就労していない(短期間のアルバイトを繰り返していた)
請求方法障害認定日による請求(5年分の遡及が認められた)
障害の状態・ご家族との同居が困難なため、余儀なく一人暮らしをしている
・日常生活は破綻しているが、他者との交流が苦手で、福祉サービスも利用できない
・引きこもり傾向が強く、就労できない
申請結果障害基礎年金2級
支給額年額 786,500円/遡及分 約390万円(いずれも請求当時の決定額)

※支給額は請求当時に決定された額です。障害年金の額は年度ごとに改定されますので、現在の金額はうつ病でもらえる障害年金2級の金額はいくら?でご確認ください。

ご相談までの経緯

ご相談までの経緯

ご相談者様は、幼少期のご家庭の事情から、ご家族と距離を置いた生活を続けてこられました。

当事務所にご相談いただくまでの経緯をご紹介します。

ご相談者様は、幼少期より父親から暴言・暴力を受けて育たれました。

父親から離れるために県外の大学へ進学し、一人暮らしを始められます。

しかし人との関わりが苦手で大学は中退され、その後も実家に戻る気持ちにはなれず、一人暮らしを続けられました。

漠然とした不安感や気分の落ち込みが続き、希死念慮も現れたことから、医療機関を受診されました。

通院しながら生活のためにアルバイトをされましたが長続きせず、短期間での転職を繰り返す状況が続きます。

経済的な不安を抱えながらも実家に帰ることはできず、将来のことを悩んでおられました。

そうしたなかで障害年金の制度を知り、まずご自身に受給の可能性があるのかを確かめたいというお気持ちで、当事務所にご相談くださいました。

①申請のポイントと苦労した点

①申請のポイントと苦労した点

本事例で最も難しかったのは、「一人暮らしをしている」という事実だけが独り歩きしないように、その背景と日常生活の実際を診断書に反映していただくことでした。

ご相談時点での見立てから、診断書の訂正をお願いするまでの流れをご説明します。

ご相談時にうかがったのは、家事だけでなく清潔保持もままならない状況でした。

主治医からは福祉サービスの利用を勧められていましたが、対人交流が苦手で受け入れることができない状態が続いていました。

大学を中退され、アルバイトも長続きせず、閉居がちに過ごしておられます。こうしたご様子から、受給の可能性があると判断しました。

一方で、精神の障害で障害年金を請求する場合、「一人暮らしをしている」という事実だけを見て、身の回りのことはご自身でできていると受け取られてしまうおそれがあります。

ご相談者様の一人暮らしは、ご自身が選ばれた結果ではなく、ご家族との同居が難しくやむを得ず続けてこられたものでした。

診断書を作成する医師向けの記載要領も、独居の場合はその理由や時期を記載するよう求めています。

この経緯と日常生活の実際を、診断書に反映していただくことが要点になります。

3つのサポート

そこで診断書の作成をお願いする際に、一人暮らしに至った理由と、日常生活で何ができていないのかを、ご本人からうかがった内容にもとづいて整理し、主治医にお伝えしました。

完成した診断書には、ご家族の理解が得られずやむを得ず一人暮らしをされていること、就労も不定期なアルバイトにとどまっていることが正確に記載されていました。

しかしその一方で、事実経過と異なる記載が含まれていました。

主治医に確認したところ記載の行き違いであることが分かりましたので、訂正をお願いし、訂正後の診断書で請求手続きに進みました。

②結果

サポートの結果、無事に受給が決定

訂正後の診断書と病歴・就労状況等申立書を添えて請求し、審査を経て決定が出ました。

結果の内容をご紹介します。

審査の結果、障害基礎年金2級に認定されました。

あわせて障害認定日による請求も認められ、過去5年分の年金を受け取ることができました。

一人暮らしをされていること自体が、認定の妨げにはなりませんでした。

独居に至った経緯と、日常生活で支援を必要とする状況が診断書に表れたことが、判断の材料になったものと考えられます。

なお、本事例は障害基礎年金として決定されました。

どちらの障害年金の対象になるかは、原則として初診日にどの年金制度に加入していたかによって決まります(障害基礎年金には、20歳前や、日本国内に住む60歳以上65歳未満で年金制度に加入していない期間に初診日がある場合の取扱いもあります)。

初診日に厚生年金保険に加入していた方が1級または2級に認定された場合は、障害基礎年金に障害厚生年金が上乗せされ、3級に該当する場合は障害厚生年金が支給されます。

障害基礎年金に3級はありません。

本事例は当法人が関与した個別の事例であり、認定の一般的な基準を示すものではありません。※個別事案により判断は異なります。

③担当者の振り返りと感想

本事例で当事務所が行ったことと、そこで要点になった部分を振り返ります。

ご相談をいただいた時点で、ご本人が気にしておられたのは「一人暮らしができているから難しいのではないか」という点でした。

実際に診断書へ反映していただく必要があったのは、なぜ一人暮らしをされているのか、そのなかで何に困っておられるのか、という部分です。

ご相談者様は他者との交流が苦手で、生活の困りごとをご自身の言葉で医師に伝えることが難しい状況でした。

そこで当事務所でうかがった内容を整理し、主治医にお伝えする形をとりました。

完成した診断書に事実経過と異なる記載があった際も、確認と訂正を主治医にお願いしています。

一度提出した書類を、こちらの判断だけで自由に差し替えられるわけではありませんので、当事務所では提出前に内容を確認する工程を設けています。

本事例のポイント

本事例には、一人暮らし、診断書の記載、障害認定日による請求という3つの論点があります。

それぞれについて、障害認定の考え方とあわせてご説明します。

【本事例のポイント】一人暮らしと「日常生活能力」の判定

一人暮らしと「日常生活能力」の判定

うつ病などの精神の障害の等級は、診断書の「日常生活能力の判定」(日常生活の7つの場面について4段階で評価)と「日常生活能力の程度」(5段階で評価)を組み合わせた目安を参考としつつ、診断書に記載された他の要素も含めて総合的に判定されます。

厚生労働省の「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」は、総合評価で考慮する要素の例として、「生活環境」の分野に次の内容を挙げています。

独居であっても、日常的に家族等の援助や福祉サービスを受けることによって生活できている場合(現に家族等の援助や福祉サービスを受けていなくても、その必要がある状態の場合も含む)は、それらの支援の状況(または必要性)を踏まえて、2級の可能性を検討する。

(出典:厚生労働省「国民年金・厚生年金保険 精神の障害に係る等級判定ガイドライン」〔表2〕③生活環境、平成28年9月1日実施。日本年金機構『国民年金・厚生年金保険 精神の障害に係る等級判定ガイドライン』等)

同じ分野には「独居の場合、その理由や独居になった時期を考慮する」という項目もあります。

一人暮らしをしていること自体で判断されるのではなく、独居に至った理由と支援の必要性を含めて見られるという考え方です。

同じ趣旨は、診断書を作成する医師向けの「障害年金の診断書(精神の障害用)記載要領」にも定められています。

独居の場合はその理由や時期を診断書に記載すること、そして、独居であっても日常的に家族等の援助や福祉サービスを受けることによって生活できている場合(現にそれらを受けていなくても、その必要がある状態の場合を含みます)は、支援の状況または必要性を踏まえ、能力の過大評価にならないよう留意することとされています。

一人暮らしに至った経緯を医師にお伝えすることには、こうした背景があります。

ただし同ガイドラインは、例示に当てはまる内容だけが2級の該当条件ではないこと、複数に該当する場合でも一律に上位等級とするのではなく個別の事案に即して総合的に評価することを、あわせて明記しています。

一人暮らしでの請求については『「一人暮らしで障害年金をもらえる人」をわかりやすくご説明します』のページで詳しくご説明していますので、ご参照ください。)

一人暮らしの方の受給事例は一人暮らしの受給事例一覧でご紹介しています。※個別事案により判断は異なります。

一人暮らしでの申請のポイントは、以下の動画でもご説明しています。

【本事例のポイント】診断書の記載が事実経過と異なるとき

診断書の記載が事実経過と異なるとき

診断書は主治医が作成する書類で、記載内容を訂正できるのは主治医だけです。

請求者やご家族、社会保険労務士が書き換えることはできません。

本事例のように事実経過と食い違う記載に気づいた場合は、主治医に確認を依頼するという手順があります。

医学的な評価そのものは主治医のご判断ですので、そこに意見を述べるのではなく、いつ何があったかという事実の部分について照会します。

提出前に一度内容を確認しておくことが、こうした行き違いに気づく機会になります。

提出後に事実と異なる記載に気づいた場合も、そのままにせず、対応が可能かどうかを含めて年金事務所等にご相談ください。

(※障害年金の診断書に関しましては『障害年金の診断書とは|種類・重要性と準備のポイントを解説』のページで詳しくご説明していますので、ご参照下さい。)

【本事例のポイント】障害認定日による請求(遡及請求)と5年の時効

障害認定日による請求の要点をご説明します。

障害認定日は、原則として初診日から起算して1年6月(1年6か月)を経過した日です。

ただし、その1年6月以内に傷病が治った場合(症状が固定し、治療の効果が期待できない状態に至った場合を含みます)は、その治った日が障害認定日となります。

(出典:厚生労働省「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」第1 一般的事項、令和4年4月1日改正。日本年金機構の掲載ページ)

初診日の要件と保険料納付要件を満たしたうえで、障害認定日の時点で障害の状態が等級に該当していれば、障害認定日の翌月分から年金を受け取ることができます。

なお、障害認定日以後に20歳に達したときは、20歳に達した日(20歳の誕生日の前日)の翌月分からとなります。

これが「障害認定日による請求」で、認定日から時間が経ってから行う場合を実務上「遡及請求」と呼んでいます。

障害の状態に該当した時期に応じた請求方法は、この「障害認定日による請求」と「事後重症による請求」の2つです。

このほかに、既にある障害と新たに発した傷病(基準傷病)による障害とを併合して、基準傷病に係る障害認定日以後65歳に達する日の前日までの間に初めて1級または2級に該当した場合に支給される「はじめて2級による年金」があります。

名称は「はじめて2級」ですが、併合した結果が1級となる場合も含まれます。

(出典:日本年金機構「障害基礎年金の受給要件・請求時期・年金額」/厚生労働省「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」第1「一般的事項」7)

遡及請求の詳しい内容は『障害年金の遡及(そきゅう)請求とは|はじめての人にも分かりやすく解説します』でご説明しています。

障害認定日による請求では、障害認定日より3か月以内の現症を記載した診断書が必要です。

障害認定日と年金請求日が1年以上離れている場合は、これに加えて、現在の障害の状態(年金請求日前3か月以内の症状)が分かる診断書も必要となり、計2通となります。

ただし、5年以上前の年金については、時効により受け取ることができません。

(出典:厚生労働省「【国民年金】障害基礎年金 必要書類リスト」/日本年金機構「障害年金ガイド 令和8年度版」)

年数が経つほど受け取れない部分が生じますので、障害認定日当時の状態が等級に該当している可能性がある場合は、早めにご検討ください。

遡及請求に関しては以下のページで詳しくご説明していますので、ご参照下さい。

遡及請求のポイントは、以下の動画でもご説明しています。

本事例に関するよくあるご質問

本事例に関するよくあるご質問

同じようなご状況の方からよくいただくご質問をまとめました。

Q. 一人暮らしをしていると、障害年金は受けられないのでしょうか。

一人暮らしであることだけを理由に対象外となるわけではありません。

等級判定ガイドラインは、独居であっても日常的に援助や福祉サービスを受けて生活できている場合や、現にそれらを受けていなくてもその必要がある状態の場合を含めて考慮するとしています。

最終的な判断は個別の事案ごとに行われます。

Q. 障害者手帳を持っていなくても請求できますか。

請求できます。

精神障害者保健福祉手帳と障害年金は、根拠となる法令も等級の基準も異なる別の制度です。

本事例のご相談者様も手帳をお持ちではありませんでした。

Q. 何年も前から同じ状態が続いていた場合、過去の分も受け取れますか。

初診日の要件や保険料納付要件を満たしたうえで、障害認定日当時の障害の状態が等級に該当していれば、障害認定日の翌月分までさかのぼって請求できる可能性があります。

ただし、5年以上前の年金については時効により受け取ることができません。

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うつ病の障害年金について、制度の全体像や金額の考え方を確認したい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。

障害年金の申請をご検討中の方は、わくわく社会保険労務士法人(全国障害年金サポートセンター)までお気軽にご相談ください。


※本記事は2026年8月時点の年金法令・障害認定基準に基づき作成しています。法令改正等により内容が変更される可能性があるため、最新の情報は日本年金機構の公式サイト等でご確認ください。個別の事案については社会保険労務士等の専門家へのご相談を推奨します。医学的判断は主治医にご確認ください。

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