
出産後、気持ちの落ち込みや不眠が続き、育児も家事も思うようにできない状態が長引いている。そうした状況で通院を続けている方から、「障害年金の対象になるのでしょうか」というご相談をいただくことがあります。
産後うつの状態で障害年金を受給されている方は実際にいらっしゃいますが、受け取れるかどうかは診断名だけで決まるわけではありません。特に産後は、産前産後休業中・育児休業中・退職後・扶養に入っているなど、置かれた状況で受け取れる年金の種類が変わります。本記事では、認定基準上の位置づけ、受給要件、等級と年金額、申請のポイントを順に整理します。
目次
産後うつは障害年金の対象になるのか
障害年金は、病気やけがによって日常生活や仕事に支障が生じたときに受け取れる公的年金です。産後うつの状態でも、障害の程度が障害認定基準に該当すると判断されれば受給できる可能性があります。ただし「産後うつ」という言葉そのもので可否が決まるわけではありません。
障害認定基準に「産後うつ」という区分はありません
障害年金の等級は、厚生労働省が定める「国民年金・厚生年金保険障害認定基準」に基づいて判断されます。精神の障害を扱う第8節は、精神の障害を「統合失調症、統合失調症型障害及び妄想性障害」「気分(感情)障害」「症状性を含む器質性精神障害」「てんかん」「知的障害」「発達障害」の6つに区分しており、ここに「産後うつ」という独立した区分はありません。診断書上の傷病名がどの区分に当たるかが出発点となります(傷病名やICD-10コードの判断は主治医の領域です)。
そのうえで、認定基準は精神の障害の程度を次のように定めています。
精神の障害の程度は、その原因、諸症状、治療及びその病状の経過、具体的な日常生活状況等により、総合的に認定するものとし(以下略)
(出典:国民年金・厚生年金保険障害認定基準 第8節 精神の障害、令和4年4月1日改正版)
審査は病名だけで決まるものではなく、傷病名や病態の区分、諸症状、治療及び病状の経過、具体的な日常生活状況等を総合して行われます。医学的な診断や治療については主治医にご確認ください。
産後うつで障害年金を受給するための3つの要件
障害年金には、傷病を問わず共通する3つの要件があります。産後うつの場合、このうち初診日要件と保険料納付要件について、産後ならではの確認事項があります。順に見ていきます。要件の全体像は 障害年金を受け取るための条件 でも解説しています。
①初診日要件|産前産後休業中・育児休業中で受け取れる年金が変わります
初診日とは、障害の原因となった傷病について初めて医師又は歯科医師の診療を受けた日をいいます。この日にどの年金制度に加入していたかで、受け取れる年金の種類が変わります。
| 初診日時点の状況 | 加入制度 | 対象となる年金 |
|---|---|---|
| 厚生年金保険の被保険者として勤務中、または被保険者資格を維持したまま産前産後休業・育児休業中 | 厚生年金保険 | 1級・2級は障害基礎年金+障害厚生年金、3級は障害厚生年金のみ |
| 退職して国民年金に加入中 | 国民年金(第1号被保険者) | 1級・2級のみ障害基礎年金(3級相当は対象外) |
| 配偶者の扶養に入っている | 国民年金(第3号被保険者) | 1級・2級のみ障害基礎年金(3級相当は対象外) |
| 20歳前で年金制度に加入していない期間 | (未加入) | 1級・2級のみ障害基礎年金(3級相当は対象外) |
※働いていても、勤務時間等によって厚生年金保険の被保険者となっていない場合があります。産前産後休業・育児休業中も被保険者となるのは、休業前から加入していた方です。退職後に出産された方は国民年金の第1号または第3号被保険者となります。
※このほか、日本国内に住んでいる60歳以上65歳未満で年金制度に加入していない期間の初診日も障害基礎年金の対象です(老齢基礎年金を繰り上げて受給している方を除きます)。
見落とされやすいのが、産前産後休業中と育児休業中の取扱いです。これらの期間は保険料が免除される一方、健康保険・厚生年金保険の被保険者資格そのものは続いています。そのため、休業中に受診した日が初診日となる場合、厚生年金保険の被保険者期間中の初診日として扱われる可能性があります。「休んでいたから国民年金だと思っていた」という思い込みで障害厚生年金を検討しないまま終わらないよう、加入記録を年金事務所でご確認ください。
なお、障害基礎年金の対象等級は1級・2級のみで、3級は障害厚生年金だけに設けられた等級です。
②保険料納付要件|産前産後期間の保険料免除は「納付済期間」です
保険料納付要件には、原則と特例の2つがあります。
- 原則:初診日の前日において、初診日のある月の前々月までの被保険者期間のうち、保険料納付済期間と保険料免除期間を合算した期間が3分の2以上あること
- 特例:初診日が令和18年(2036年)3月末日までにあり、初診日において65歳未満である場合、初診日の前日において、前々月までの直近1年間に保険料の未納がないこと
多くいただくのが「産休・育休中で保険料を払っていない期間は未納になるのか」というご質問ですが、届出等が適切に行われていれば未納にはあたりません。
国民年金の第1号被保険者の方には産前産後期間の保険料免除制度があり、出産予定日または出産日が属する月の前月から4か月間(多胎妊娠は3か月前から6か月間)の保険料が免除されます。国民年金法第5条第1項は、この免除に係る期間を「保険料納付済期間」に含めると定めています。厚生年金保険の産前産後休業期間・育児休業等期間の保険料免除も、保険料を納めた期間として扱われます。
ただし、それ以外に未納期間があると判定に影響します。納付要件は初診日の前日時点で判定されるため、初診日より後に納付しても要件を満たしたことにはなりません。
なお、20歳前の年金制度に加入していない期間に初診日がある場合は、保険料納付要件は不要です。ただしこの場合の障害基礎年金には本人の前年所得による支給制限があり、扶養親族がいない場合は前年所得が3,761,000円を超えると2分の1、4,794,000円を超えると全額が支給停止となります(支給停止の対象期間は10月分から翌年9月分までです)。
③障害認定日|原則は初診日から1年6か月後です
障害認定日とは、障害の状態を判断する基準となる日で、原則として初診日から1年6か月を経過した日です。1年6か月以内に傷病が治った場合(症状が固定し、治療の効果が期待できない場合を含みます)は、その日が障害認定日となります。
産後に初診日がある場合も、障害認定日は原則としてその初診日から1年6か月後です。出産直後に受診された場合はお子さんが1歳半を迎える頃とおおむね重なりますが、産後しばらく経ってから初めて受診された場合は、その分だけ後ろにずれます。この時点で等級に該当していればさかのぼって請求できる可能性があり、該当しなかった場合には後述の事後重症請求という方法があります。
産後うつで受給できる場合の等級と年金額(令和8年度)
等級は診断名だけで決まるものではなく、病態や症状の経過に加え、日常生活能力を中心に総合的に判断されます。ここでは等級判定の考え方と、令和8年度(2026年4月〜)の年金額を確認します。年金額は毎年度改定されるため、請求時点の最新額をご確認ください。
等級はどのように判断されるのか
精神障害および知的障害の認定については、厚生労働省が精神の障害に係る等級判定ガイドライン(平成28年9月1日実施)を定めています。診断書の「日常生活能力の判定」と「日常生活能力の程度」に応じて等級の目安が定められ、そのうえで総合的に判断されます。
気分(感情)障害について、障害認定基準は2級に相当する状態の例を次のように示しています。
気分(感情)障害によるものにあっては、気分、意欲・行動の障害及び思考障害の病相期があり、かつ、これが持続したり又はひんぱんに繰り返したりするため、日常生活が著しい制限を受けるもの
(出典:国民年金・厚生年金保険障害認定基準 第8節 精神の障害)
同基準は、気分(感情)障害について現症のみによる認定は不十分であり、症状の経過と日常生活活動等の状態を十分考慮するとしています。就労している場合も、労働に従事していることをもって直ちに日常生活能力が向上したとは捉えず、仕事の内容や職場で受けている援助の内容等を確認したうえで判断するとされています。
令和8年度の障害基礎年金額と子の加算
障害基礎年金は等級ごとの定額です。産後うつで請求される方にはお子さんがいらっしゃるため、子の加算が重要になります。
| 区分 | 令和8年度の年額 |
|---|---|
| 障害基礎年金1級 | 1,059,125円 |
| 障害基礎年金2級 | 847,300円 |
| 子の加算(第1子・第2子) | 各243,800円 |
| 子の加算(第3子以降) | 各81,300円 |
※昭和31年4月1日以前に生まれた方は、1級1,056,125円・2級844,900円となります。
※加算の対象となる子は、受給権者によって生計を維持されている、18歳になった後の最初の3月31日までの子、または20歳未満で障害等級1級・2級の障害の状態にある子です。
初診日が厚生年金保険の被保険者期間中にあり1級または2級と認定された場合は、障害基礎年金に障害厚生年金が上乗せされます。障害厚生年金の額は、1級が報酬比例の年金額×1.25、2級が報酬比例の年金額で、いずれも要件を満たす配偶者がいる場合は配偶者の加給年金額(令和8年度・243,800円)が加算されます。3級は障害厚生年金のみで、最低保障額は令和8年度で635,500円(昭和31年4月1日以前生まれは633,700円)です。
※配偶者が老齢厚生年金(被保険者期間20年以上等)・退職共済年金を受け取る権利があるとき、または障害年金を受けられる間は、配偶者の加給年金額は支給停止されます。
金額の詳細は 【2026年度(令和8年度)】障害年金でもらえる金額 をご覧ください。なお、ひとり親として児童扶養手当を受給されている方は、障害基礎年金を受けると児童扶養手当が支給停止または一部支給停止となる可能性があります。令和3年3月分からは、児童扶養手当の額が障害基礎年金の子の加算部分の額を上回るときにその差額を受け取れる取扱いに見直されました。詳細はお住まいの市区町村の担当窓口にご確認ください。
産後うつでの申請のポイント|診断書と病歴・就労状況等申立書
障害年金の請求では、複数の書類を組み合わせて障害の状態を伝えます。産後うつの請求で押さえておきたい書類の役割を整理します。
診断書は「精神の障害用」を使用します
精神の障害で請求する場合、診断書は「精神の障害用」(様式第120号の4)を使用します。日常生活能力の判定欄など、等級判断に関わる項目を含む重要な書類です。作成いただくのは主治医であり、記載内容は医学的判断に基づくものです。日頃の生活状況が診察の場で十分に伝わっていないと感じる場合は、通院時の様子をメモにまとめて渡すなど、伝え方を工夫される方もいらっしゃいます(障害年金の申請は「診断書」で9割が決まる!?)。
病歴・就労状況等申立書には育児期の生活状況を具体的に
病歴・就労状況等申立書は、発症から現在までの経過と日常生活の状況をご自身が記載する書類です。日本年金機構が様式と記入案内を公開しており、ご本人やご家族でも作成できます。
産後うつのケースで書き漏れやすいのが、育児・家事の実態です。次のような点が、生活の支障を伝えるうえで意味を持ちます。
- 授乳、入浴、おむつ替えなど、育児のどの部分に支障が生じているか
- 家族や親族、保育所や自治体の支援をどの程度利用しているか
- 買い物、通院、金銭管理など、育児以外の生活行為の状況
- 就労中の方は、勤務時間、業務内容、職場で受けている配慮
援助を受けてようやく成り立っている状態を「できています」とだけ記載すると、実際の支障が伝わりにくくなります。誰の助けがあって成立しているのかまで書き添えてください。
障害認定日請求と事後重症請求
請求の方法には主に2つあります。
- 障害認定日請求:障害認定日の時点で等級に該当している場合の請求。認定日から1年以上経過してからの請求では、認定日当時と請求日近くの2通の診断書が必要です
- 事後重症請求:障害認定日の時点では等級に該当せず、その後悪化して該当するに至った場合の請求
障害認定日請求では、認定日の翌月分までさかのぼって受給できる場合があります。ただし、さかのぼって支払われる年金は時効により原則5年分が限度で、5年以上前の分は受け取れません。年数が経つほど受け取れない部分が生じるため、請求できる状態になったら早めに手続きを進めることが大切です。
事後重症請求では、年金は請求した日の翌月分から支給され、さかのぼって受け取ることはできません。請求書は65歳の誕生日の前々日までに提出する必要があります。なお、休職中に傷病手当金を受けていた方が、同じ傷病でさかのぼって障害厚生年金を受給できることになった場合は、受給済みの傷病手当金の側が調整されます。
産後うつで「もらえない」と言われるケース
障害年金は審査によって可否が決まるため、請求しても不支給となることがあります。相談の中でよく見られるパターンを整理します。一般的な傾向であり、個別事案により判断は異なります。
診断名が神経症圏にあたる場合
産後の不調について、適応障害や不安障害といった診断名が付されることがあります。障害認定基準は、神経症について次のように定めています。
神経症にあっては、その症状が長期間持続し、一見重症なものであっても、原則として、認定の対象とならない。ただし、その臨床症状から判断して精神病の病態を示しているものについては、統合失調症又は気分(感情)障害に準じて取り扱う。
(出典:国民年金・厚生年金保険障害認定基準 第8節 精神の障害)
原則として認定の対象外とされる一方、臨床症状から精神病の病態を示していると判断される場合には、統合失調症または気分(感情)障害に準じた取扱いとなる例外が定められています。「神経症だから一律に対象外」でも「診断名が変われば認定される」でもない点にご注意ください。前提となるのは主治医による臨床上の評価です。
なお厚生労働省の診断書記入上の注意では、傷病名がICD-10のF4区分でありながら統合失調症や気分(感情)障害の病態を示す場合、診断書の「⑬備考」欄にその旨と病態のICD-10コードを記入することとされています(記載は主治医の判断によります)。
保険料の未納期間がある場合
初診日の前日時点で保険料納付要件を満たしていない場合、障害の状態にかかわらず受給できません。産前産後期間の免除や第3号被保険者期間は納付済期間として扱われますが、それ以外に未納期間があると要件を満たさないことがあります。
不支給となった場合の選択肢
不支給の決定に納得できない場合は、審査請求・再審査請求という不服申立ての手続きがあります。審査請求は処分があったことを知った日の翌日から起算して3か月以内に社会保険審査官へ、再審査請求は決定書の謄本が送付された日の翌日から起算して2か月以内に社会保険審査会へ行う必要があります。期限が短いため、決定通知を受け取ったら早めにご確認ください。その後に症状が悪化した場合は、あらためて事後重症請求を行う方法もあります。
うつ病・気分障害で障害年金を受給された事例
弊事務所では、うつ病をはじめとする気分(感情)障害の方の障害年金申請を数多く手がけています。厚生年金加入中の初診日で障害厚生年金2級が認められたケース、退職後の請求で障害基礎年金2級が認められたケース、初診の医療機関でカルテが破棄されていたものの受給に至ったケースなど、経過はさまざまです。初診日の加入制度や日常生活の状態は一人ひとり異なります。
※個別事案により判断は異なります。
産後うつと障害年金に関するよくあるご質問
相談の場でよくいただくご質問です。
Q. 育児をしていると「日常生活はできている」と判断されますか?
育児をしていることだけをもって等級に該当しないと判断されるわけではありません。障害認定基準は社会的な適応性の程度によって判断するよう努めるとしており、どのような援助を受けて生活が成り立っているかが確認されます。
関連して、障害年金と障害者手帳の関係(手帳の有無や等級は受給要件ではありません)、受給後の障害年金の更新もあわせてご確認ください。
まとめ
産後うつと障害年金について、要点を整理します。
- 認定基準に「産後うつ」の区分はなく、傷病名の区分と日常生活の支障の程度で判断されます
- 初診日が産前産後休業中・育児休業中なら、厚生年金保険の被保険者期間中の初診日として扱われる可能性があります
- 産休・育休中の保険料免除は保険料を納めた期間として扱われ、未納にはあたりません
- 障害基礎年金には子の加算があり、令和8年度は第1子・第2子で各243,800円です
- 請求の方法や時期によって、受け取れる額が変わることがあります
初めての障害年金申請でお悩みの方は、わくわく社会保険労務士法人(全国障害年金サポートセンター)までお気軽にお問い合わせください。
※本記事は2026年7月時点の年金法令・障害認定基準に基づき作成しています。法令改正等により内容が変更される可能性があるため、最新の情報は日本年金機構の公式サイト等でご確認ください。個別の事案は社会保険労務士等の専門家へ、医学的判断は主治医にご確認ください。


