目次
はじめに
心臓の弁置換術を受け、人工弁を装着された方やそのご家族から、「障害年金の対象になるのか」「何級くらいになるのか」というご相談を多くいただきます。
人工弁の装着は、障害認定基準上、原則として一定の等級に該当するとされており、申請を検討する価値のある傷病です。
一方で、初診日にどの年金制度へ加入していたかによって、受給できるかどうかが大きく変わる点には注意が必要です。
本記事では、人工弁と障害年金の関係、等級・金額の傾向、申請のポイント、そして「もらえない」と言われやすいケースまで、社会保険労務士の視点で整理してお伝えします。
人工弁(弁置換術)と障害年金の関係
人工弁を装着した場合の障害年金は、「心疾患(循環器疾患)による障害」として審査されます。
まずは、人工弁が障害認定基準のどこに位置づけられるのかを確認しておきましょう。
障害年金の審査では、傷病ごとに「障害認定基準」という国の定めたものさしが用いられます。
心臓の弁に関わる傷病(弁疾患)は、この基準の「第11節 心疾患による障害」で評価されます。
心疾患には、弁疾患のほか、心筋疾患、虚血性心疾患(心筋梗塞・狭心症)、難治性不整脈、大動脈疾患、先天性心疾患などが含まれます。
人工弁の装着は、機械弁か生体弁かの種類を問わず、この弁疾患による障害として認定の対象になります。
心臓だけでなく血管を含む循環器疾患全体が対象とされている点も、認定基準上の特徴です。
ここで注意したいのが、心臓の弁の手術には大きく2種類があるという点です。
悪くなった弁を取り除いて人工弁に取り換える「弁置換術」に対し、自分の弁を温存して修復する「弁形成術」では、人工弁輪(リング)などが用いられます。
障害認定基準で原則3級相当の取り扱いがされるのは前者の「人工弁を装着したもの」で、弁形成術(人工弁輪)はこれに当たりません。
そのため、弁形成術の場合は、装着のみをもって等級が認定される取り扱いの対象にはならず、症状や検査所見が基準に該当するかどうかで判断されることになります。
なお、人工弁を装着するに至った病気そのものの診断や治療に関する判断は、主治医の領域です。
本記事では、あくまで障害年金の制度面・申請面についてお伝えします。
人工弁で障害年金を受給できる可能性
人工弁を装着された方が最も気になるのは、「実際に受給できるのか」という点でしょう。
障害認定基準では、人工弁の装着について一定の取り扱いが定められています。
人工弁の装着は原則3級相当とされています
障害認定基準の「第11節 心疾患による障害」では、人工弁を装着したものは、原則として障害等級3級相当と認定するとされています。
これは、人工弁の装着によって労働に一定の制限が生じることが前提とされているためです。
この取り扱いには、次のような補足も定められています。
- 複数の人工弁置換術を受けている場合であっても、原則として3級相当とされています。
- 抗凝固薬の使用による出血傾向については、重度のものを除き、人工弁の認定の対象とはされていません。
(出典:厚生労働省/日本年金機構『国民年金・厚生年金保険 障害認定基準』第11節 心疾患による障害)
つまり、人工弁を装着しているという事実だけでも、3級相当として審査される土台があるということです。
ただし、これは「必ず3級が認定される」という意味ではなく、初診日や保険料納付などの要件を満たしたうえでの一般的な取り扱いです。
個別の事案により判断は異なります。
症状が重い場合は2級・1級に該当する可能性もあります
人工弁の装着は原則3級相当ですが、それにとどまらず、心不全の症状や検査所見が重い場合には、2級や1級と認定される可能性もあります。
心疾患の障害の程度は、呼吸困難・動悸・むくみ等の臨床症状、X線や心電図などの検査成績、日常生活の状態を区分する「一般状態区分表」などをもとに、総合的に判断されます。
日常生活に著しい制限がある場合は2級、長期にわたる安静を要し日常生活がほとんどできない場合は1級に該当する可能性があります。
このあたりの判断は、診断書に記載される症状や検査数値に大きく左右されます。
ご自身の状態がどの程度に当たるかは、主治医や障害年金に詳しい専門家にご相談されることをおすすめします。
受給する場合の等級・金額の傾向
人工弁で受給する場合、多くは3級が想定されます。
ここで非常に重要なのが、「3級は障害厚生年金にしかない」という点です。
初診日にどの年金制度へ加入していたかで、受給できるかどうかが分かれます。
3級は障害厚生年金のみ — 初診日の加入制度で大きく変わります
障害年金には、障害基礎年金と障害厚生年金の2種類があります。
このうち3級が用意されているのは障害厚生年金だけで、障害基礎年金には3級がありません。
そのため、人工弁の装着で3級相当と判断される場合、初診日の加入制度によって次のように分かれます。
- 初診日に厚生年金へ加入していた方(会社員など):障害厚生年金3級の対象になり得ます。
- 初診日に国民年金へ加入していた方(自営業・専業主婦(夫)・無職・学生など):障害基礎年金には3級がないため、原則として支給の対象になりません。
同じように人工弁を装着していても、初診日の加入制度によって結果が大きく変わります。
「人工弁ならどなたでも受給できる」とは一概に言えない理由がここにあります。
なお、症状が重く2級以上と判断される場合は、初診日が国民年金でも障害基礎年金の対象となり得ます。
初診日が厚生年金であれば、1級・2級では障害基礎年金に障害厚生年金が上乗せされて支給されます。
障害年金の受給額の目安(令和8年度・2026年度)

令和8年度(2026年度)の障害基礎年金は定額で、昭和31年4月2日以後にお生まれの方は次のとおりです。
| 等級 | 障害基礎年金(令和8年度・年額) |
|---|---|
| 1級 | 1,059,125円(2級の1.25倍) |
| 2級 | 847,300円 |
昭和31年4月1日以前にお生まれの方は別額で、1級1,056,125円・2級844,900円です。
いずれも、生計を維持している子がいる場合は子の加算が上乗せされます。
初診日に厚生年金へ加入していた方は、1級・2級に該当すると、障害基礎年金に加えて障害厚生年金が上乗せされます。
障害厚生年金は報酬比例で計算され、1級は報酬比例の年金額×1.25、2級は報酬比例の年金額がそれぞれ支給され、一定の要件を満たす配偶者がいる場合は配偶者加給年金が加算されます(ただし、配偶者がご自身の老齢厚生年金(被保険者期間20年以上等)や障害年金を受けられる間は、配偶者加給年金は支給停止されます)。
3級は報酬比例の年金額のみで、最低保障額(令和8年度635,500円、昭和31年4月1日以前生まれは633,700円)が設けられています。
なお、20歳前の年金未加入期間に初診日がある障害基礎年金には、本人の前年所得による支給制限があります。
令和8年度は、前年の所得が479万4,000円(扶養親族がいる場合は加算)を超えると全額が、376万1,000円を超えると2分の1が支給停止されます。
報酬比例部分は加入期間や報酬によって大きく異なります。
金額の詳しいシミュレーションは【2026年度(令和8年度)】障害年金でもらえる金額もあわせてご確認ください。
人工弁の場合の金額の考え方をより詳しく知りたい方は、人工弁の障害年金はいくら?金額の目安と早見表もあわせてご覧ください。
申請のポイントと障害認定日の特例
人工弁の申請では、一般的な障害年金とは異なる「障害認定日の特例」が大きなポイントになります。
書類面の準備とあわせて確認しておきましょう。
初診日から1年6か月以内なら、人工弁を装着した日が障害認定日になります
通常、障害年金は初診日から1年6か月を経過した日(障害認定日)以降でなければ請求できません。
しかし、人工弁のように体内へ人工弁を装着した場合は特例があり、初診日から1年6か月以内に装着したときは、その装着した日が障害認定日となります。
この特例により、1年6か月の経過を待たずに請求できる場合があります。
装着後すぐに手続きを進められる点は、人工弁の申請の大きな特徴です。
なお、人工弁の装着が初診日から1年6か月を超えてから行われた場合は、この特例は適用されず、原則どおり初診日から1年6か月を経過した日が障害認定日となります。
必要な診断書・書類
人工弁の申請では、循環器疾患用の診断書(様式第120号の6-(1))を主治医に作成してもらいます。
診断書には、症状や検査所見に加えて、人工弁を装着した日を明記してもらうことが重要です。
また、循環器疾患の診断書では、心電図の所見がある場合に心電図のコピーの添付が必要になります。
そのほかの異常な検査所見についても、該当する資料の提出を求められることがあります。
あわせて、初診日を証明する書類も必要です。
人工弁の装着が古い場合、初診の医療機関でカルテが廃棄されていることもあり、その際は紹介状や他院の記録などで初診日を証明できないかを確認していくことになります。
ご自身の状況をまとめる「病歴・就労状況等申立書」も重要な書類です。
書き方のポイントは、病歴・就労状況等申立書の書き方で詳しく解説しています。
「人工弁でも障害年金がもらえない」と言われるケース
人工弁は原則3級相当とされる一方で、「もらえない」と言われてしまうケースもあります。
多くは制度上の要件に関わるものです。代表的なパターンを整理します。
人工弁を装着していても受給につながりにくい主なケースは、次のとおりです。
- 初診日に国民年金へ加入していた(自営業・専業主婦(夫)・無職・学生など)場合:前述のとおり、3級相当では障害基礎年金の対象にならず、原則として支給されません。症状が重く2級以上に該当するかどうかが分かれ目になります。
- 保険料納付要件を満たしていない場合:原則として、初診日のある月の前々月までの公的年金の加入期間のうち、3分の2以上が保険料納付済みまたは免除されていることが必要です(初診日の前日の時点で判定します)。特例として、初診日のある月の前々月までの直近1年間に未納がなければ、要件を満たすものとされます。なお、20歳前に初診日がある場合など、納付要件が問われないケースもあります。
- 初診日を証明できない場合:カルテの廃棄などで初診日が確定できないと、要件の審査に進めず、却下となることもあります。
これらは人工弁に限らず障害年金全般に共通する要件です。
なお、申請の結果に納得できない場合の対応も知っておくと安心です。
当初の決定そのものに誤りがあると考える場合は、審査請求(処分があったことを知った日の翌日から3か月以内)という方法があります。
その決定にもなお不服があるときは、再審査請求(決定書の謄本が送付された日の翌日から2か月以内)に進むことができます。
一方、その後に症状が悪化した場合は、不必要に期間を空けずに改めて請求(再請求)することも検討できます。
ただし、症状の悪化を理由とする事後重症による請求は、請求した月の翌月分からの支給となり、過去にさかのぼっての支給はできません。
どの方法が適切かは事案によって異なるため、障害年金に詳しい専門家にご相談されることをおすすめします。
人工弁・心疾患の障害年金の事例
弊事務所(全国障害年金サポートセンター)では、人工弁の装着をはじめとする心疾患の障害年金申請を数多く支援してきました。
実際にどのような事例があるか、いくつかご紹介します。
大動脈弁や僧帽弁の置換術を受けられた方が障害厚生年金3級に認定された事例、障害認定日の特例(装着した日での請求)を使って早期に請求できた事例、初診日が古くカルテが廃棄されていたものの紹介状などで初診日を証明できた事例など、状況はさまざまです。
実際の受給事例も公開していますので、あわせてご参照ください。
※個別事案により判断は異なります。
人工弁の障害年金に関するよくある疑問
最後に、人工弁の障害年金についてよくいただくご質問にお答えします。
関連する記事もあわせてご覧ください。
Q. 障害厚生年金3級にも更新はありますか?
障害年金は、原則として定期的に診断書を提出し、障害の状態を確認する「更新」があります。
更新の仕組みや注意点は、障害年金の更新で気をつけることをご覧ください。
Q. 初診日がよく分かりません。
初診日は受給の可否を左右する重要なポイントです。
受給要件の全般については、障害年金の受給要件で確認できます。
まとめ
人工弁の装着は、障害認定基準上、原則として3級相当とされ、障害年金の対象となり得る傷病です。
ただし、3級は障害厚生年金にしかないため、初診日に厚生年金へ加入していたかどうかが受給の大きな分かれ目になります。
症状が重い場合は2級・1級の可能性もあり、また人工弁を装着した日が障害認定日となる特例も利用できます。
ご自身がどの要件に当てはまるか不安な方は、早めに確認しておくと安心です。
人工弁による障害年金の申請をご検討の方は、わくわく社会保険労務士法人(全国障害年金サポートセンター)までお気軽にお問い合わせください。
※本記事は2026年6月時点の年金法令・障害認定基準(障害認定基準は令和4年4月1日改正版)に基づき作成しています。法令改正等により内容が変更される可能性があるため、最新の情報は日本年金機構の公式サイト等でご確認ください。個別の事案については社会保険労務士・弁護士等の専門家へのご相談を推奨します。医学的判断は主治医にご確認ください。


