障害年金に関してよくある「軽度知的障害(療育手帳 B2、C、4度)では障害年金はもらえませんか?」という質問にお答えします。
軽度知的障害で障害年金をもらえるのか
軽度知的障害の方であっても、要件を満たすことで障害年金を受給できる可能性があります。
障害年金を受給するための要件
障害年金を受給する場合、障害の種類に関わらず以下の3つの要件を満たす必要があります。
初診日要件
障害または死亡の原因となった病気やけがについて、初めて医師等の診療を受けた日を「初診日」と言います。
障害年金を受給するためには、初診日に国民年金、厚生年金、共済年金といった公的年金に加入している必要があります。(初診日要件)
ただし「20歳未満の方」と「60歳以上65歳未満で日本国内に在住されている方」は、年金未加入の間に初診日がある場合であっても障害年金の受給対象となる場合があります。
傷病名が「先天性の知的障害」であれば、出生日が初診日なお、受診状況等証明書は不要です。
ただし、頭部外傷や高熱などが原因でとなります。知的障害となった場合は、原則として初めて医療機関を受診した日を初診日として取り扱います。(日本年金機構:障害年金口座)
保険料納付要件
初診日の前日に、初診日がある月の前々月までの期間で、国民年金の保険料を「納付した期間」と保険料が「免除されていた期間」をあわせた期間が3分の2以上ある必要があります。(保険料納付要件)
ただし、初診日が令和8年4月1日前にあるときは、初診日において65歳未満であれば、初診日の前日において、初診日がある月の前々月までの直近1年間に保険料の未納がなければよいことになっています。
障害状態該当要件
障害の状態が、障害認定日に、障害等級表に定める1級から3級のいずれかに該当している必要があります。(障害状態該当要件)
ただし、障害認定日に障害の状態が軽くても、その後重くなったときは、障害厚生年金を受け取ることができる場合があります。
療育手帳とは
知的障害の方の障害の程度は各地方自治体において判定され、療育手帳(「愛の手帳」「緑の手帳」「みどりの手帳」「愛護手帳」など)を交付されます。
(後述しますように、療育手帳の取得は障害年金の受給のための要件ではありませんので、療育手帳を取得されていない方でも障害年金を受給できた事例はあります。)
療育手帳は、以下に書かれているように重度以外の方がBと表示するものとされています。
第3 障害の程度の判定
療育手帳制度の実施について
1 障害の程度は、次の基準により重度とその他に区分するものとし、療育手帳の障害の程度の記載欄には、重度の場合は「A」と、その他の場合は「B」と表示するものとする。
軽度知的障害の方の判定は自治体によって「B2」「C」「4度」などのように表示されています。
関東圏を例に見てみると、軽度知的障害の方の判定は、神奈川県、千葉県、栃木県では「B2」、埼玉県、茨木県では「C」、東京都では「4度」という表示になります。
軽度知的障害のIQ
「ICD-10」(疾病及び国連保健問題の国際統計分類)の知的障がいの分類では、「軽度精神遅滞」がおおよそIQ50から69の範囲とされています。(F70 軽度知的障害<精神遅滞>)
ただし、総務省が地方公共団体の中から18の道府県・政令市を選びアンケート調査を実施した結果、16の地方公共団体から「IQの上限を70ないし75に設定している」との回答があったとのことで、厳密に70未満までを軽度知的障害と区切っているわけではありません。(発達障がい者に対する療育手帳の交付について)
東京都では軽度知的障害(4度)の場合の障害の程度は以下のように定められています。
軽度とは、知能指数(IQ)がおおむね50から75で、簡単な社会生活の決まりに従って行動することが可能です。
東京都福祉局 対象者(愛の手帳Q&A)
例えば、日常生活に差し支えない程度に身辺の事柄を理解できますが、新しい事態や時や場所に応じた対応は不十分です。
また、日常会話はできますが、抽象的な思考が不得手で、こみいった話は難しいです。
上は判定基準の一部分について例示したものであり、最終的には総合判定により障害の程度が決められます。
軽度知的障害(療育手帳 B2、C、4度)で受給できる障害年金の等級
軽度知的障害(療育手帳 B2、C、4度)の方が障害年金を申請した場合、障害年金何級を受給できる可能性があるのでしょうか。
障害基礎年金1級又は2級
先天性の病気などにより20歳前から障害がある方で、障害認定基準で定める障害の状態に該当するなどの受給要件を満たす場合には、「障害基礎年金1級又は2級」を受けることができる可能性があります。
障害認定基準の中で、知的障害は以下のように定義されています。
D 知的障害
「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準 第8節 精神の障害」
(1) 知的障害とは、知的機能の障害が発達期(おおむね18歳まで)にあらわれ、日常 生活に持続的な支障が生じているため、何らかの特別な援助を必要とする状態にあるものをいう。
つまり知的障害の方は20歳前傷病となりますので、受給できる障害年金は「障害基礎年金1級」又は「障害基礎年金2級」となります。
障害基礎年金に3級はありませんので、3級相当する障害の状態の場合は障害年金の受給はできません。
(日本年金機構HP:先天性の病気などにより20歳前から障害がありますが、障害基礎年金を受けることができますか。)
知的障害の障害の程度
障害認定基準の中で、各等級に相当すると認められるものは以下のように例示されています。
障害の程度 | 障害の状態 |
1級 | 知的障害があり、食事や身のまわりのことを行うのに全面的な援助が必要であって、かつ、会話による意思の疎通が不可能か著しく困難であるため、日常生活が困難で常時援助を必要とするもの |
2級 | 知的障害があり、食事や身のまわりのことなどの基本的な行為を行うのに援助が必要であって、かつ、会話による意思の疎通が簡単なものに限られるため、日常生活にあたって援助が必要なもの |
3級 | 知的障害があり、労働が著しい制限を受けるもの |
軽度知的障害での障害年金申請でよくある問題
軽度知的障害の方で障害年金を申請するために問題が出るケースがあります。
どのようなケースがあるのかをみてみましょう。
医療機関の確保
知的障害の場合、普段生活をする上では医療的なケアは特に必要が無いため、定期的な通院をしていない方は多くいらっしゃいます。
そこで問題となるのが、診断書を書いてくれる病院が見つからないといった問題です。
20歳が近づき「いざ申請しよう」と思って病院へ行っても「当院では書けません」と言われた方もいらっしゃいます。
また、障害年金の診断書を記載してもらうには、最低でも3か月は通院が必要となります。
知的障害の場合は1回の受診で診断書を記載してくれる病院もありますが、数回通院して様子をみてから発行するケースも多くあります。
20歳の誕生日を迎えた後に出来るだけ早く請求を行うためには、事前に医療機関の目星を付けておくとスムーズになります。
IQの数値
「軽度知的障害のIQ」でもご説明したように、一般的に「軽度」はIQ70未満を言いますが、障害年金の審査対象は「IQのみ」ではありません。
障害認定基準に「知的障害の認定に当たっては、知能指数のみに着眼することなく、日常生活のさまざまな場面における援助の必要度を勘案して総合的に判断する」と示されています。(障害認定基準 D知的障害(3))
その為 ①療養状況 ②生活環境 ③就労状況 ④発育・療養歴・教育歴 について、しっかりと診断書や申立書で伝わるように準備することにより軽度であっても十分に可能性があります。
療育手帳を持っていない
「療育手帳を持っていないので障害年金は受給できない」と思われている方もいらっしゃいますが、療育手帳の取得は障害年金の受給のための要件ではありません。
また、障害年金と療育手帳(「愛の手帳」「緑の手帳」「みどりの手帳」「愛護手帳」など)は基準とされる法律が異なりますので、障害年金と療育手帳の等級が一致するとも限りません。
療育手帳をお持ちでない方でも、当センターでサポートさせて頂いて障害年金が受給できた事例はございます。
結論
軽度知的障害の方で障害認定基準で定める障害の状態に該当する場合、「障害基礎年金1級又は2級」と認定される可能性があります。
「知的障害の障害年金申請事例」では、当事務所でサポートさせて頂いた事例をご紹介していますので、ご参照ください。
「【わかりやすく解説】知的障害で障害年金を申請するポイント」でも詳しくご説明していますので、こちらも是非ご覧ください。
軽度知的障害の方で障害年金の申請に関して何か気になる点などございましたら、お気軽にご相談ください。