
目次
はじめに
ADHD(注意欠如・多動症)があり、仕事や日常生活に支障を感じておられる方の中には、「自分も障害年金をもらえるのだろうか」と気になっている方が多くいらっしゃいます。
障害年金を受給できるかどうかは、ADHDという診断名だけで決まるものではありません。
日常生活や就労にどの程度の支障が出ているかを、書類で具体的に示せるかが大きく関わります。
この記事では、ADHDで障害年金を受給できる可能性、等級と令和8年度の金額の目安、申請のポイント、「もらえない」と言われやすいケースまでを、わくわく社会保険労務士法人(全国障害年金サポートセンター)が解説します。
ADHD(注意欠如・多動症)と障害年金の関係

まずは、ADHDが障害年金の対象になるのかという出発点を整理します。
ADHDは発達障害の一つで、障害年金の認定基準にも位置づけられています。
ここでは制度上の扱いを確認します。
ADHDとは・発達障害の中での位置づけ
ADHD(注意欠如・多動症。従来は「注意欠陥多動性障害」とも呼ばれます)は、ASD(自閉スペクトラム症)や学習障害(LD)とともに、発達障害に分類されます。
不注意・多動性・衝動性といった特性により、仕事や対人関係、日常生活に支障が出ることがあります。
本記事では症状や治療といった医療的な内容には踏み込まず、障害年金の認定基準上の取り扱いに絞って解説します。
具体的な症状や治療については主治医にご相談ください。
発達障害は障害認定基準上の対象疾患
障害年金の審査で用いられる「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」では、発達障害は「精神の障害」の一つとして明記されています。
つまり、ADHDを含む発達障害は障害年金の対象疾患です。
そのうえで、精神の障害の等級判定にあたっては「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」(平成28年9月実施)が参照され、日常生活能力や就労状況などを総合的に評価する運用となっています。
ADHDで障害年金を受給できる可能性(3つの要件)

ADHDで障害年金を受給するには、次の3つの要件をすべて満たす必要があります。
診断名だけでは決まらず、それぞれの要件を確認することが大切です。
とくにADHDなど発達障害では、初診日の見極めが申請の難所になりやすい点に注意が必要です。
①初診日要件(ADHD特有の難しさ)

初診日とは、障害の原因となった傷病で初めて医師又は歯科医師の診療を受けた日のことです。
ADHDでは、この初診日の特定が難しいケースが少なくありません。
幼少期や学齢期に受診歴がある方もいれば、大人になってから不眠や抑うつなどの症状で受診し、後にADHDと診断される方もいらっしゃいます。
発達障害の症状で初めて受診した日が初診日となるのが原則で、知的障害を伴わず20歳前に受診歴がない場合は、成人後に初めて受診した日が初診日となります。
なお、当初はうつ病や不眠などの傷病で受診し、後にADHDと診断された場合、同一傷病または相当因果関係があると判断されるときは、先に受診した日が初診日となることがあります。
どの日が初診日になるかは個別の事案により判断されます。
初診日にどの年金制度に加入していたかによって、受給できる年金が分かれます。
国民年金加入中(自営業・専業主婦(夫)・学生など)や20歳前の年金未加入期間、日本国内に住む60歳以上65歳未満で年金制度に加入していない期間に初診日がある場合は「障害基礎年金」、厚生年金加入中(会社員など)に初診日がある場合は「障害厚生年金」の対象です。
受給条件の全体像は障害年金を受け取るための条件とはもあわせてご覧ください。
②保険料納付要件
原則として、初診日の前日において、初診日がある月の前々月までの被保険者期間のうち、保険料の納付済期間と免除期間をあわせた期間が3分の2以上あることが必要です。
ただし、初診日が令和18年3月末日までにあるときは、初診日において65歳未満であれば、直近1年間に保険料の未納がなければよいとされています。
また、20歳前の年金制度に加入していない期間に初診日がある場合は、納付要件は問われません。
③障害の程度(認定基準に該当)
3つ目は、障害の状態が認定基準に定める等級に該当することです。
ADHDのような精神の障害では、傷病名だけでなく、日常生活能力や就労状況、これまでの経過などを総合して判断されます。
「仕事や家事ができているか」「どの程度の支援を受けているか」といった生活実態が重視される点が特徴です。
次の章で等級の目安を見ていきます。
ADHDで受給する場合の等級・金額の傾向
ここでは、ADHDで受給する場合の等級の目安と、令和8年度の金額の傾向を整理します。
等級は状態像で判断され、金額は加入していた制度や年度によって異なります。
なお、ここで示すのはあくまで一般的な傾向であり、個別の認定を保証するものではありません。
1級・2級・3級の状態像の目安
障害年金の等級は、おおむね次のような状態像が目安とされています。
| 等級 | 状態像の目安(認定基準より) |
|---|---|
| 1級 | 他人の介助を受けなければ日常生活のことがほとんどできない程度 |
| 2級 | 日常生活が著しい制限を受ける、または著しい制限を加えることを必要とする程度 |
| 3級(障害厚生年金のみ) | 労働が著しい制限を受ける、または著しい制限を加えることを必要とする程度 |
ここで重要なのは、受給できる等級が初診日の加入制度によって異なる点です。障害基礎年金の対象等級は1級・2級のみで、3級はありません。
障害等級は1級から3級までで、3級は障害厚生年金にのみ設けられています。
また、3級より軽い一定の障害が初診日から5年以内に治った日(症状が固定した日)に残った場合などには、等級とは別に障害手当金(一時金)が支給されることがあります。
そのため、初診日が国民年金加入中や20歳前の年金未加入期間にある方は、症状が3級相当であっても障害基礎年金の支給対象にはならない点にご注意ください。
なお、障害者手帳(精神障害者保健福祉手帳など)の等級と障害年金の等級は別の制度であり、必ずしも一致しません。
障害年金の受給額の目安(令和8年度)

令和8年度(2026年度)の障害基礎年金は定額で、昭和31年4月2日以後にお生まれの方は次のとおりです。
| 等級 | 障害基礎年金(令和8年度・年額) |
|---|---|
| 1級 | 1,059,125円(2級の1.25倍) |
| 2級 | 847,300円 |
昭和31年4月1日以前にお生まれの方は別額で、1級1,056,125円・2級844,900円です。
いずれも、生計を維持している子がいる場合は子の加算が上乗せされます。
初診日に厚生年金へ加入していた方は、1級・2級に該当すると、障害基礎年金に加えて障害厚生年金が上乗せされます。
障害厚生年金は報酬比例で計算され、1級は報酬比例の年金額×1.25、2級は報酬比例の年金額がそれぞれ支給され、一定の要件を満たす配偶者がいる場合は配偶者加給年金が加算されます(ただし、配偶者がご自身の老齢厚生年金(被保険者期間20年以上等)や障害年金を受けられる間は、配偶者加給年金は支給停止されます)。
3級は報酬比例の年金額のみで、最低保障額(令和8年度635,500円、昭和31年4月1日以前生まれは633,700円)が設けられています。
なお、20歳前の年金未加入期間に初診日がある障害基礎年金には、本人の前年所得による支給制限があります。
令和8年度は、前年の所得が479万4,000円(扶養親族がいる場合は加算)を超えると全額が、376万1,000円を超えると2分の1が支給停止されます。
報酬比例部分は加入期間や報酬によって大きく異なります。
金額の詳しいシミュレーションは【2026年度(令和8年度)】障害年金でもらえる金額もあわせてご確認ください。
申請のポイント(初診日の証明・診断書・申立書)
ADHDで障害年金を申請する際は、書類で日常生活や就労の支障を具体的に示すことが鍵になります。
ここでは初診日の証明と、診断書・申立書の準備について、形式面のポイントを解説します。
初診日の証明とカルテがない場合

初診日は、原則として受診状況等証明書などで証明します。
発達障害では受診から時間が経っていることも多く、当時のカルテが残っていない場合もあります。
その場合でも、当時のお薬手帳や診察券、紹介状、健診記録などから初診日を確認できることがあります。
どの時点が初診日になるかは受給の可否を左右するため、過去の受診歴を丁寧に確認することが大切です。
診断書(精神の障害用)と病歴・就労状況等申立書
ADHDの申請では、精神の障害用の診断書(様式第120号の4。発達障害もこの様式を使用します)を主治医に作成いただきます。
この様式には、教育歴や職歴、日常生活能力の判定・程度を記載する欄があり、生活上の支障がどの程度かが審査で重視されます。
あわせて、本人や家族(社会保険労務士が支援する場合もあります)が作成する病歴・就労状況等申立書で、幼少期からの経過や就労状況、日常生活の困りごとを時系列で具体的に伝えることが重要です。
診断書の作成や読み方については障害年金の診断書とは|種類・重要性と準備のポイントを解説もご参照ください。
診断書の現症日には決まりがあります。
障害認定日(原則として初診日から1年6か月を経過した日。
その間に症状が固定した場合はその日)による請求では認定日から3か月以内の現症の診断書が必要で、認定日と請求日が1年以上離れている場合は請求日前3か月以内の診断書もあわせて2通必要です。
事後重症請求では請求日前3か月以内の現症の診断書が中心となります。
なお、20歳前の年金未加入期間に初診日がある場合は扱いが異なります。
初診日から1年6か月を経過した日が20歳到達日より前のときは障害認定日が20歳に達した日となり、20歳に達した日(誕生日の前日)の前後3か月以内の現症の診断書が用いられます。
20歳前初診が想定されやすいADHDでは、この点に注意が必要です。
ADHDで「もらえない」「通らない」と言われるケース

ADHDの障害年金は「もらえない」「審査が厳しい」と言われることがあります。
ここでは、不支給になりやすいとされる一般的な理由と、不支給だった場合の選択肢を冷静に整理します。
不支給になりやすい一般的な理由
精神の障害は、生活の困難さを書類で客観的に示すことが難しいため、不支給になりやすいといわれることがあります。
一般的に指摘される要因としては、就労状況が実態より軽く伝わってしまうこと、診断書や申立書に日常生活の支障が十分に反映されないことなどが挙げられます。
なお、初診日そのものが認められない場合は、不支給ではなく却下という扱いになることもあります。
とくに就労中の場合、「働けているなら支障は軽い」と受け取られやすい面があります。
一方で、障害者雇用や職場の配慮を受けてようやく就労を継続できているケースなど、就労していても認定される可能性はあります。
なお、令和6年度以降の障害年金の不支給事案については、厚生労働省・日本年金機構による点検が進められており、速報値として点検済14,841件のうち444件(約3.0%)が支給に変更されたことが公表されています(2026年5月時点)。
審査の最新の状況は日本年金機構「障害年金の認定状況について」でご確認いただけます。
不支給後の選択肢(再請求・審査請求)
申請が不支給となった場合でも、選択肢があります。
決定に不服がある場合は審査請求・再審査請求を行う方法があり、その後に状態や書類を整えて改めて請求し直す方法もあります。
審査請求は原則として処分があったことを知った日の翌日から3か月以内、再審査請求は審査請求の決定書謄本が送付された日の翌日から2か月以内に行う必要があります。
期限を過ぎると手続きができなくなる場合があるため、不支給通知が届いたら早めに次の対応を検討することが大切です。
どの方法が適しているかは、不支給の理由によって異なります。不支給通知の内容を確認したうえで検討しましょう。
発達障害で不支給だった場合の考え方は発達障害で障害年金を申請して落ちたもあわせてご覧ください。
ADHDで障害年金を受給した事例
弊事務所では、ADHD(注意欠如・多動症)の方の障害年金申請を数多く支援してまいりました。
実際の事例を知ることで、ご自身の状況に近いケースをイメージしやすくなります。
以下は当法人の支援事例の一部です。
このように、就労状況や日常生活の支障、初診日の状況によって、認定される等級や結果は異なります。※個別事案により判断は異なります。
まとめ

ADHDは発達障害として障害年金の対象疾患であり、3つの要件(初診日・保険料納付・障害の程度)を満たせば受給できる可能性があります。
診断名だけでなく、日常生活や就労の支障を書類で具体的に示すことが大切です。
とくにADHDでは初診日の見極めが申請の難所になりやすく、初診日の加入制度によって受給できる等級・年金の種類が変わります。
「もらえない」と言われた場合も、期限内であれば審査請求や再請求といった選択肢があります。
ADHDでの障害年金申請をお考えの方は、わくわく社会保険労務士法人(全国障害年金サポートセンター)までお気軽にお問い合わせください。
※本記事は2026年6月時点の年金法令・障害認定基準に基づき作成しています。法令改正等により内容が変更される可能性があるため、最新の情報は日本年金機構の公式サイト等でご確認ください。個別の事案については社会保険労務士・弁護士等の専門家へ、医学的判断は主治医にご相談ください。
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