
はじめに
診断書に「うつ病エピソード」「中等症うつ病エピソード」と書かれていて、この病名で障害年金の対象になるのか気になっている方は少なくありません。
「うつ病」とは別の病気なのか、「中等症」と書かれていれば何級になるのか。診断書を受け取ってから、こうした疑問を持たれる方は多くいらっしゃいます。
結論からお伝えすると、うつ病エピソードは障害年金の対象となり得る傷病です。ただし、等級は診断名や重症度の区分そのもので決まるわけではありません。
本記事では、うつ病エピソードが障害認定基準上どう位置づけられるか、重症度の区分と障害等級の関係、診断書のICD-10コードで確認しておきたい点を、社会保険労務士法人の視点で整理します。
なお、症状や治療についての医学的な判断は主治医の領域です。本記事では、あくまで障害年金の認定上の扱いに絞ってご説明します。
「うつ病エピソード」は診断書に記載される分類名です
うつ病エピソードは、障害年金の制度に固有の用語ではありません。診断書に記載する傷病名として用いられるICD-10(国際疾病分類第10版)の分類名で、障害認定基準上は「気分(感情)障害」として扱われます。
ICD-10のF32に位置づけられる
障害年金の診断書(精神の障害用)には、傷病名とあわせてICD-10コードを記載する欄があります。
うつ病エピソードは、この分類の F32 に当たります。ICD-10では、うつ病エピソード(F32)と反復性うつ病性障害(F33)が別の分類として設けられており、うつ病エピソードは原則として単一のエピソードに用いられる分類名です。
F32はさらに細分されており、診断書には次のような名称で記載されることがあります。
| ICD-10コード | 分類名 |
|---|---|
| F32.0 | 軽症うつ病エピソード |
| F32.1 | 中等症うつ病エピソード |
| F32.2 | 精神病症状を伴わない重症うつ病エピソード |
| F32.3 | 精神病症状を伴う重症うつ病エピソード |
| F32.8 | その他のうつ病エピソード |
| F32.9 | うつ病エピソード、詳細不明 |
(出典:厚生労働省「疾病、傷害及び死因の統計分類」第Ⅴ章 精神及び行動の障害(F00-F99))
どの分類に当たるかは主治医が医学的に判断するものです。ご自身の診断名がどれに該当するかは、主治医にご確認ください。
障害認定基準では「気分(感情)障害」として扱われる
障害年金の審査で用いられる「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」では、精神の障害を6つに区分しています。
精神の障害は、「統合失調症、統合失調症型障害及び妄想性障害」、「気分(感情)障害」、「症状性を含む器質性精神障害」、「てんかん」、「知的障害」、「発達障害」に区分する。
(出典:厚生労働省「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」第3 第1章 第8節/精神の障害。日本年金機構掲載の令和4年4月1日改正版による)
うつ病エピソード、反復性うつ病性障害、気分変調症などは、いずれもこのうちの「気分(感情)障害」に含まれるものとして扱われます。
軽症・中等症・重症の区分は、障害年金の等級とは別のものです
ここが最も誤解の多い点です。診断書に「中等症」と書かれていても、それがそのまま障害年金の2級を意味するわけではありません。障害等級は、日常生活にどの程度の制限が生じているかによって判断されます。
障害等級は日常生活能力を中心に判定される
障害認定基準は、精神の障害の程度について次のように定めています。
精神の障害の程度は、その原因、諸症状、治療及びその病状の経過、具体的な日常生活状況等により、総合的に認定するものとし、日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のものを1級に、日常生活が著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のものを2級に(以下略)
(出典:厚生労働省「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」第3 第1章 第8節/精神の障害。日本年金機構掲載の令和4年4月1日改正版による)
判断の中心にあるのは「具体的な日常生活状況」であり、診断名の重症度区分ではありません。
その判定について、認定基準は次のようにも定めています。
日常生活能力等の判定に当たっては、身体的機能及び精神的機能を考慮の上、社会的な適応性の程度によって判断するよう努める。
(出典:厚生労働省「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」第3 第1章 第8節/精神の障害 認定要領。日本年金機構掲載の令和4年4月1日改正版による)
なお、精神の障害の等級判定にあたっては、この認定基準に加えて「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」(平成28年9月1日実施)が用いられます。診断書(精神の障害用)の「日常生活能力の判定」と「日常生活能力の程度」の記載内容から等級の目安が示され、最終的には総合的に判定される仕組みです。
気分(感情)障害の各等級について、障害認定基準は次のように例示しています。
| 等級 | 障害の状態(気分(感情)障害によるもの) |
|---|---|
| 1級 | 高度の気分、意欲・行動の障害及び高度の思考障害の病相期があり、かつ、これが持続したり、ひんぱんに繰り返したりするため、常時の援助が必要なもの |
| 2級 | 気分、意欲・行動の障害及び思考障害の病相期があり、かつ、これが持続したり又はひんぱんに繰り返したりするため、日常生活が著しい制限を受けるもの |
| 3級 (障害厚生年金のみ) | 気分、意欲・行動の障害及び思考障害の病相期があり、その病状は著しくないが、これが持続したり又は繰り返し、労働が制限を受けるもの |
(出典:厚生労働省「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」第3 第1章 第8節/精神の障害。日本年金機構掲載の令和4年4月1日改正版による。表は認定要領の等級例示のうち気分(感情)障害に関する記載を抜粋)
いずれの等級も、「常時の援助が必要」「日常生活が著しい制限を受ける」「労働が制限を受ける」という生活上の状態で書かれています。「中等症」「重症」といった区分は出てきません。
なお、3級は障害厚生年金にのみ設けられた等級です。初診日が国民年金の加入期間、20歳前の年金制度に加入していない期間、または日本国内に住んでいる60歳以上65歳未満で年金制度に加入していない期間にある方は障害基礎年金の対象となるため、1級または2級に該当しない場合は支給の対象となりません。
「単発のエピソードだから軽い」と受け取られるとは限りません
「エピソード」という表現から、一時的なもの・軽いものという印象を持たれる方がいらっしゃいます。しかし障害認定基準は、気分(感情)障害の認定について次のように定めています。
気分(感情)障害は、本来、症状の著明な時期と症状の消失する時期を繰り返すものである。したがって、現症のみによって認定することは不十分であり、症状の経過及びそれによる日常生活活動等の状態を十分考慮する。
(出典:厚生労働省「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」第3 第1章 第8節/精神の障害。日本年金機構掲載の令和4年4月1日改正版による)
診断書1枚に書かれた現時点の状態だけでなく、症状の経過とそれによる日常生活の状態を含めて判断するとされています。
診断名が単一のエピソード(F32)であるか反復性うつ病性障害(F33)であるかにかかわらず、経過を含めて評価されるという点は共通しています。
診断書を受け取ったら確認しておきたいこと
診断書は主治医が作成するもので、その医学的な内容に患者側から手を入れることはできません。ただし、記載事項に事実と異なる点や記入漏れがないかを確認することは大切です。
- 傷病名の欄に、ICD-10コードが記入されているか
- 傷病名と重症度の区分が、ご自身が主治医から説明を受けている内容と食い違っていないか
- 日常生活の状況について、ご家族や支援者の援助を受けている点が反映されているか
食い違いに気づいた場合は、主治医にその旨をお伝えしてご相談ください。診断書の形式面・記載漏れの確認は、社会保険労務士がお手伝いできる領域です。
F32・F33・F34の関係と、神経症圏との違い
「うつ」という語を含む診断名は複数あり、障害年金の扱いも同じではありません。気分(感情)障害に含まれるものと、原則として認定の対象とされない神経症圏のものがあります。
単一のエピソード(F32)と反復性うつ病性障害(F33)
ICD-10では、うつ病エピソードが繰り返し現れる場合、F32ではなく F33 反復性うつ病性障害 という別の分類が用いられます。F33の下位分類でも、現在のエピソードの重症度が区分されます。
| ICD-10コード | 分類名 |
|---|---|
| F33.0 | 反復性うつ病性障害、現在軽症エピソード |
| F33.1 | 反復性うつ病性障害、現在中等症エピソード |
| F33.2 | 反復性うつ病性障害、現在精神病症状を伴わない重症エピソード |
| F33.3 | 反復性うつ病性障害、現在精神病症状を伴う重症エピソード |
| F33.4 | 反復性うつ病性障害、現在寛解中のもの |
| F33.8 | その他の反復性うつ病性障害 |
| F33.9 | 反復性うつ病性障害、詳細不明 |
(出典:厚生労働省「疾病、傷害及び死因の統計分類」第Ⅴ章 精神及び行動の障害(F00-F99))
F32とF33は分類上は別のものですが、いずれも障害認定基準上は「気分(感情)障害」に含まれます。 どちらであっても認定の対象となり得る点は共通しています。
反復性うつ病性障害については、反復性うつ病性障害で障害年金が不支給になるケース で詳しくご説明しています。
気分変調症(F34.1)との関係
F34.1 気分変調症 は、持続性気分[感情]障害(F34)に分類されます。F32・F33とは別の分類ですが、こちらも気分(感情)障害の枠内にあります。
なお、「抑うつ神経症」という呼称が用いられることがありますが、これは名称に「神経症」を含むものの、ICD-10上は気分変調症に整理されます。名称だけで神経症圏と判断されないようご注意ください。
名称に「うつ」を含んでも、原則として対象外となる傷病があります
一方、ICD-10のF40〜F48に分類される神経症性障害は、障害認定基準上、原則として認定の対象とされていません。名称に「抑うつ」を含む F41.2 混合性不安抑うつ障害 も、この区分に入ります。
ただし、認定基準には例外の定めがあります。
神経症にあっては、その症状が長期間持続し、一見重症なものであっても、原則として、認定の対象とならない。ただし、その臨床症状から判断して精神病の病態を示しているものについては、統合失調症又は気分(感情)障害に準じて取り扱う。なお、認定に当たっては、精神病の病態がICD-10による病態区分のどの区分に属す病態であるかを考慮し判断すること。
(出典:厚生労働省「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」第3 第1章 第8節/精神の障害。日本年金機構掲載の令和4年4月1日改正版による)
準じて取り扱われる先は「統合失調症又は気分(感情)障害」のいずれかであり、気分(感情)障害に限られるものではありません。また、この判断に当たってはICD-10の病態区分が考慮されるとされています。診断書のICD-10コードが重要になるのは、この規定によるところが大きいといえます。
混合性不安抑うつ障害については、混合性不安抑うつ障害と障害年金 もあわせてご覧ください。
各分類の詳細は、気分[感情]障害(F30-F39)のICD-10分類 にまとめています。
うつ病エピソードで障害年金を受給するための要件
診断名が認定の対象に含まれることと、実際に受給できることは別です。障害年金を受給するには、3つの要件をすべて満たしている必要があります。
3つの要件
診断名がどの分類に当たるかにかかわらず、次の3つをすべて満たす必要があります。初診日にどの年金制度に加入していたかによって、対象となる年金の種類が変わります。
- 初診日要件:障害の原因となった傷病について、初めて医師又は歯科医師の診療を受けた日が、次のいずれかの期間にあること
- 障害基礎年金:国民年金の加入期間、20歳前の年金制度に加入していない期間、または日本国内に住んでいる60歳以上65歳未満で年金制度に加入していない期間(老齢基礎年金を繰上げ受給している方を除きます)
- 障害厚生年金:厚生年金保険の被保険者である間(20歳前であっても、厚生年金保険の被保険者である間に初診日がある場合はこちらに当たります)
- 保険料納付要件:初診日の前日において、初診日のある月の前々月までの被保険者期間のうち、保険料納付済期間と保険料免除期間を合算した期間が3分の2以上あること。これを満たさない場合でも、初診日が令和18年(2036年)3月末日までにあり、かつ初診日において65歳未満であれば、初診日のある月の前々月までの直近1年間に保険料の未納がなければ要件を満たします(20歳前の年金制度に加入していない期間に初診日がある場合は、保険料納付要件は問われません)
- 障害認定基準該当:障害認定日(原則として初診日から1年6か月経過した日)などの時点で、認定基準に定める等級に該当していること
いずれか1つでも欠けると、症状の重さにかかわらず受給できません。
各要件の詳しい内容は、うつ病で障害年金を受給するには?条件・金額・申請のポイント と 障害年金を受け取るための条件とは でご説明しています。
認定の対象となる精神疾患が併存している場合
うつ病エピソードとあわせて、発達障害や知的障害など認定の対象となる他の精神疾患の診断を受けている方もいらっしゃいます。この場合の取扱いについて、障害認定基準は次のように定めています(引用中の「統合失調症等」は、気分(感情)障害を含む同じ区分の傷病を指します)。
また、統合失調症等とその他認定の対象となる精神疾患が併存しているときは、併合(加重)認定の取扱いは行わず、諸症状を総合的に判断して認定する。
(出典:厚生労働省「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」第3 第1章 第8節/精神の障害。日本年金機構掲載の令和4年4月1日改正版による)
複数の傷病があっても等級を足し合わせる扱いにはならず、諸症状を総合して判断されます。
受給できる金額
診断名や重症度の区分によって金額が変わるものではありませんが、等級と加入制度だけで一律に決まるわけでもありません。
障害基礎年金の基本額は等級(1級・2級)と生年月日によって定められた定額で、生計を維持されている一定の要件を満たす子がいる場合は子の加算が上乗せされます。
障害厚生年金は、等級に加えて、厚生年金加入中の標準報酬額と被保険者期間をもとに計算される報酬比例の年金額によって、お一人おひとり金額が異なります。1級は報酬比例の年金額の1.25倍、2級は報酬比例の年金額で、いずれも一定の要件を満たす配偶者がいる場合は配偶者加給年金額が加算されます(配偶者ご自身が被保険者期間20年以上の老齢厚生年金等や障害年金を受けられる間は支給停止されます)。3級は報酬比例の年金額のみで、最低保障額が設けられています。
年度ごとの具体的な金額と計算の詳細は、【2026年度(令和8年度)】障害年金でもらえる金額 をご確認ください。
申請書類で意識しておきたいこと
障害年金の審査は、原則として提出書類に基づいて行われます。うつ病エピソードの場合、症状に波があることが多く、状態の良い時期の記載だけが残ると、実態より軽く受け取られることがあります。症状が重い時期にどのような状態だったかも含めて伝わるようにしておくことが大切です。
診断書については 障害年金の申請は「診断書」で9割が決まる!?、病歴・就労状況等申立書については 【自分で書ける】病歴・就労状況等申立書の書き方 でご説明しています。
なお、就労していることが直ちに不支給につながるわけではありません。認定基準は、現に仕事に従事している方について、労働に従事していることをもって直ちに日常生活能力が向上したものと捉えず、仕事の種類・内容・就労状況・仕事場で受けている援助の内容などを十分確認したうえで日常生活能力を判断するとしています。
不支給となった場合の審査請求・再請求といった選択肢とあわせて、うつ病で障害年金を受給するには?条件・金額・申請のポイント でご説明しています。
うつ病エピソードで障害年金を受給された事例
当事務所では、うつ病エピソードの診断名で障害年金を申請された方のサポートを手がけています。以下は当事務所が関与した個別の事例であり、認定の傾向を示す公的な統計ではありません。就労状況や併存する傷病の有無など、状況はさまざまです。
- 【事例981】中等症うつ病エピソード(広汎性発達障害)で、短時間就労をしながら障害基礎年金2級と認定された事例(過去に別の傷病で不支給となった後の再請求)
- 【事例427】中等症うつ病エピソード・ADHDで障害基礎年金2級と認定され、子の加算が加えられた事例
- 【事例467】うつ病エピソードで、初診から現在まで同じ医療機関を受診していた方が障害厚生年金2級と認定された事例
- 【事例642】うつ病エピソードで、一般就労をしながら障害共済年金2級と認定され、障害認定日に遡って支給された事例
※個別事案により判断は異なります。
関連するご質問
うつ病エピソードで障害年金を検討される際に、あわせて確認しておきたい内容をまとめました。
Q. 「中等症」と診断書に書かれていれば2級になりますか?
重症度の区分と障害等級は別のものです。障害等級は、日常生活にどの程度の制限が生じているかを中心に、症状の経過や療養状況などを総合して判断されます。重症度の区分だけで等級が決まるものではありません。
Q. 「うつ病」と「うつ病エピソード」で扱いは変わりますか?
いずれも障害認定基準上は「気分(感情)障害」として扱われます。診断書に記載される名称の違いによって、認定の対象になるかどうかが変わるものではありません。
Q. 診断書のICD-10コードが空欄でも申請できますか?
診断書はICD-10コードを記載する様式になっています。空欄や記載内容の食い違いに気づいた場合は、提出前に主治医にご相談ください。
まとめ
うつ病エピソードは、障害認定基準上「気分(感情)障害」として扱われ、障害年金の対象となり得る傷病です。
- 「エピソード」はICD-10の分類名であり、障害年金固有の用語ではありません
- 軽症・中等症・重症の区分は、障害等級と一致するものではありません。等級は日常生活の制限の程度を中心に判断されます
- 単一のエピソード(F32)でも反復性うつ病性障害(F33)でも、気分(感情)障害として扱われます
- 名称に「うつ」を含んでいても、神経症圏(F40〜F48)に分類される傷病は原則として認定の対象外とされています
- 認定の対象となる精神疾患が併存している場合、併合(加重)認定は行われず、諸症状を総合して判断されます
診断書に見慣れない病名が記載されていて判断に迷われている方は、わくわく社会保険労務士法人(全国障害年金サポートセンター)までお気軽にお問い合わせください。
※本記事は2026年8月時点の年金法令・障害認定基準に基づき作成しています。法令改正等により内容が変更される可能性があるため、最新の情報は 日本年金機構の公式サイト 等でご確認ください。個別の事案については社会保険労務士・弁護士等の専門家へのご相談を推奨します。医学的判断は主治医にご確認ください。
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