
はじめに

正社員としてフルタイムで働いていることを理由に、障害年金の申請をためらわれる方は少なくありません。
本事例のご相談者様も、「働けているのだから不支給になるのではないか」というご不安をお持ちでした。
結果として、障害厚生年金3級に認定されています。
会社から受けている配慮と、勤務時間以外の生活の状況を、申請書類にどのように反映したかをご紹介します。
(※うつ病で障害年金の申請をご検討の方は『うつ病で障害年金はもらえる?3つの条件と金額の目安』をご覧ください。)
対象者の基本データ

ご相談時の状況と申請結果は、次のとおりです。
| 傷病名 | うつ病 |
|---|---|
| 性別 | 男性 |
| 障害者手帳 | 精神障害者保健福祉手帳3級 |
| 就労状況 | 正社員・フルタイム勤務(欠勤・遅刻・早退が頻回) |
| 日常生活の状況 | 家事は行えず、身のまわりのことも家族の促しを要する。他者との交流は困難で、職場での意思疎通もとれていない |
| 請求方法 | 障害認定日による請求 |
| 申請結果 | 障害厚生年金3級 |
| 支給額 | 年額 約59万円 認定日翌月分からのまとめ払い 約49万円 ※いずれも決定当時の額です |
障害年金の額は毎年度改定されるため、現在の金額は障害年金でもらえる金額はいくら?をご覧ください。
ご相談までの経緯
発症から当事務所へのご相談に至るまでの流れをご紹介します。
ご本人が制度を知られたのは、症状が続き、生活と就労の両面で行き詰まりを感じておられた時期でした。
発症から受診まで
転職とお父様の他界が重なった時期に、気分の落ち込みや不眠といった症状が現れました。
症状は改善せず、心配されたご家族の勧めで受診に至ります。
うつ病と診断され、通院による治療が始まりました。
その後も日常生活はご家族の支えがなければ成り立たない状況が続き、就労においても欠勤・遅刻・早退が増え、発症前と同じようには働けなくなっていました。
当事務所へのご相談

経済的な不安も重なり、ご本人はインターネットで障害年金の制度を知って申請を検討されます。
まず年金事務所に足を運ばれましたが、相談が予約制でご都合が合いませんでした。
面談を要さず、メールやLINEでのやりとりで進められる点をご確認のうえ、当事務所にご相談いただきました。
①申請のポイントと苦労した点
本事例で最も時間をかけたのは、フルタイム勤務という事実の裏側にある実態を、書面に落とし込む作業でした。
働けているという一点だけが伝わると、日常生活の制限が見えにくくなります。
フルタイム勤務でも認定されるのかという不安

初回のご相談で、ご本人が繰り返し口にされたのが「正社員でフルタイム勤務できていることで不支給にならないか」という懸念でした。
そこで、現在の勤務がどのような条件のもとで成り立っているのかを、時間をかけてお伺いしました。
聞き取りの結果、会社から相当の配慮を受けている実態が具体的に確認できたため、その内容を申請書類に反映していく方針をご説明し、ご依頼をいただきました。
会社から受けている配慮を4項目に整理した

お伺いした内容を整理すると、次の4点にまとめられました。
- 休職や欠勤、遅刻、早退を頻繁にしているが、柔軟に対応してもらえている
- 人員補充により業務を分散してもらい、仕事量を軽減してもらっている
- 勤務中に突発的な状態の変化があった際、所定外の休憩を認めてもらっている
- イレギュラーな対応や残業を免除されている
これらは、いずれも「勤務を継続できている理由」にあたります。
配慮の内容が書面に記載されていないと、勤務の実態が審査の際に十分に考慮されにくくなります。
帰宅後と休日の状態を医師にお伝えした

手続としては、まず初診日を確認するための受診状況等証明書を取得し、次に診断書の作成を主治医に依頼しました。
診察の場では勤務中の様子が話題の中心になりやすく、帰宅後や休日の状態は伝わりにくいものです。
そこで、日常生活の状況に加えて就労の状況についても詳細な資料を作成し、主治医への橋渡しを行いました。

診断書の作成をお待ちする期間を利用して病歴・就労状況等申立書を作成し、これまでの病歴と日常生活・就労状況を記載しています。
完成した診断書と申立書の内容に食い違いがないかを確認し、事務所内で提出書類をチェックしたうえで請求しました。
②結果

請求の結果と、支給の開始時期をご説明します。
障害厚生年金3級に認定されました。
本事例は障害認定日による請求であり、障害認定日の翌月分からの障害年金を受給されています。
なお、障害年金の3級は、障害認定基準において「労働が著しい制限を受けるか又は労働に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの」とされています(「傷病が治らないもの」については、労働が制限を受けるか又は労働に制限を加えることを必要とする程度のものとされています)。
※個別事案により判断は異なります。上記は当事務所がサポートさせていただいた実例であり、同じ条件であれば同じ結果が得られることを保証するものではありません。最終的な認定は、日本年金機構等の審査によります。
③担当者の振り返りと感想

本事例で行った作業のうち、記録として残るものを振り返ります。
行ったのは、実態を書面に反映するための準備でした。
ご相談者様は、勤務を続けられていること自体を「症状が軽い証拠」と受け止めておられました。
しかし、お話を伺うほど、その勤務が会社の配慮によって支えられている実態が見えてきました。
診察の場で伝えきれていない内容を資料としてまとめ、主治医にお渡しした点が、本事例で時間を要した部分です。
障害年金の請求では、診断書と病歴・就労状況等申立書が審査の中心となる資料です。
実際の生活の制限が記載されていないと、その事情が適切に評価されにくくなります。
もっとも、提出された書類だけで判断されるわけではありません。
障害認定基準は、提出された診断書等のみでは認定が困難な場合などには、再診断を求めたり、療養の経過や日常生活状況等の調査、検診その他所要の調査等を実施して、具体的かつ客観的な情報を収集したうえで認定を行うと定めています。
いずれにしても、書き方を工夫するということではなく、実際にある事実を漏れなく書面に載せるという作業になります。
本事例のポイント
本事例に関係する制度上の考え方を2点ご説明します。
いずれも、就労しながら請求を検討されている方に共通する論点です。
【本事例のポイント】就労しながらの受給

働いていることが、そのまま不支給につながるわけではありません。
精神の障害の認定について、障害認定基準は次のように定めています。
日常生活能力等の判定に当たっては、身体的機能及び精神的機能を考慮の上、社会的な適応性の程度によって判断するよう努める。また、現に仕事に従事している者については、労働に従事していることをもって、直ちに日常生活能力が向上したものと捉えず、その療養状況を考慮するとともに、仕事の種類、内容、就労状況、仕事場で受けている援助の内容、他の従業員との意思疎通の状況等を十分確認したうえで日常生活能力を判断すること。
(出典:厚生労働省「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」令和4年4月1日改正・第3の第1章第8節「精神の障害」2 認定要領 A(3))
あわせて、等級判定の目安や考慮すべき事項の例を示すものとして、厚生労働省が『国民年金・厚生年金保険 精神の障害に係る等級判定ガイドライン』を策定し、平成28年9月1日から実施されています。
同ガイドラインの〔表2〕「総合評価の際に考慮すべき要素の例」④就労状況には、共通事項として次の記載があります。
援助や配慮が常態化した環境下では安定した就労ができている場合でも、その援助や配慮がない場合に予想される状態を考慮する。
(出典:厚生労働省『国民年金・厚生年金保険 精神の障害に係る等級判定ガイドライン』平成28年9月)
さらに、同じ〔表2〕④には、精神障害について考慮すべき要素として次の4点が挙げられています。
- 安定した就労ができているか考慮する。1年を超えて就労を継続できていたとしても、その間における就労の頻度や就労を継続するために受けている援助や配慮の状況も踏まえ、就労の実態が不安定な場合は、それを考慮する
- 精神障害による出勤状況への影響(頻回の欠勤・早退・遅刻など)を考慮する
- 発病後も継続雇用されている場合は、従前の就労状況を参照しつつ、現在の仕事の内容や仕事場での援助の有無などの状況を考慮する
- 仕事場での臨機応変な対応や意思疎通に困難な状況が見られる場合は、それを考慮する
本事例のご相談者様は、転職後に発症されて同じ会社での勤務を続けておられ、欠勤・遅刻・早退が頻回で、職場での意思疎通も困難な状況にありました。
こうした事情は、診断書と病歴・就労状況等申立書に記載されることで、審査の際に考慮される情報になります。
なお、ガイドラインは等級判定の際に用いる目安や考慮すべき事項の例を示すものであり、最終的な等級は診断書等の記載内容をもとに個別に判断されます。
障害年金と就労に関しては以下の動画でもご説明していますのでご参照下さい。
働きながらの受給については『「働きながら障害年金をもらえる人」をわかりやすくご説明します』で詳しく解説しています。
※個別事案により判断は異なります。
【本事例のポイント】請求時期と診断書

障害の状態に該当した時期に応じた請求方法は、「障害認定日による請求」と「事後重症による請求」の2つです。
このほかに、既にある障害と新たに発した傷病(基準傷病)による障害とを併合して、基準傷病に係る障害認定日以後65歳に達する日の前日までの間に初めて1級または2級に該当した場合に支給される「はじめて2級による年金」があります。
名称は「はじめて2級」ですが、併合した結果が1級となる場合も含まれます。
(出典:厚生労働省「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」令和4年4月1日改正・第1「一般的事項」7)
このうち障害認定日による請求は、障害認定日に法令に定める障害の状態にあるときの請求方法で、障害認定日の翌月分から年金を受け取ることができます。
請求書は障害認定日以降であればいつでも提出できますが、さかのぼって受けられる年金は、時効により5年分が限度とされています。
(出典:日本年金機構「障害厚生年金の受給要件・請求時期・年金額」)
ここで実務上の違いが生じるのが、必要な診断書です。
枚数を分けるのは、障害認定日と年金請求日がどれだけ離れているかです。
| 障害認定日と年金請求日の間隔 | 必要な診断書 |
|---|---|
| 1年未満 | 障害認定日より3か月以内の現症のもの:1枚 |
| 1年以上 | 上記に加えて、直近の診断書(年金請求日前3か月以内の現症のもの):計2枚 |
(出典:厚生労働省「【国民年金】障害基礎年金 必要書類リスト」)
本事例は、年金請求日が障害認定日から1年未満でしたので、直近の診断書は不要でした。
なお「障害認定日」とは、障害の程度の認定を行うべき日をいい、請求する傷病の初診日から起算して1年6か月を経過した日をいいます。
また、1年6か月以内にその傷病が治った場合は、その治った日(その症状が固定し、治療の効果が期待できない状態に至った日を含みます)が障害認定日となります。
障害認定日には、傷病や処置に応じた特例も設けられています。詳しくは『障害認定日とは|はじめての人にも分かりやすく解説します』をご覧ください。
以下の動画でも「申請方法に応じた診断書の枚数」についてご説明していますので是非ご覧ください。
(※遡及請求に関しては『障害年金の遡及(そきゅう)請求とは|はじめての人にも分かりやすく解説します』をご覧ください。)
本事例に関するよくあるご質問

ご相談の際によくいただくご質問にお答えします。
Q. フルタイムで働いていても障害年金は受けられますか?
障害年金は、初診日の要件と保険料納付要件を満たしていることが前提です。
そのうえで、就労していることのみをもって不支給と判断される仕組みにはなっていません。
障害認定基準では、労働に従事していることをもって直ちに日常生活能力が向上したものとは捉えず、仕事の種類や内容、仕事場で受けている援助の内容などを十分確認したうえで日常生活能力を判断するとされています。
ただし、その内容が診断書と病歴・就労状況等申立書に記載されていないと、適切に評価されにくくなります。
要件の詳細は『うつ病で障害年金はもらえる?3つの条件と金額の目安』で解説しています。
Q. 障害者手帳3級だと、障害年金も3級になりますか?
障害者手帳と障害年金は根拠となる法律が異なる別の制度で、等級が一致するとは限りません。
本事例のご相談者様は精神障害者保健福祉手帳3級をお持ちで、障害厚生年金も3級という結果でしたが、手帳の等級が障害年金の等級を決めるものではありません。
なお、障害年金の3級は障害厚生年金にのみ設けられた等級で、初診日に厚生年金保険に加入していた方が対象となります。
Q. 障害厚生年金3級はいくら受け取れますか?
障害厚生年金3級の額は報酬比例の年金額によって決まり、これが一定の額を下回る場合には最低保障額が適用されます。
金額は毎年度改定されるため、うつ病の方の3級の目安についてはうつ病でもらえる障害年金3級の金額はいくら?をご覧ください。
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うつ病での障害年金申請でお悩みの方は、わくわく社会保険労務士法人(全国障害年金サポートセンター)までお気軽にお問い合わせください。
※本記事は2026年8月時点の年金法令、障害認定基準(令和4年4月1日改正版)、『国民年金・厚生年金保険 精神の障害に係る等級判定ガイドライン』(平成28年9月)および日本年金機構『障害年金ガイド 令和8年度版』に基づき作成しています。法令改正等により内容が変更される可能性があるため、最新情報は 日本年金機構の公式サイト 等でご確認ください。記載の支給額は決定当時の額であり、現在の金額とは異なります。申請に必要な書類は個別の事情により異なりますので、詳細は年金事務所等でご確認ください。個別の事案については社会保険労務士等の専門家へのご相談を推奨します。医学的判断は主治医にご確認ください。
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