
障害年金を申請した結果に納得がいかない場合、「不服申立て」を行うことができます。
不服申立てとは、障害年金の支給決定や不支給決定、等級の判定など国(日本年金機構や厚生労働省)が行った処分に対し、「その決定内容は誤っているのではないか」と異議を申し立てて見直しを求める制度です。(参考:日本年金機構ホームページ『年金の決定に不服があるとき(審査請求)』)
具体的には、審査請求(1回目の不服申立て)と再審査請求(2回目の不服申立て)という二段階の手続きを指し、これらを経ても解決しない場合は裁判(行政訴訟)を提起する道もあります。
不服申立て制度は法律で定められた正式な救済手段ですが、一度決定された内容を覆すのは容易ではなく、正当な根拠に基づいて主張を組み立てることが重要です。
目次
不服申立ての流れ

一般的な障害年金の不服申立ての流れをまとめると、まず年金事務所等から届いた障害年金の決定(支給、不支給、等級など)に不服がある場合、審査請求を行います(決定を知った日の翌日から3か月以内)。
審査請求は、あなたの住所地を管轄する地方厚生(支)局内に置かれた社会保険審査官に対して行います。
地方厚生(支)局は全国に8か所あり、それぞれの局に複数の社会保険審査官が配置されています。
審査官は提出された書類を再検討し、処分が法令に照らして適正だったかを判断します。
その結果、処分の取消(容認)・棄却・却下のいずれかの決定がなされます。
容認とは不服申立てが認められ処分が覆ること、棄却は申立てを退け処分を維持すること、却下は請求期限切れなどで審査自体を行わないことです。
審査請求の結果にさらに不服がある場合、再審査請求へ進みます(審査請求の決定書を受け取った翌日から2か月以内)。
再審査請求は厚生労働省に設置された社会保険審査会(委員6名の合議体)に対して行われ、公開審理(ヒアリング)などを経て裁決が下されます。
再審査請求でも容認されなかった場合は、最終的な手段として裁判所に行政訴訟を提起することになります。
障害年金など年金給付に関する処分については、原則として、まず社会保険審査官への審査請求の決定(または再審査請求をした場合はその裁決)を経たうえで訴訟を提起する必要があります(審査請求前置)。
以下では、この二段階の不服申立て手続きについて、それぞれ詳しく見ていきましょう。
※行政不服審査法および社会保険審査官・社会保険審査会法の改正により、現在は「再審査請求まで必ず経なければならない」という運用ではなく、審査請求の決定段階で訴訟に移行することも可能になっています。例外として、審査請求から2か月を経過しても決定がない場合や、処分の執行による著しい損害を避けるため緊急の必要がある場合などは、審査請求の決定を待たずに訴えを提起できる規定もあります。
審査請求(1回目の不服申立て)
審査請求は、障害年金の裁定(決定)に不服があるときにまず行う不服申立て手続きです。
原則として年金の決定通知を受け取りその結果を知った日の翌日から起算して3か月以内に請求しなければなりません。
期限を過ぎると正当な理由がない限り受理してもらえないため、早めの対応が必要です。
審査請求の提出先は、自分の住所地を管轄する地方厚生局に所属する社会保険審査官です。
全国に地方厚生(支)局は8箇所あり、それぞれに社会保険審査官が配置されています。
請求は書面または口頭でもできると法律上規定されていますが、記録に残すため通常は書面で行います。
提出には所定の「審査請求書」が必要で、各地方厚生局に問い合わせて取り寄せるか、厚生局のホームページから書式をダウンロードできます。
書き方に不安がある場合は記載例も公開されているので参考になります。
審査請求のポイント
審査請求では、基本的に裁定請求(初回の年金申請)時に提出した資料のみをもとに審査が行われます。
請求が認められなかった理由を把握する
審査請求を行う際、まず自分の請求がなぜ認められなかったのか(あるいは等級が低かったのか)理由を把握することが大切です。
決定通知書には不支給や等級決定の簡単な理由が書かれていますが、内容があいまいで具体的な判断根拠がわからない場合も少なくありません。
可能であれば年金事務所の窓口で口頭で理由を質問したり、厚生労働省に情報開示請求を行って自分の障害年金審査資料(障害状態認定表=認定調書)を入手すると、どの点が問題視されたか詳細に確認できます。
こうした資料を参考に、「どの部分が事実と合っていないか」「どの認定基準の適用が誤っているか」など主張内容を整理しましょう。
診断書・病歴申立書に基づいて論理的に主張する
審査請求では、基本的に裁定請求(初回の年金申請)時に提出した資料を中心に審査が行われます。
新たな診断書や証拠書類を追加で提出すること自体は可能ですが、障害認定日当時の状態と直接関係しない新資料は、主な審査資料ではなく「参考資料」として扱われることが多い点には注意が必要です。
そのため、「なぜ初回請求の審査結果が誤っていると思うのか」を、既に提出済みの診断書・病歴申立書などの内容に基づいて論理的に主張することが重要になります。
単に「痛くてつらい」「経済的に困っている」と感情に訴えるだけの記述は残念ながら意味がなく、障害認定基準や法律上の要件と照らし合わせて不当な点を指摘することが求められます。
例えば、「診断書に記載された症状から判断して本来〇級に該当するはずなのに不支給とされたのは認定基準の解釈誤りである」といった具合に、根拠を明示して審査官に処分の誤りを訴えることが重要です。
主張を簡潔にまとめる
審査請求書には「審査請求の趣旨及び理由」という欄があり、そこに主張を簡潔にまとめます。
できれば専門用語も交えて法的・医学的に整合性の取れた文章を心がけると良いでしょう。
普段行政文書を書き慣れていない方にとってハードルが高い作業ですが、ここが認容のカギとなります。
口頭意見陳述をおこなう
なお、審査請求では口頭意見陳述の機会も設けられています。
審査請求書提出後、希望者には審査官による口頭審理の日程案内が通知されます。
希望する場合は通知後すぐに連絡して出席意思を伝えれば、自分の管轄の地方厚生局で口頭により意見を述べることができます。
口頭意見陳述では審査官に直接訴えたいポイントを説明したり、日本年金機構(処分庁)側に質問をすることも可能です。
ただし通知から回答期限まで1週間程度と短いため、出席を希望する場合は迅速に対応しましょう。
審査請求の結果と期間
審査官による審理が終わると、「決定書」が郵送されてきます。
決定までに要する期間は内容や管轄にもよりますが、提出から概ね半年程度かかることが一般的です(審査請求から2か月以上決定が出ない場合は例外的に訴訟提起が可能になる規定もあります)。
決定書には前述のとおり「容認」「棄却」「却下」のいずれかの結果が記載され、その判断理由も示されます。
もし審査官が請求内容を容認した場合(原処分取消し)、その時点で処分が変更され障害年金の支給決定や等級変更が行われます。
年金の支給や増額が認められた場合、初回の請求時までさかのぼって権利が発生します。
一方、審査の結果、不支給決定が維持された場合(棄却)でも、救済の可能性が完全に途絶えるわけではありません。
審査請求の決定に不服があれば、次の段階である再審査請求へ進むことができます。
ちなみに、審査請求の途中で日本年金機構(処分庁)が自ら処分の誤りを認めて決定内容を変更するケースもあります。
これを「処分変更」といい、処分変更が行われると請求人(あなた)に有利な内容へ決定が変わるため、通常はその時点で不服申立てを取り下げることになります。
統計上、審査請求の取り下げ事例のうち約7割は処分変更によるものとのデータもあります。
処分変更が行われれば年金機構から改めて支給決定通知が届き、障害年金が支給開始されます。
再審査請求(2回目の不服申立て)
審査請求の結果に納得できない場合、さらに上級の不服申立てである再審査請求を行うことができます。
再審査請求を行うには、最初の審査請求についての決定書の謄本(写し)を受け取った日の翌日から起算して2か月以内に手続きをする必要があります。
審査請求よりも期限が1か月短いので注意が必要です。
提出先は厚生労働省内にある社会保険審査会で、再審査請求書を作成して厚生労働省社会保険審査会宛に郵送します(住所は東京都になりますが、再審査請求書の様式入手時に案内があるほか、厚生労働省のホームページにも提出先が掲載されています)。
社会保険審査会は厚生労働大臣から独立して裁決を行う合議制の機関で、委員長1名と委員5名の計6名で構成されています。
再審査請求書の様式は厚生労働省保険局総務課社会保険審査調整室に問い合わせて取り寄せることができ、審査請求を担当した審査官の氏名などを伝えると郵送してもらえます。
また厚労省の公式サイトからダウンロードすることも可能です。
再審査請求書の書き方も基本的には審査請求と同様ですが、審査請求時には無かった「審査請求の決定書(理由書)」が手元にある点が大きな違いです。
審査官の決定書には「なぜその結論に至ったか」の理由が詳細に記載されています。
再審査請求では、この決定理由に対して一つ一つ反論していく形で主張を展開することがポイントになります。
再審査請求では、審査請求段階までに提出された資料と審査請求の決定理由書を基礎として審理されます。
そのうえで、審査請求時に提出できなかった補足資料や新たな証拠を提出して主張を補強することも可能です。
もっとも、ここでも障害認定日当時の状態と直接結びつかない新しい診断書などは、主要な審査資料ではなく参考資料として扱われることが多く、初回請求時の診断書・病歴申立書の評価をどう変えてもらうかが中心となります。
情に訴えるのではなく、論点ごとに客観的な根拠を示して説得力のある主張を行いましょう。
再審査請求の審理と結果
再審査請求書が受理されると、まず審査会で形式的要件のチェックが行われ、その後本格的な審理に入ります。
審理では審査官とは別の複数の委員による合議制で検討が行われるため、1人で判断する審査請求よりも客観性は高いと言われます。
再審査請求では希望すれば公開審理(公のヒアリング)に出席して意見を述べることも可能です。
請求からおよそ半年後に公開審理の案内文書が届き、希望者は東京の社会保険審査会で行われる審理に出席できます(遠方の場合は書面陳述のみで済ませるケースもあります)。
審理ではまず審査長(審査会の委員長格)から事実関係についての質問や意見照会があり、その後こちらから追加の主張があれば口頭で陳述できます。
さらに審査会には公益代表である参与と呼ばれる委員も参加し、参与が意見を述べることもあります。
参与は国民の利益代表としての立場で発言するため、場合によっては請求人(あなた)に有利なコメントをしてくれることもあります。
ただし、参与が複数好意的な意見を述べたとしても油断は禁物です。
審査請求で処分が覆る割合は決して高くありません。
例えば、関東信越厚生局が公表している令和4年度のデータでは、決定件数1,133件のうち「容認」は53件で容認率4.6%にとどまっています(処分変更を含めても1割未満と考えられます)。
再審査請求についても、厚生労働省・社会保険審査会の統計では、令和4年度の容認件数と原処分変更を合わせた割合は概ね1割前後とされています(年度や集計方法により9〜14%程度の幅があります)。
再審査請求の裁決結果が出るまでの期間は、近年の運用では受付から結論まで平均8か月前後かかっています。
ケースによっては1年以上かかる長期戦になることもあります。
再審査請求の裁決結果は「容認」「棄却」に加え、要件を満たさない場合には「却下」となることもあります。
なお再審査請求でも、審理の途中で年金機構側が自主的に原処分の誤りに気づき決定を変更するケース(処分変更)があります。
その場合は請求人が再審査請求を取り下げる形で終了し、結果的に年金が支給されることになります。
審査会が正式に容認裁決を下す割合そのものは1割弱ですが、処分変更による救済も含めた「請求人側の主張が認められる」割合で見ると2割程度になる年もあるようです。
いずれにせよ、再審査請求まで進んでも決定が覆る可能性は高くはないということは心に留めておきましょう。
再審査請求の結果にも不服が残る場合、行政上の不服申立て制度としては打ち止めとなり、次の手段は裁判(行政事件訴訟)になります。
裁決書の送達を受けた日の翌日から6か月以内であれば、国(代表者:法務大臣)を被告として処分の取消訴訟を提起することが可能です。
ただし実務上は時間・費用の負担も大きいため、まずは不服申立ての段階で可能な限りの主張と証拠固めを行うことが重要です。
審査請求と再審査請求の比較まとめ
不服申立ての2段階の手続きを整理するため、審査請求と再審査請求の主な違いを以下の表にまとめます。
| 項目 | 審査請求(1回目) | 再審査請求(2回目) |
|---|---|---|
| 提出期限 | 処分を知った日の翌日から3か月以内 | 審査請求の決定書受領日の翌日から2か月以内 |
| 提出先・審理機関 | 地方厚生局の社会保険審査官(全国8箇所) ★担当審査官1名が単独で審理 | 厚生労働省の社会保険審査会(東京) ★委員6名の合議体で審理 |
| 追加提出資料 | 初回請求時の資料が審査の中心(新たな資料は原則「参考資料」扱い)。 | 審査請求時までの資料に加え、必要に応じて補足資料や新たな証拠を提出して主張を補強することが可能。 |
| 審理方法 | 書面審理が中心。 希望すれば口頭意見陳述が可能。 | 書面審理+公開審理(ヒアリング)。 希望すれば審査会で口頭陳述が可能。 |
| 決定までの期間 | 約半年(ケースにより数か月~1年) | 平均8か月(長期化する場合も) |
| 結論の種類 | 容認 / 棄却 / 却下 | 容認 / 棄却(処分変更による取下げ含む) |
| 救済される可能性 | 数%〜1割弱程度(年度・制度により異なる) | 概ね1割前後(容認+処分変更の合計) |
不服申立て以外の選択肢(再請求や等級見直し等)

障害年金の不服申立ては以上のように時間もかかりハードルが高いため、場合によっては別のアプローチも検討しましょう。
以下に主な選択肢を紹介します。
【選択肢1】再裁定請求(新たに障害年金を請求し直す)
初回の裁定請求時に提出した書類が不十分であったり、病状が適切に反映されていなかったと感じる場合は、一から書類を整えて再度障害年金の申請をやり直す方法があります。
これを一般に「再裁定請求」と呼びます。
再裁定請求には不服申立てのような期限はなく、審査請求と並行して進めることも可能です。
例えば、初回申請後に新たな診断書や診療情報提供書を入手できた場合や、当初見落とされていた事実が判明した場合などは、再請求によって状況が好転するケースもあります。
ただし再請求をしても同じ結果になる可能性もあるため、提出書類のブラッシュアップや専門家の助言を受けることが望ましいでしょう。
【選択肢2】額改定請求(等級の見直し請求)
障害年金の受給が認められたものの「思ったより等級が低く年金額が少ない」という場合、請求後に病状が悪化したときに等級の改定を求める「額改定請求」が可能です。
例えば2級と認定されたがその後状態がさらに悪くなり1級相当になったといった場合、改めて新しい診断書を提出して障害状態を審査してもらう手続きです。
ただし、額改定請求ができるのは原則として権利発生または直近の障害状態確認から1年経過後で、1年以内は認められません(よほど急激に悪化した場合は例外あり)。
不服申立てとの違いは、額改定請求は過去の認定を覆すものではなく、将来に向けた等級変更だという点です。
そのため初回決定時点では不支給・3級相当と判断されたけれど現在は確実に2級以上の状態になっている、といった場合には有効な方法となります。
【選択肢3】支給停止事由消滅届(支給再開の手続き)
既に障害年金を受給していた方が定期的な更新(診断書提出による障害状態確認)の結果、支給停止となってしまった場合でも、不服申立てや額改定とは別の対応があります。
それが**「支給停止事由消滅届」の提出です。
これは「支給停止の理由に該当しなくなった(障害状態が年金支給要件に該当している)」ことを届け出る手続きで、悪化を証明する新たな診断書等を提出して再度審査を受けます。
審査の結果、障害状態が等級に該当すると判断されれば支給が再開され、届け出た時点までさかのぼって年金が支給されます。
更新で受給停止になったケースではこの方法で救済される可能性があります。
以上のように、「不服申立て」以外にも状況に応じた対応策があります。
初回請求時から時間が経って状況が変わった場合や、新たな証拠が得られた場合には、むやみに審査請求・再審査請求に固執せず、再申請や別手続きも視野に入れることが大切です。
まとめ

障害年金の不服申立て手続きは、専門知識を要する難しい手続きです。
結果が出るまでに長い時間がかかり、また認められるケースは決して多くありません。
だからといって、「もう仕方ない」と泣き寝入りする必要はありません。
初回請求の内容に明らかな誤りがあったり、自身の権利が正当に認められていないと感じる場合には、審査請求・再審査請求という制度が用意されています。
大切なのは期限内に適切な対応をとることです。
不服申立てには3か月・2か月という期限がありますので、通知を受け取ったら早めに動き始めましょう。
「自分でうまく主張できる自信がない」「手続きが複雑で不安」という場合は、ひとりで悩まず専門家に相談することも検討してください。
社会保険労務士(社労士)や弁護士の中には障害年金や不服申立てを専門に扱っている人もおり、書類作成や主張の組み立てについてアドバイスや代理提出をしてくれます。
公的機関では、各都道府県の障害年金相談窓口や年金事務所での相談(事前予約制のことが多い)も利用できます。
公式の情報や専門家の知恵を活用しながら、決して諦めず権利の実現を目指しましょう。
不服申立てが認められれば、初回請求時にさかのぼって年金が支給されるため経済的なメリットも大きいです。
皆様の障害年金請求が正当に評価されることを願っています。
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