障害年金を申請する際には「初診日」(最初に医療機関を受診した日)が重要なポイントですが、複数の病気やケガが関係している場合、その初診日を決める上で「相当因果関係」という考え方が深く関わってきます。

相当因果関係の有無によって初診日が変わり、場合によっては障害年金を申請できなくなる可能性もあるため、この概念を正しく理解しておくことが大切です。

この記事では専門家の視点から、この「相当因果関係」についてできるだけやさしく、詳しく解説します。

「相当因果関係」と初診日の関係とは?

まず、障害年金における初診日の基本を確認しましょう。(※初診日に関しましては『初診日とは』のページで詳しくご説明していますので、ご参照下さい。)

原則として初診日とは、「障害の原因となった傷病について初めて医師の診療を受けた日」を指します。

ところが、複数の病気・負傷が関係するケースでは話が複雑になります。

「相当因果関係」とは、障害年金の障害認定基準上、「前の疾病または負傷がなかったならば後の疾病は起こらなかったであろう」と医学的所見などを踏まえて行政上認定される関係性のことを指します。(※医学的な因果関係があっても、年金審査上は「相当因果関係なし」と判断されることもあります。)

障害年金の認定基準でも、「前の疾病または負傷がなかったならば、後の疾病が起こらなかったであろう」と判断される場合には両者の間に相当因果関係があるとされています。

この相当因果関係が「あり」と認められると、前後の傷病は同一の傷病として扱われます

一方、「なし」と判断される場合は別々の傷病として扱われます

そして相当因果関係の有無により、障害年金上の初診日の扱いが変わります。

具体的には、以下のようになります。

  • 相当因果関係がある場合 → 後から発症した障害の原因となった前の病気・ケガの初診日までさかのぼります(前の傷病で初めて受診した日が初診日)。
  • 相当因果関係がない場合 → 後から発症した病気自体の初診日がそのまま障害年金の初診日になります。

例えば、糖尿病を長年患って治療していた方が、その合併症である糖尿病性腎症(腎不全で人工透析が必要な状態)に至り、視力や腎機能の障害で年金請求するケースを考えてみましょう。

障害年金の初診日は、一見すると「腎不全(人工透析)で初めて受診した日」に思えます。

しかしこの場合、腎不全の原因は糖尿病ですから、障害年金上は糖尿病と腎不全を一連の傷病とみなし、糖尿病について最初に医師の診療を受けた日が初診日と扱われます。

このように「前の傷病が後の傷病の原因になっている」場合は相当因果関係ありと判断され、初診日を最初の傷病まで遡って考える必要があるわけです。

逆に、前の障害が原因で起きた出来事で後の障害が生じたようなケースでは相当因果関係なしとされます。

例えば視力障害がある方がそれを原因に転倒して骨折し、肢体に障害が残った場合などでは、視力障害(前の障害)と骨折による障害(後の障害)は障害年金上は別個の障害と扱われます。

このケースでは後発のケガによる障害について新たに初診日(骨折で初めて受診した日)が設定され、前の視力障害の初診日とは切り離されます。

ポイント

相当因果関係が認められるのは、前の傷病が「疾病または負傷」で後の傷病が「疾病」の場合に限られます。
後の障害原因がケガである場合(例:障害の結果として事故に遭うなど)は、原則として相当因果関係なしと扱われます。
この考え方は、障害認定基準で「起因する疾病」として認められるのが『後の“疾病”に限られ、負傷は含まれない』と定義されていることに基づきます。
そのため、視力障害が原因で転倒し骨折したといった「後がケガ」のケースは、障害年金上は別個の傷病として扱われます。
先の視力障害と骨折の例がまさにそれで、医学的因果関係はあっても障害年金の制度上は結び付けて考えない決まりになっているのです。

相当因果関係が認められる主なケース

では、実際にどのような組み合わせの傷病が相当因果関係ありと判断されるのでしょうか。

障害年金の認定基準で例示されている代表的なケースを以下にまとめます。

前の傷病(原因となる病気・負傷)後の傷病(結果として発症した病気)判定(相当因果関係)
糖尿病糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、糖尿病性壊疽
(糖尿病性神経障害・糖尿病性動脈閉塞症を含む)
あり(同一傷病として扱う)
糸球体腎炎、ネフローゼ症候群、慢性腎炎 など慢性腎不全(人工透析が必要な腎機能障害)あり(たとえ期間があいても前病が原因)
肝炎肝硬変あり
結核の治療中の薬剤副作用聴力障害(難聴)あり
手術時の輸血輸血が原因で発症した肝炎あり
ステロイド投薬(治療)副作用による大腿骨頭壊死あり
事故または脳血管疾患(脳卒中など)精神障害(うつ病・高次脳機能障害など)あり
肺疾患(肺の病気)とその手術術後の呼吸不全(呼吸障害)あり(手術後長期間経過しても認める)
原発不明のがん(悪性新生物)転移性の悪性新生物(転移が確認された場合)あり

上記はいずれも、「前の病気がなければ後の病気は起こらなかった」と考えるのが通常だと言える代表例です。

たとえば糖尿病とその合併症(網膜症や腎症など)の関係は、医学的にも明らかに前者が原因となりうるため、障害年金上も強い因果関係があるものとみなされます。

また、事故や脳卒中によって後遺的に精神障害を発症したケースなども、前の出来事(外傷・脳血管疾患)がなければ生じなかった障害として同一の傷病の枠内で扱われます。

要するに、相当の確率で前の病気が後の病気の原因だといえる場合には、障害年金においてもそれらをひとつづきの原因と考えるわけです。

相当因果関係が認められない主なケース

一方で、医学的には因果関係がありそうでも障害年金上では相当因果関係なしとされるケースも存在します。

代表的な例を以下にまとめます。

前の傷病(既往症)後の傷病(障害の直接原因)判定(相当因果関係)
高血圧症脳出血・脳梗塞(脳卒中による障害)なし(別の傷病として扱う)
糖尿病脳出血・脳梗塞(脳卒中による障害)なし
近視(強度近視)黄斑変性、網膜剥離、視神経萎縮 などなし

これらの例では、医学的に見ると原因となり得る組み合わせです。

しかし障害年金の認定基準では、「高血圧⇒脳卒中」「糖尿病⇒脳卒中」「強度近視⇒網膜の障害」といったケースは相当因果関係なしと扱うことが示されています。

実際、高血圧と脳出血のように医学的因果関係が認められるものでも、障害年金上は別々の傷病と判断されることがあります。

これは障害年金の運用上の基準があえて厳密に限定されているためで、「相当因果関係あり」と見なすのはあくまで典型的で因果関係が明白なパターンに限られるからです。

なお、ここで挙げた「あり」「なし」の例は一部にすぎません。

リストにない組み合わせについては、傷病の特性や症状の経過などを総合的に考慮し、主治医の意見や医学的知見を踏まえて個別判断されます。

自分のケースで相当因果関係があるかどうか迷う場合は、担当医に意見を求めたり、障害年金の専門家に相談したりすると良いでしょう。

※医師の見解と年金審査側(認定医)の判断が異なることもある点には注意が必要です。

初診日が変わると何がどう影響するの?

ここまで見てきたように、相当因果関係の有無によって初診日が前後します。

この初診日の違いは、障害年金を受け取る上で次のような重要ポイントに影響します。

保険料納付要件への該当可否

障害年金を受け取るためには、原則として「保険料納付要件」を満たしている必要があります。

具体的には(初診日が令和18年3月末日までの場合)、以下ののいずれか一方を満たしていれば足りるとされています。

  • 初診日のある月の前々月までの公的年金加入期間のうち、3分の2以上の期間で保険料が納付・免除されている
  • 初診日に65歳未満であり、初診日のある月の前々月までの1年間に保険料の未納がない

なお、初診日が20歳前の傷病による障害基礎年金(いわゆる「20歳前傷病」)に該当する場合は、保険料納付要件そのものは課されません。

もし前の傷病の初診日までさかのぼった場合、その当時に年金保険料の納付状況が不足していると受給資格を満たせず年金を請求できない恐れがあります。

逆に、初診日が後の傷病になる(=最近の時点になる)ことで保険料要件を満たせるケースもありえます。

このため、初診日がどの時点に定まるかは受給資格そのものに直結します。

受け取れる年金の種類・額

初診日の時点で加入していた年金制度により、受給できる障害年金の種類が異なります。

日本の障害年金には、自営業者や学生等が対象の「障害基礎年金」(国民年金)と、会社員・公務員等が対象の「障害厚生年金」(厚生年金)の2種類があります。

障害厚生年金は、1級・2級では障害基礎年金に上乗せして支給され、3級では厚生年金部分のみが支給される仕組みです。

そのため、初診日に厚生年金に加入していた方の方が、同じ等級でも受給額が多くなるケースが一般的です。

もし相当因果関係ありと判断されることで初診日が過去にさかのぼり、その時点で厚生年金に未加入(国民年金のみ)だった場合、障害厚生年金が受け取れなくなる可能性があります。

反対に、本来は前の傷病の初診日が国民年金期間だったとしても、後の傷病発症時には厚生年金に加入していれば、初診日を後発の傷病とすることで障害厚生年金まで受給できるチャンスが生まれます。

このように、初診日の違いは「そもそも年金を受け取れるか」「受け取れる年金の種類と額」にまで影響します。

したがって、ご自身の病歴の中で複数の病気・障害が関連している場合は、「どこを初診日にするか」を慎重に考える必要があります。

初診日がリセットされる特例「社会的治癒」

「相当因果関係あり」と判断されると、原則は一番最初の傷病の初診日まで遡ってしまうと説明しました。

しかし実は、ある条件下では例外的に初診日を「リセット」できる可能性があります。

そのカギとなるのが「社会的治癒」という考え方です。

社会的治癒とは、平たく言えば「一度かかった病気が治って、社会復帰できている状態」を指します。

医学的に完全に治癒したかどうかというより、「治療の必要がなくなり、長期間にわたり症状の再発もなく、通常の社会生活(就労や家事等)ができている状態」が続いている場合に、その病気は社会的にみて治癒したと評価されます。

一般的には5年程度そうした安定した状態が続いていることが一つの目安と言われますが、明確な年数の基準があるわけではありません。

実際には傷病の種類や症状の寛解状況などを総合的に判断して決められます。

なお、社会的治癒とみなされる期間中に経過観察の通院や予防的な服薬を行っていたとしても、実質的に治療を要しない状態であれば社会的治癒が認められるケースもあります。

では、この社会的治癒が障害年金においてどんなメリットをもたらすのでしょうか。

ポイントは、「一度社会的に治癒した後に再発・発症した病気は“新たな傷病”として扱われる」という点です。

具体的には、相当因果関係ありと判断される前後の傷病があっても、前の傷病について社会的治癒が認められれば、後発の傷病の初診日を改めて障害年金の初診日とみなすことができます。

言い換えれば、一連の傷病のつながりを一旦リセットし、治癒後に改めて発症したものとして初診日を設定し直せるのです。

社会的治癒が認められると、初診日が後発の傷病側になるため、先ほど述べたような保険料要件や年金種類の不利を解消できる可能性があります。

主なメリットは次の2点です。

過去の初診日で保険料要件を満たさなかった場合の救済

仮に最初の傷病の初診日時点で年金保険料の納付が足りず受給資格を満たしていなくても、社会的治癒により後発の傷病の初診日を適用できれば、その後の時点で保険料要件をクリアしていれば障害年金を請求できるようになります。

過去に受給を断念していた方でも、社会的治癒を証明できれば受給への道が開けるケースがあります。

年金種別の変更による有利な受給

初診日当時にどの年金制度に加入していたかで、受け取れる年金の種類が変わります。

社会的治癒前の初診日が国民年金加入中(自営業・学生など)だった場合、本来は障害基礎年金の対象にしかなりません。

しかし治癒後に発症した傷病を初診日とできれば、その時点で厚生年金に加入していれば障害厚生年金の受給対象になります。

つまり、以前は会社員でなかった人が社会的治癒後に会社員となっていれば、厚生年金からの障害年金(基礎年金+厚生年金の上乗せ)を受け取れる可能性が出てくるのです。

金額面でも有利になる場合が多いため、該当する人にとって大きなメリットと言えるでしょう。

社会的治癒を主張するには、上記のような条件を満たしていることを医療記録や勤務記録などで立証する必要があります。

やや手間はかかりますが、その分得られるメリットも大きいため、ご自身のケースで社会的治癒に該当しそうな方は検討する価値があります。

(※社会的治癒に関しましては『社会的治癒とは』のページで詳しくご説明していますので、ご参照下さい。)

まとめ

今回は、障害年金における相当因果関係の考え方と、初診日との関係について詳しく解説しました。

重要な点を振り返ります。

  • 相当因果関係ありと判断されるとき: 前の病気・ケガがなければ後の障害が起こらなかったと認められる場合、初診日は前の傷病を初めて受診した日となります。初診日が大きく遡ることで、受給資格や受給できる年金種類に影響が出ることがあります。
  • 相当因果関係なしと判断されるとき: 前後の傷病に直接の因果関係がない、または障害年金上そのようにみなさない場合、初診日は後発の傷病の受診日です。前の傷病とは切り離して考えるため、基本的には通常の初診日要件を満たすかどうかで判断されます。
  • 社会的治癒が認められる場合: たとえ相当因果関係ありのケースでも、前の傷病が社会的に治癒していれば、新たに発症したとみなして後発傷病の初診日を用いることができます。これにより、過去の初診日に起因する不利益(保険料要件未充足や年金種別の不利)を解消できる可能性があります。

障害年金における初診日の認定や相当因果関係の判断は、制度独特のルールがあり一見難しく感じられるかもしれません。

ご自身では判断がつきにくい場合は、無理に結論を出そうとせず、主治医や年金事務所、専門の社会保険労務士などに相談してみることをおすすめします。

正しい知識に基づいて手続きを進めれば、「初診日がどこになるのか」「自分のケースではどう扱われるのか」といった悩みや疑問もきっと解消できるでしょう。

障害年金の制度を正しく理解し、適切な受給につなげていきましょう。