
はじめに

うつ病で働けない状態が続くと、治療のことと同じくらい、お金のことが重くのしかかります。
「休んでいる間の収入はどうなるのか」「退職したら何がもらえるのか」
そう検索してこのページにたどり着いた方も多いのではないでしょうか。
日本の公的な支援制度は、それぞれ入口も窓口も別々です。
そのため、制度を知らないまま順序を間違えると、本来受け取れたはずの給付を受けられなくなることがあります。
この記事では、うつ病で働けない方が利用できる制度を、①今の状況で使える制度、②申請の順序と期限、③同時に受け取れるかどうかの3点に整理して解説します。
うつ病で働けないときに使えるお金の制度【状況別早見表】

うつ病で働けないときに使える制度は、会社に在籍しているなら傷病手当金、退職後で求職活動ができるなら失業手当、療養が長期化しているなら障害年金が中心になります。
まずはご自身がどの入口にいるかを確認してください。
今のご状況で最初に検討する制度
下の表は、状況ごとに最初に検討したい制度と窓口をまとめたものです。
複数の行に当てはまる方もいらっしゃいます。
| 今のご状況 | 最初に検討する制度 | 主な窓口 |
|---|---|---|
| 会社に在籍していて、休職中または休職を検討している | 傷病手当金 | 加入している健康保険(協会けんぽ・健康保険組合) |
| 働きながら治療しているが、勤務の継続が難しくなってきた | 傷病手当金(退職前に受給を開始できないかを確認) | 同上 |
| 退職済みで、療養が必要で求職活動ができない | 傷病手当金の継続給付/失業手当の受給期間延長 | 健康保険/ハローワーク |
| 退職済みで、体調が安定し求職活動ができる | 失業手当(特定理由離職者・就職困難者の区分を確認) | ハローワーク |
| 初診日から1年6か月が経過し、療養が続いている | 障害年金 | 障害基礎年金のみの請求は原則としてお住まいの市区町村役場(初診日が国民年金第3号被保険者期間中の場合、および障害厚生年金の請求は年金事務所・街角の年金相談センター) |
| 通院が長期化している/医療費・税の負担を減らしたい | 自立支援医療(精神通院医療)、精神障害者保健福祉手帳 | 市区町村の障害福祉担当窓口 |
| ほかの制度を使っても生活が成り立たない | 生活保護、住居確保給付金、生活福祉資金貸付制度 | 福祉事務所、自立相談支援機関、社会福祉協議会 |
制度を組み合わせるときの基本の順序
うつ病で仕事ができないときのお金の制度は、同時に使うものではなく、時間の流れに沿ってバトンを渡していくものと考えると整理しやすくなります。
一般的な順序は、在籍中に傷病手当金 → 退職後も継続給付 → 体調が回復したら失業手当という流れです。
療養が長期化する場合は、この流れと並行して障害年金の検討が入ります。
この順序が重要なのは、後戻りできない期限を含む手続きがあるからです。
たとえば傷病手当金の「資格喪失後の継続給付」は、退職日の時点で傷病手当金を受けられる状態にあることが条件になります。
退職を決める前に整えておく必要がある、という意味で順序が効いてきます。
次章以降で、それぞれの制度と期限を確認していきます。
【在籍中】傷病手当金|給与のおおむね3分の2を通算1年6か月

会社に在籍したまま休職されている方にとって、生活の柱になるのが傷病手当金です。
健康保険から支給される制度で、うつ病などの精神疾患も対象になります。
ここでは金額の計算方法、支給される期間、要件、申請の流れを順に確認します。
なお、傷病手当金は健康保険(協会けんぽ・健康保険組合)の被保険者向けの制度です。
公務員や私立学校の教職員の方は、加入する共済組合から同様の給付を受けられます。
一方、自営業の方などが加入する国民健康保険には、原則として傷病手当金の制度がありません。
また、退職後に任意継続被保険者になった場合、その期間中に発生した病気やけがについては傷病手当金は支給されません。
在職中から受けていた分を引き続き受け取る「継続給付」とは扱いが異なります。
1日あたりの支給額と月収別の目安
支給額は、休職前のお給料の水準をもとに計算されます。計算式は次のとおりです。
1日あたりの支給額=支給開始日以前の継続した12か月間の各月の標準報酬月額を平均した額 ÷ 30日 × 3分の2
(出典:全国健康保険協会 「病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)」)
「標準報酬月額」は健康保険料の計算に使われる区分額で、おおむね毎月の給与(通勤手当等を含む)に近い金額です。
目安は次のようになります。
| 標準報酬月額の平均 | 1日あたりの支給額 | 30日分の目安 |
|---|---|---|
| 20万円 | 約4,447円 | 約13万3,000円 |
| 26万円 | 約5,780円 | 約17万3,000円 |
| 30万円 | 約6,667円 | 約20万円 |
| 38万円 | 約8,447円 | 約25万3,000円 |
※協会けんぽの端数処理(「÷30日」で10円未満を四捨五入、「×3分の2」で1円未満を四捨五入)に基づく概算です。実際の額は加入している健康保険にご確認ください。
ここで見落とされやすいのが、加入期間が12か月に満たない場合の特例です。
入社してまもない時期に休職された方は、次のいずれか低い額を使って計算されます。
- 支給開始日の属する月以前の、継続した各月の標準報酬月額の平均額
- 全被保険者の標準報酬月額を平均した額(協会けんぽでは、支給開始日が令和7年4月1日以降の方は32万円、令和7年3月31日以前の方は30万円)
健康保険組合にご加入の場合、2の額はその組合の全被保険者の平均額になります。
転職直後で給与水準が高い方は、2が上限として働き、想定より少なくなることがあります。
支給期間は「通算」1年6か月
支給される期間は、支給を開始した日から通算して1年6か月です。
この「通算」という点が、症状に波のある方にとって大きな意味を持ちます。
令和4年1月1日から支給期間が通算化され、途中で復職して給与を受けた期間はカウントが止まるようになりました。
再び同じ傷病で休むことになった場合、残りの期間分を受け取ることができます。
ただし、復職しても支給期間がリセットされるわけではありません。
支給された日数の合計が1年6か月に達した時点で終了します。
4つの支給要件と待期3日の数え方
傷病手当金を受給するには、次の4つをすべて満たす必要があります。
- 業務外の傷病の療養であること(仕事が原因と認められる場合は労災保険の対象となる可能性があります)
- 療養のため仕事に就くことができない状態(労務不能)であること(ご自身の判断ではなく、療養担当者である医師の証明が必要です。自宅療養も対象になります)
- 連続する3日間を含み、4日以上仕事を休んでいること
- 休んだ期間について給与の支払いがないこと(支払われた給与が傷病手当金の額より少ない場合は、その差額が支給されます)
3の最初の3日間を「待期」と呼び、支給対象になりません。
待期には土日祝などの公休日や有給休暇も含めることができますが、「連続して3日間」であることが必要です。
2日休んで1日出勤し、また休んだ場合は待期が完成しません。
なお、勤務時間中に業務外の事由で発生した病気やけがで働けない状態になった場合は、その日が待期の初日として起算されます。
申請の流れと3者の記入欄
申請は、一般的に1か月単位で行います。給与の締め日を過ぎてから、その月分を申請するとスムーズです。
- 申請書を入手する——加入している健康保険のウェブサイトからダウンロードするか、勤務先の担当部署に依頼します。
- 被保険者(ご本人)の欄を記入する——氏名、振込先口座、申請期間、休んだ状況などを記入します。
- 事業主の証明を依頼する——勤務先に、休んだ期間と給与の支払状況の証明を依頼します。
- 療養担当者(医師)の意見を依頼する——労務不能であった期間について、医療機関に記入を依頼します。
- 保険者へ提出する——勤務先経由で提出する場合と、ご自身で郵送する場合があります。担当部署にご確認ください。
申請書は本人・事業主・医師の3者が記入する構成になっているため、書類がそろうまでに時間がかかります。
休職に入った段階で、早めに勤務先へ相談されることをおすすめします。
申請には2年の時効があります。
傷病手当金を受ける権利は、労務不能であった日ごとに、その翌日から2年を経過すると時効によって消滅します(健康保険法第193条)。
1か月分・1申請分をまとめて数えるのではなく、支給対象日ごとに1日単位で時効が進みます。
「落ち着いてからまとめて申請しよう」と考えているうちに、古い日から順に請求できなくなることがあるためご注意ください。
退職前に確認しておきたい「資格喪失後の継続給付」

うつ病の療養が長引き、休職期間の満了などでやむを得ず退職することになった場合でも、一定の条件を満たせば退職後も引き続き傷病手当金を受け取ることができます。
これを「資格喪失後の継続給付」といいます。
条件を満たしているかどうかの判定時点が「退職日」に固定されているため、退職を決める前に状況を確認しておきたい部分です。
2つの条件と、退職日に出勤しない理由
継続給付を受けるための条件は、次の2つです。
- 退職日までに、健康保険の被保険者期間が継続して1年以上あること(任意継続被保険者であった期間、共済組合の組合員である被保険者であった期間、国民健康保険に加入していた期間は含まれません)
- 退職日(資格喪失日の前日)に、現に傷病手当金を受けているか、受けられる状態にあること
2つ目の「受けられる状態」とは、前章の支給要件のうち、①業務外の傷病の療養であること、②療養のため仕事に就くことができないこと、③連続する3日間を含み4日以上仕事を休んでいることの3つを満たしている状態を指します。
ここが誤解されやすいところです。
退職前に申請書を提出していたことや、実際に振り込まれていたことまでが条件とされているわけではありません。
退職日の時点で上記の状態にあれば、退職後に初めて申請することもできます。
一方で、2つ目の条件から実務上とても大切な注意点が導かれます。
退職日に出勤してしまうと、その日は労務不能ではなかったと判断され、継続給付を受けられなくなる可能性があります。
あいさつや私物の整理のための出社であっても同様に扱われることがあります。
退職日の前日までに待期3日を完成させ、退職日も休んでいる状態にしておく必要があるため、事前に勤務先と加入している健康保険にご確認ください。
また、退職後にいったん働ける状態に回復したと判断された場合、その後に再び働けなくなっても継続給付は再開されません。
この点は在職中の通算化の扱いと異なります。
もう一点、退職後の収入を見通すうえで見落とせないのが老齢年金との調整です。
資格喪失後の継続給付を受けている方が老齢厚生年金などの老齢・退職を支給事由とする年金を受けられるときは、傷病手当金は支給されません。
ただし、その年金の額を360で除して得た額が傷病手当金の日額より少ない場合は、その差額が支給されます(健康保険法第108条)。
休職と退職、順序を決める前に
心身の限界を感じて衝動的に退職を申し出てしまうと、待期3日が完成しないまま被保険者資格を失ったり、退職日に出勤してしまったりして、継続給付の条件を満たせなくなることがあります。
法律上の条件は「退職日に受けられる状態にあること」ですが、実務上は、まず休職して傷病手当金の手続きを進め、受給できる状態にあることを確認したうえで退職を判断するほうが、行き違いを避けやすくなります。
なお、休職している期間は、傷病手当金だけでなく障害年金の検討も並行して進められる時期です。
当事務所にご相談いただいた方のなかにも、休職中に障害年金を請求し、受給につながった方がいらっしゃいます。
以下は当事務所が関与した個別の事例であり、公的な統計ではありません。
※個別事案により判断は異なります。
【退職後】失業手当(雇用保険の基本手当)

退職された方、または退職を検討されている方が次に確認するのが、失業手当(正式には雇用保険の基本手当)です。
ただしこの制度は「働ける状態にあること」が前提になるため、うつ病の方には注意点があります。
ここでは受給の前提、金額の目安、有利な2つの区分、そしてすぐに働けないときの手続きを確認します。
なお、以下は離職時に65歳未満の方が受ける基本手当についての説明です。
65歳以上で離職された方に支給されるのは高年齢求職者給付金で、後述する受給期間の延長制度は適用されません。
また、国家公務員・地方公務員の方は、原則として雇用保険の適用除外とされているため(雇用保険法第6条)、失業手当を受け取ることはできません。
代わりに、退職時の一般の退職手当の額が雇用保険の失業等給付相当額に満たない場合などに「失業者の退職手当」が支給される仕組みがあります(国家公務員退職手当法第10条、地方公務員は各自治体の条例)。
前章の傷病手当金は共済組合から同様の給付を受けられますが、失業手当は扱いが異なる点にご注意ください。
「働ける状態」とは
失業手当は、「失業の状態」にある方のための制度です。
ハローワークでは、就職しようとする積極的な意思と、いつでも就職できる能力があるにもかかわらず職業に就けない状態を指すとされています。
症状が重く、医師から就労を止められていて求職活動ができない状態では、この条件を満たさず受給できません。
一方で、「働ける能力がある」ことは「うつ病が完全に治っていること」を意味するわけではありません。
治療を続けながらも体調が安定し、ハローワークに通って求職活動を行える状態であれば、受給の対象になり得ます。
1日あたりの金額(基本手当日額)
失業手当の1日あたりの金額を「基本手当日額」といいます。
傷病手当金とは計算の考え方が異なるため、目安を確認しておきましょう。
基本手当日額は、原則として離職した日の直前6か月に毎月きまって支払われた賃金(賞与等は除きます)の合計を180で割った額(賃金日額)の、およそ50〜80%です。
60歳以上65歳未満の方は45〜80%となります。
賃金が低かった方ほど高い率が適用されます。
ただし、年齢区分ごとに上限額が定められています。
令和8年8月1日現在は次のとおりです。
| 離職時の年齢 | 基本手当日額の上限 |
|---|---|
| 30歳未満 | 7,450円 |
| 30歳以上45歳未満 | 8,270円 |
| 45歳以上60歳未満 | 9,110円 |
| 60歳以上65歳未満 | 7,830円 |
(出典:ハローワークインターネットサービス 「基本手当について」)
※上限額は毎年8月1日に改定されます。最新の額はハローワークの公式サイトでご確認ください。
特定理由離職者|給付制限がなくなる区分

正当な理由のない自己都合退職の場合、7日間の待期期間の満了後に「給付制限」の期間が設けられます。
給付制限の期間は、離職日が令和7年4月1日以降であれば原則1か月、同年3月31日以前であれば原則2か月です。
ただし、離職日からさかのぼって5年間のうちに2回以上、正当な理由なく自己都合離職して受給資格決定を受けた場合や、重責解雇の場合は3か月となります。
なお、令和7年4月以降にリ・スキリングのための教育訓練等を受けた場合は、給付制限が解除される仕組みも設けられています(詳細は厚生労働省 「令和7年4月以降に教育訓練等を受ける場合、給付制限が解除され、基本手当を受給できます」をご覧ください)。
うつ病などにより、やむを得ず退職した場合は、ハローワークで特定理由離職者として認定される可能性があります。
認定されると、次のように扱いが変わります。
| 項目 | 一般の離職者 | 特定理由離職者(正当な理由のある自己都合) |
|---|---|---|
| 給付制限 | 原則1か月(令和7年4月1日以降の離職) | なし |
| 必要な被保険者期間 | 離職日以前2年間に通算12か月以上 | 離職日以前1年間に通算6か月以上 |
| 所定給付日数 | 90〜150日 | 90〜150日(一般と同じ) |
ここで誤解が多いのが所定給付日数です。
病気などの正当な理由による自己都合退職の場合、所定給付日数は一般の離職者と同じ90〜150日で、年齢による差はありません。
「特定理由離職者は90〜330日」という説明を見かけることがありますが、これは有期労働契約が更新されなかった方(いわゆる雇止め)に適用される暫定措置の日数です。
対象となる離職日は平成21年3月31日から令和9年3月31日までとされており、病気を理由に退職された方はこの暫定措置の対象ではありません。
なお、特定理由離職者に認定されると、国民健康保険料の軽減措置を受けられる場合があります。
詳しくはお住まいの市区町村の国民健康保険担当窓口にご確認ください。
認定を受けるには、ハローワーク所定の様式による医師の証明などが求められるのが一般的です。
離職票の離職理由が自己都合となっていても、ご自身の認識をハローワークに申し出ることができ、最終的な判断はハローワークが行います。
就職困難者|給付日数が150〜360日になる区分
さらに、就職が著しく困難であると認められた場合は「就職困難者」の区分になり、所定給付日数が大きく伸びます。
| 被保険者であった期間 | 45歳未満 | 45歳以上65歳未満 |
|---|---|---|
| 1年未満 | 150日 | 150日 |
| 1年以上 | 300日 | 360日 |
(出典:ハローワークインターネットサービス 「基本手当の所定給付日数」)
対象の範囲は、一般に知られているより限定されており、法令で具体的に定められています。
精神障害のある方については、症状が安定し就労が可能な状態にある方のうち、次のいずれかに当たる方とされています。
- 精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている方
- 統合失調症、そううつ病(そう病およびうつ病を含みます)またはてんかんにかかっている方
(根拠:障害者の雇用の促進等に関する法律施行規則第1条の4)
診断名がこの範囲に含まれるかどうかは、提出された書類をもとにハローワークが判断します。
手帳をお持ちでない場合は、ハローワークが指定する様式の主治医の意見書を求められることが一般的です。
一般的な診断書では代用できないことが多いため、まず窓口で様式を受け取ってから主治医にご依頼ください。
認定するかどうかを判断するのは医師ではなくハローワークです。
診断名が該当していても自動的に認定されるわけではないため、手続きの前に窓口でご相談ください。
すぐに働けないときは受給期間の延長を
退職後、症状が重くてすぐに求職活動を始められない方も少なくありません。
その場合は「受給期間の延長」の手続きをご検討ください。
失業手当は原則として離職日の翌日から1年以内に受け取り終える必要がありますが、病気などの理由で引き続き30日以上職業に就くことができない場合、申請により受給期間を最長3年間延長し、合計4年までとすることができます。
ただし、所定給付日数が330日の方は「3年-30日」、360日の方は「3年-60日」が延長できる上限です。
前章の就職困難者に認定されて360日となった方は、全員が一律に3年延長できるわけではない点にご注意ください。
申請できるのは、引き続き30日以上職業に就くことができなくなった日の翌日以降です(離職前から働けない状態が続いていた場合は、離職日の翌日から30日を経過した日の翌日以降)。申請期限は、平成29年4月1日から延長後の受給期間の最後の日までに変更されています。
ただし、申請できる期間内であっても、申請が遅くなると所定給付日数のすべてを受給できないことがあります。
期限に余裕があるからと後回しにせず、早めにお住まいの住居所を管轄するハローワークに申請してください。
傷病手当金と失業手当は同時に受けられない

「傷病手当金と失業手当は両方もらえるのか」は、この分野で最も多い疑問のひとつです。
結論として、この2つを同時に受け取ることはできません。
制度の目的が正反対だからです。ここでは、その理由と切り替えの考え方を整理します。
併給できない理由と、切り替えるタイミング
2つの制度は、次のように前提が異なります。
- 傷病手当金——病気やけがで「働けない」方のための制度
- 失業手当——「働ける」状態にあるが、仕事が見つからない方のための制度
定義上、両立しません。したがって進め方としては、まず傷病手当金で療養に専念し、働ける状態になった段階で失業手当に切り替えるのが基本になります。
退職後に継続給付を受けている方は、まずそちらを活用します。
並行して失業手当の受給期間延長を申請しておくと、傷病手当金の期間が終わったあとに改めて受給の手続きを取ることができます。
主治医から求職活動を始めてよいという判断が得られた段階で、ハローワークで延長の解除と受給の手続きを行います。
失業手当の受給中に働けなくなったとき
失業手当の受給手続きを済ませたあとに体調を崩し、求職活動ができなくなることもあります。
この場合の扱いは、働けない期間の長さによって分かれます。
| 働けない期間 | 主な取扱い |
|---|---|
| 14日以内 | 基本手当が支給されます |
| 15日以上 | 基本手当に代えて、雇用保険の「傷病手当」が支給されます |
| 30日以上 | 受給期間の延長を申請できます |
(出典:ハローワークインターネットサービス 「基本手当について」)
ここで混同しやすいのが名称です。健康保険の「傷病手当金」と、雇用保険の「傷病手当」は別の制度です。
前者は在職中(および継続給付)に健康保険から支給されるもの、後者は失業手当の受給資格者が求職の申込み後に働けなくなったときに基本手当に代えて支給されるものです。
なお、受給期間を延長したあとに、その延長理由と同じ疾病または負傷を理由として雇用保険の傷病手当を申請した場合、支給日数は「受給期間の延長がなかったものとした場合に支給できる日数」が限度とされています。
療養が長引くときの障害年金

ここからは、当事務所の専門分野である障害年金について解説します。
傷病手当金や失業手当が比較的短期の支えであるのに対し、障害年金は長期的な療養が必要な方の生活を支える制度です。
うつ病などの精神疾患も対象になります。
なお、うつ病と障害年金の要件・等級・金額の詳細はうつ病で障害年金はもらえる?3つの条件と金額の目安で詳しく解説しています。
いつから検討できるか
障害年金には「障害認定日」という考え方があります。
原則として、初診日(障害の原因となった傷病について初めて医師又は歯科医師の診療を受けた日)から1年6か月を経過した日です。
その期間内に傷病が治った場合(症状が固定し治療の効果が期待できない状態に至った日を含みます)は、その日が障害認定日になります。
この日を待たずに請求することは原則としてできません。
傷病手当金の支給期間(通算1年6か月)と時期が近いのは偶然ではなく、傷病手当金が終わるころに障害年金の検討時期が来ると考えると、資金計画が立てやすくなります。
障害認定日の時点では障害の状態に該当しなかった方も、その後に症状が悪化した場合は「事後重症による請求」という方法があります。
ただし請求書は65歳の誕生日の前々日までに提出する必要があり、支給が始まるのは請求した月の翌月分からで、さかのぼって受け取ることはできません。
詳しくは事後重症請求とは|はじめての人にも分かりやすく解説しますをご覧ください。
書類の準備には一般的に1〜2か月、請求してから結果が出るまでにさらに数か月かかることが多いため、早めに情報を集めておかれることをおすすめします。
手続きの全体像は障害年金の申請から受給までの流れにまとめています。
3つの要件の要点
障害年金を受給するには、次の3つの要件をすべて満たす必要があります。
1. 初診日要件
障害基礎年金の対象になるのは、①国民年金の加入期間、②20歳前、または日本国内に住んでいる60歳以上65歳未満で年金制度に加入していない期間のいずれかに初診日がある場合です。
初診日に厚生年金保険に加入していた方(会社員・公務員など)は障害厚生年金の対象になります。
②の20歳前で年金制度に加入していない期間に初診日がある場合は、後述する保険料納付要件は問われません。
ただし、その代わりに本人の所得による支給制限が設けられています(日本年金機構 「20歳前の傷病による障害基礎年金にかかる支給制限等」)。
なお、老齢基礎年金を繰上げ請求している場合は、障害年金を請求できないことがあります。
60歳以降に繰上げ受給を検討されている方はご注意ください。
2. 保険料納付要件
初診日の前日において、初診日がある月の前々月までの被保険者期間のうち、保険料納付済期間と保険料免除期間を合わせた期間が3分の2以上あることが原則です。
これを満たさない場合でも、初診日が令和18年3月末日までにあり、初診日において65歳未満であれば、初診日の前日において、初診日がある月の前々月までの直近1年間に保険料の未納がなければ要件を満たすものとされています。
この特例の期限は法改正により延長されており、「令和8年3月末まで」とする記載は改正前の情報です。
免除の期間は納付済みの期間と同様に扱われますが、初診日より後に申請して承認された免除期間は算入されません。
また一部免除の場合は、免除されていない残りの保険料を納めていないと未納として扱われます。
3. 障害状態該当要件
障害認定日などの時点で、法令に定める障害の状態にあることが必要です。
ここで注意していただきたいのが等級の範囲です。
障害基礎年金は1級と2級のみで、3級はありません。
3級および一時金である障害手当金は、障害厚生年金にのみ設けられています。
障害厚生年金の1級・2級に該当する場合は、障害基礎年金が併せて支給されるのが原則です。
ただし、65歳以降に厚生年金保険に加入中の初診日がある場合は、1級・2級でも障害基礎年金が支給されず障害厚生年金のみとなることがあります。
年金額は等級や加入していた制度、生年月日などによって異なり、毎年度改定されます。具体的な金額は次の記事をご覧ください。
(受給要件の一次情報:日本年金機構 「障害基礎年金の受給要件・請求時期・年金額」、「障害厚生年金の受給要件・請求時期・年金額」)
うつ病などの精神疾患では、診断書の「日常生活能力の判定」「日常生活能力の程度」の欄と、ご自身が作成する「病歴・就労状況等申立書」が審査上の重要な資料になります。
日ごろの受診の際に、生活上の困りごとを具体的に主治医へお伝えしておくことが、実態に即した診断書につながります。
医学的な判断は主治医とご相談ください。申立書の書き方は【自分で書ける】病歴・就労状況等申立書で解説しています。
傷病手当金・労災との調整

ここは資金計画に大きく関わる部分です。
傷病手当金を受けながら障害年金を請求される方は多いのですが、同じ傷病であれば、両方を満額受け取れるわけではありません。
健康保険法第108条により、同一の傷病について障害厚生年金を受けられるときは、傷病手当金は支給されません。
ただし、障害厚生年金の額(同一の支給事由による障害基礎年金も受けられるときは、その合算額)を360で除して得た額が傷病手当金の日額より少ない場合は、その差額が傷病手当金として支給されます。
見落とされやすいのが次の2点です。
- 調整の対象は障害厚生年金(および障害手当金)です。 初診日に国民年金に加入していて、障害基礎年金のみを受給する場合は、同一傷病であっても原則として調整されません。
- 傷病手当金と障害年金の原因となった傷病が別であれば、調整されません。
障害年金をさかのぼって受給した結果、傷病手当金の受給期間と重なった場合には、重複部分の返還を求められることがあります。
障害年金の決定通知を受け取ったら、支給の対象期間を確認し、加入している健康保険へご連絡ください。
労災保険との関係は向きが逆になります。
同一の事由で労災保険の障害補償給付等と障害年金が併給される場合は、原則として障害年金が全額支給され、労災給付の側が調整されます。
ただし、20歳前の傷病による障害基礎年金については例外があり、労災保険の年金等を受けているときは、その範囲で障害基礎年金の側が支給停止となります(国民年金法第36条の2)。
当事務所では、傷病手当金を受給しながら障害年金を請求された方の事例も扱っています。
以下は当事務所が関与した個別の事例であり、公的な統計ではありません。
※個別事案により判断は異なります。
医療費・税・生活費の負担を軽くする制度

収入を確保する制度と並んで大切なのが、出ていくお金を抑える制度です。
医療費・税金・住まいの3つの側面から、負担を軽くする仕組みが用意されています。
いずれも申請しなければ利用できないため、早めに窓口へご相談ください。
自立支援医療(精神通院医療)
うつ病などの精神疾患で通院による治療を続ける必要がある方の、医療費の自己負担を軽減する制度です。
通常3割の自己負担が原則1割に軽減され、さらに世帯の所得に応じて1か月あたりの自己負担上限額が設定されます。
この「世帯」は、住民票上の世帯とは限りません。
自立支援医療では同じ医療保険に加入している方を一つの世帯として扱うことが原則で、同居のご家族でも加入している医療保険が異なれば別の世帯として扱われます。
税制上の扶養関係とも別に判断されます。
外来診療、外来での投薬、デイケア、訪問看護などが対象で、都道府県または指定都市が指定した「指定自立支援医療機関」での医療に限られます。
現在通院されている医療機関が指定を受けているかは、医療機関にご確認ください。
申請はお住まいの市区町村の障害福祉担当窓口で行い、主治医の診断書(意見書)が必要です。
原則1年ごとの更新があるため、更新時期を控えておかれると安心です(制度の概要は厚生労働省 「自立支援医療(精神通院医療)の概要」をご覧ください)。
精神障害者保健福祉手帳
一定程度の精神障害の状態にあることを証明する手帳で、1級から3級まであります。
交付を受けると、等級に応じて所得税・住民税の障害者控除が適用され、自治体によっては公共交通機関や公共施設の割引などのサービスを受けられる場合があります。
なお、精神障害者保健福祉手帳の等級と障害年金の等級は、判定の基準が異なるため一致するとは限りません。
手帳が3級でも障害年金を受給されている方、その逆の方のいずれもいらっしゃいます。
以下は当事務所が関与した個別の事例であり、公的な統計ではありません。
※個別事案により判断は異なります。
手帳と障害年金の関係については、次の記事で詳しく解説しています。
生活保護・住居確保給付金・生活福祉資金貸付制度
ほかの制度を活用しても生活が成り立たない場合に検討する制度です。
生活保護
生活保護は、資産や能力、ほかのあらゆる制度を活用してもなお生活に困窮する方に対し、健康で文化的な最低限度の生活を保障する制度です。
「親族に連絡がいく」「持ち家や車があると使えない」といった理由でためらわれる方が少なくありませんが、居住用の持ち家や通院に必要な自動車の保有が認められるケースもあります。
まずはお住まいの地域を管轄する福祉事務所にご相談ください。
住居確保給付金
住居確保給付金は、離職・廃業や、ご自身の責任によらない収入の減少により住居を失うおそれがある方に、家賃相当額を支給する制度です。
支給期間は原則3か月で、要件を満たせば最長9か月まで延長できる場合があります。窓口は自立相談支援機関です。
生活福祉資金貸付制度
生活福祉資金貸付制度は、低所得世帯・障害者世帯・高齢者世帯などを対象に、生活の再建に必要な資金を無利子または低金利で貸し付ける制度です。
あくまで貸付であり返済が必要ですが、緊急のつなぎとして選択肢になります。
窓口はお住まいの市区町村の社会福祉協議会です。
このほか、収入が減って国民年金保険料の納付が難しい場合は、免除・納付猶予の申請をご検討ください。
未納のまま放置すると、将来の障害年金の保険料納付要件にも影響します。
免除や納付猶予が承認された期間は、障害年金・遺族年金の保険料納付要件のうえでは算入されます。
ただし、老齢基礎年金の年金額への反映は別の扱いになります。
全額免除の期間は年金額に一部のみ反映され、納付猶予や学生納付特例の期間は、追納しない限り年金額には反映されません。
なお、単身でお住まいの方が障害年金を検討される場合の考え方は、一人暮らしで障害年金をもらえる人でも解説しています。
仕事が原因と思われるときの労災保険
長時間労働やハラスメントなど、業務が原因でうつ病を発症したと考えられる場合は、労働災害(労災)として認定される可能性があります。
健康保険の傷病手当金とは制度が分かれているため、どちらの入口に立つのかを整理しておく必要があります。
傷病手当金との関係と相談先
労災と認定されると、療養に関する給付のほか、休業した期間について休業補償給付が支給されます。
一方、健康保険の傷病手当金は「業務外の事由による」傷病が対象です。
したがって、同じ傷病について労災保険の給付と傷病手当金の両方を受け取ることはできません。
労災保険の給付対象となる場合、健康保険からは保険給付が行われない仕組みになっています。
精神障害の労災認定では、発病前のおおむね6か月の間に業務による強い心理的負荷があったと認められることなどが要件とされており、手続きには時間がかかることが一般的です。
申請の窓口は、勤務先を管轄する労働基準監督署です。
労災の請求手続そのものは社会保険労務士が取り扱う業務ですが、会社との間で損害賠償など紛争性のある問題が生じている場合は、弁護士へのご相談が適切です。
復職・再就職に向けた支援
療養が進み、少しずつ働くことを考えられるようになったときに、体調に合わせて利用できる支援があります。
ここでは復職を目指す方と、新しい職場を探す方それぞれのプログラムを紹介します。
リワーク支援
現在休職中で、元の職場への復帰を目指す方のためのプログラムです。
医療機関、地域障害者職業センター、福祉サービス事業所などで実施されており、生活リズムの回復、模擬的な業務、再発を防ぐための取り組みなどを通じて職場復帰を支援します。
就労移行支援
退職された方が、新しい職場への就職を目指す際に利用できる福祉サービスです。
事業所に通いながら、職業訓練、就職活動のサポート、就職後の定着支援までを一貫して受けられます。
精神疾患のある方に配慮したプログラムを提供している事業所もあります。
なお、体調に配慮を受けながら働くことと、障害年金の受給は両立し得ます。
就労している場合の考え方は働きながら障害年金をもらえる人で詳しく解説しています。
よくあるご質問
この記事に寄せられることの多い疑問をまとめました。
個別の状況によって扱いが変わる場合がありますので、判断に迷われるときは各制度の窓口にご確認ください。
Q. 傷病手当金と失業手当は両方もらえますか?
同時に受け取ることはできません。
傷病手当金は働けない方、失業手当は働ける方が対象で、前提が正反対だからです。
療養中は傷病手当金を受けつつ失業手当の受給期間延長を申請しておき、働ける状態になってから失業手当に切り替える流れが一般的です。
Q. 退職してから初めて傷病手当金を申請できますか?
条件を満たしていれば、退職後に初めて申請することもできます。
「資格喪失後の継続給付」に必要なのは、①退職日までに健康保険の被保険者期間が継続して1年以上あること(任意継続被保険者・共済組合の組合員・国民健康保険の加入期間を除きます)、②退職日に傷病手当金を受けられる状態にあったこと、の2つです。
退職前に申請書を提出していたことや、実際に振り込まれていたことまでは求められていません。
ただし、退職後に初めて発症した傷病や、退職日の時点で待期3日が完成していなかった場合は対象になりません。
Q. 障害年金と傷病手当金は同時に受けられますか?
同一の傷病について障害厚生年金を受けられる場合、傷病手当金は原則として支給されません(障害厚生年金等の額を360で除した額が傷病手当金の日額より少ないときは差額が支給されます)。
一方、障害基礎年金のみを受給する場合や、原因となった傷病が別である場合は、原則として調整されません。
Q. うつ病でも失業手当を受け取れないことはありますか?
症状のため求職活動ができない状態では、「失業の状態」に当たらないため受給できません。
この場合は受給期間の延長を申請し、働ける状態になってから受給する形になります。
Q. 障害者手帳がなくても就職困難者として認定されますか?
精神障害者保健福祉手帳をお持ちでない場合でも、統合失調症・そううつ病(そう病およびうつ病を含みます)・てんかんにかかっており、症状が安定して就労が可能な状態であれば、主治医の意見書により認定される場合があります。
ハローワーク所定の様式が必要になるため、まず窓口でご確認ください。
認定するかどうかの判断はハローワークが行います。
まとめ
うつ病で働けないときに使える制度を、順序に沿って整理してきました。
要点は次の3つです。
- 在籍中は傷病手当金が生活の柱になります。給与のおおむね3分の2が、通算1年6か月まで支給されます。
- 退職日の状態が結果を左右します。 退職日に傷病手当金を受けられる状態にあり、被保険者期間が継続して1年以上あれば、資格喪失後の継続給付につながります(退職後に初めて申請することも可能です)。失業手当は、体調が回復してからの受け皿として受給期間の延長を申請しておくと安心です。
- 療養が長期化する場合は障害年金が選択肢に入ります。初診日から1年6か月が一つの目安ですが、傷病手当金との調整があるため、受給の見通しは早めに確認しておかれることをおすすめします。
うつ病で働けないときのお金の問題は、一度に全部を把握する必要はありません。
今のご状況に当てはまる窓口から、一つずつ相談を始めていただければ十分です。
障害年金の申請でお悩みの方は、わくわく社会保険労務士法人(全国障害年金サポートセンター)までお気軽にお問い合わせください。

※本記事は2026年8月時点の法令・障害認定基準に基づき作成しています。法令改正等により内容が変更される可能性があるため、最新の情報は日本年金機構の公式サイト、全国健康保険協会、ハローワークインターネットサービス等でご確認ください。個別の事案については社会保険労務士・弁護士等の専門家へのご相談を推奨します。医学的判断は主治医にご確認ください。
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