
「人工透析で障害年金の遡及請求はできますか?」というよくあるご質問にお答えします。
結論から言えば、人工透析療法による障害年金でも条件を満たせば遡及請求(過去にさかのぼった請求)は可能です。
人工透析は公的な障害認定基準において原則「2級」の重い障害状態と認定されるため、所定の時期に障害年金を受け取る権利が発生します。
仮にその権利発生時に年金を請求していなかった場合でも、後から一定の範囲でさかのぼって請求できる制度があります。
ただし、遡及請求にはいくつかの条件や期限(時効)があり、誰もが無条件で全ての過去期間を受け取れるわけではありません。
ここでは人工透析患者が障害年金を受給できる仕組みと、遡及請求の可否や手続き上のポイントについて、専門家の視点からやさしく解説します。
目次
人工透析と障害年金の対象・等級とは?
人工透析を受けている方は障害年金の対象となり、原則として「2級」の障害等級に認定されます。
これは厚生労働省の定める障害認定基準によるもので、慢性腎不全などで長期の透析療法を必要とする場合、その障害の程度は日常生活に著しい制限がある状態として2級相当と判断されるためです。
まずは人工透析と障害年金の基本的な関係について確認しましょう。
人工透析は障害年金の「2級」認定に該当
公的な障害認定基準では、人工透析療法を継続して受けている人は原則2級の障害状態と認定されます。
実際、平成14年4月の認定基準改正以降、人工透析患者の障害等級は原則2級とされ、年金額も2級相当で支給されることになりました。(※参考:日本年金機構ホームページ『人工透析を行っている方へ』)
つまり、人工透析が必要な状態になれば、公的年金制度上は重度の障害状態とみなされ、障害基礎年金や障害厚生年金を受け取る権利が発生し得るのです。
なお、人工透析中であっても症状や合併症の程度によっては2級より上位等級(1級)に認定される場合もあります。
たとえば長期透析による合併症が重く日常生活に極めて大きな支障がある場合などは1級相当と判断されるケースもあります。
ただし多くの透析患者は日常生活は制限されつつも介助なしで送れるため、原則は2級認定となります。
人工透析で障害年金を受け取るための条件
人工透析そのものが障害年金の認定基準に該当していても、障害年金を実際に受給するには他にも満たすべき条件があります。
主なものは以下の2点です。
- 初診日要件:障害の原因となった病気の初診日が、公的年金制度の加入中であること(もしくは20歳前や60歳以上65歳未満で日本に住んでいる期間)。たとえば慢性腎不全の原因疾患(糖尿病や腎炎など)の初診日が厚生年金や国民年金加入中であることが必要です。初診日とは「障害の原因となった病気やけがについて初めて医師の診療を受けた日」のことで、この日付が年金加入期間外だと原則として障害年金の受給権が発生しません。
- 保険料納付要件:初診日の前日時点で、一定の年金保険料納付実績があること。通常、初診日の属する月の前々月までに年金保険料を納めた期間(免除期間含む)が全体の3分の2以上あることが必要です。ただし初診日が令和18年3月末までの場合は特例として、初診日前の直近1年間に未納がなければ受給要件を満たします。
以上の要件を満たし、かつ人工透析療法の継続により障害等級2級相当の状態になっていれば、その方は障害年金を受け取る権利(受給権)が発生します。
特に初診日要件は重要で、人工透析を開始した時点ではなく原因疾患で最初に受診した日の記録がカギになりますので、ここはしっかり確認しておきましょう。
障害年金の請求方法と「遡及請求」の概要
障害年金の請求には大きく2つの方法があり、それによって年金が支給開始される時期が異なります。
1つは「障害認定日による請求」、もう1つは「事後重症による請求」です。
さらに、障害認定日による請求を本来の時期より後になって行うことを特に「遡及請求」と呼びます。
ここではまず障害年金の請求方法の違いと、遡及請求とは何かを押さえましょう。
障害認定日による請求(本来請求)とは
「障害認定日による請求」とは、その名の通り障害認定日に障害状態が該当した場合に行う請求方法です。
障害認定日とは制度上あらかじめ定められた「障害の状態を定める日」で、多くの傷病では初診日から1年6か月経過した日とされています(※例外的にそれより前に症状が固定した場合などはその日)。
人工透析の場合、障害認定日は「透析を初めて受けた日から3か月を経過した日」とされますが、これはその日が初診日から1年6か月以内にあるときに、特例として障害認定日になる扱いです。
例えば、腎疾患の初診日からまだ1年6か月に達していない段階で透析療法が始まった場合には、通常より早い時期(透析開始3か月後)が障害認定日になります。
障害認定日に法令上の障害状態(障害等級)に該当していれば、その翌月分から障害年金を受け取る権利が発生します。
例えば初診から1年後に障害認定日に達し、その時点で2級相当の障害があれば、障害認定日の翌月から年金支給対象となります。
これを本来請求とも言い、認定日に権利が発生したらすぐに請求手続きを行い年金を受給開始するのが理想的です。
ポイントは、請求自体は障害認定日以降であればいつでも可能だということです。
仮に認定日時点で障害状態に該当していたのに請求が遅れた場合でも、後から請求手続きをすることができます。
この「後から請求」が遡及請求に当たります。
なお、後述するように支給される年金は時効により最大5年分までに限られますので、あまり長期間放置すると一部受け取れなくなる可能性があります。
事後重症による請求とは
「事後重症による請求」とは、障害認定日当時には障害等級に該当するほどではなかったものの、その後に症状が悪化して障害状態に至った場合に行う請求方法です。
この場合は障害認定日には受給権が発生していなかったため、請求した日の翌月分から年金が支給開始となります。
たとえば初診日から1年6か月時点ではまだ透析が不要だったが、さらにその後に病状が進行して透析導入となり障害状態になったようなケースが該当します。
事後重症請求の場合、請求月の翌月からしか年金は受け取れません。
過去にさかのぼっての支給は認められず、請求が遅れれば遅れるほど受給開始も遅れる形になります。
また、65歳の誕生日の前々日までに請求書を提出する必要がある点にも注意が必要です。
これは障害年金の新規請求には年齢制限があるためで、事後重症で請求する場合は特に期間内に手続きを済ませなければ権利が失われてしまいます。
遡及請求とは
「遡及請求」は前述の障害認定日請求の一種ですが、障害認定日から時間が経ってから請求するケースを指す通称です。
具体的には、障害認定日当時に本来受給権があったにもかかわらず請求せず、その後になってから請求することを遡及(さかのぼり)請求と言います。
遡及請求を行うと、認定日の翌月から請求月までの年金をまとめて受け取ることが可能です(ただし最大5年分まで)。
「過去に遡って障害年金をもらう」と言った場合、通常この遡及請求を指しています。
例えば障害認定日が5年前でその時点から受給権があった場合に、今になって請求すれば直近5年分の年金を一括で受け取れる、といった具合です。
遡及請求は受給権が発生していた人にとって救済的な制度ですが、一方で証拠となる診断書の提出や時効による制限などハードルもあります。
この詳細は後述しますが、大切なのは遡及請求が可能なのは「障害認定日時点で障害状態にあった人」に限られるという点です。
認定日時点で障害に該当していなかった人は、いくら過去に遡りたくてもそもそも受給権がなかったので遡及の対象にはなりません。
人工透析で遡及請求ができるケース・できないケース
人工透析患者の場合、透析を開始したタイミングによって「遡及請求できるケース」と「できないケース」に分かれます。
ポイントは、初診日から1年6か月以内に透析療法が開始されたかどうかです。
以下、ケースごとに詳しく見てみましょう。
【ケース1】初診日から1年6か月以内に透析を開始した場合
腎疾患の初診日から18か月(1年6か月)以内に人工透析が始まった方は、障害認定日の特例により「透析開始から3か月経過した日」が障害認定日となります。
この障害認定日は初診日から1年6か月よりも前倒しされた日付です。
例えば初診から1年経過した時点で透析導入し、3か月後に障害認定日を迎えたといったケースになります。
このケースでは障害認定日(透析開始後3か月時点)において既に障害2級の状態に該当していますから、本来であればその翌月から障害年金を受給できる権利が発生しています。
もし当時すぐに年金請求していなくても、後から遡及請求することでこの時点にさかのぼった年金を受け取ることが可能です。
✅ポイント:5年以内ならまとめて受給可能
遡及請求により受け取れるのは過去最長5年分までの年金です。したがって、障害認定日から5年以内に請求すれば、その間の未支給分を一括受取りできます。ただし認定日から5年を超えて経過している分については時効消滅し受け取れません。早めの請求が大切です。
例えば具体例として、初診日が2015年4月、透析開始が2016年4月だったとします(初診から約1年半以内)。
透析開始3か月後の2016年7月が障害認定日となり、この時点で2級相当の障害状態です。
この方が2021年になってから請求した場合、2016年7月~2021年6月までの直近5年間の年金を遡及して受け取れる可能性があります。(※保険料要件等も満たしている前提)
【ケース2】初診日から1年6か月を超えて透析を開始した場合
初診日から1年6か月経過後になって初めて人工透析を開始した方は、障害認定日は「初診日から1年6か月経過した日」となります。
しかしその障害認定日時点では透析療法を受けておらず、障害状態(2級以上)に該当していないケースがほとんどです。
したがって認定日時点では障害年金の受給権が発生していなかったことになります。
この場合、その後に透析導入となって初めて障害状態となるため、年金の請求は事後重症請求として行うことになります。
つまり請求した時点から将来に向けての年金は受給できますが、過去にさかのぼって受け取ることはできません。
障害認定日当時は権利自体がなかったため、遡及請求の対象にならないためです。
例えば初診日が2010年1月、障害認定日(1年6か月経過日)が2011年7月。
しかし透析開始は2013年1月(初診から3年後)だった場合、2011年7月時点では障害年金の権利が発生せず、2013年に症状悪化して初めて受給権が生じます。
この方が2013年に請求すればその翌月から障害年金を受け取れますが、2013年より前の期間について遡及して年金をもらうことはできません。
以上を表にまとめると次のようになります。
| 人工透析開始のタイミング | 該当する請求方法 | 年金の支給開始時期 | 過去への遡及受給 |
|---|---|---|---|
| 初診日から1年6か月以内に透析開始(障害認定日=透析開始から3か月後) | 障害認定日請求(本来請求) ※請求が遅れた場合は遡及請求 | 障害認定日の翌月分から支給開始 | 可能(最大で過去5年分まで受給) |
| 初診日から1年6か月経過後に透析開始(障害認定日=初診から1年6か月後) | 事後重症請求 | 請求を行った月の翌月分から支給開始 | 不可(認定日時点では権利発生なし) |
このように、人工透析でも条件次第で遡及請求は可能ですが、初診から透析開始までの期間がポイントになります。
早い段階で透析となった場合は権利発生も早く、その権利を後から主張できる余地があります。
一方、透析導入が遅かった場合は過去に権利自体がなかったため、残念ながら遡及して受け取ることはできません。
遡及請求の手続きと注意点
では、人工透析で遡及請求を行う場合、具体的にどのような手続きや書類が必要になるのでしょうか。
また、遡及請求時に注意すべきポイントについて解説します。
請求に必要な書類(診断書)の準備
遡及請求を含む障害年金の請求では、医師の診断書が最も重要な書類になります。
特に遡及請求の場合、過去の障害認定日時点の障害状態を証明する診断書が求められます。
加えて、請求時点の最新の診断書(請求日前3か月以内の現症状について記載されたもの)も提出が必要です。
障害認定日と請求日の間が1年以上離れて認定日請求(遡及)を行う場合、原則として「障害認定日以後3か月以内の現症の診断書」と「請求日以前3か月以内の現症の診断書」の2枚が必要になります。
また、障害認定日から5年以上経過している場合は、請求が遅れた事情を記載する申立書の添付が求められることがあります。
なお、症状固定による認定日請求など例外的な取扱いもあるため、個別事情は年金事務所で確認してください。
したがって、人工透析で遡及請求をするには透析開始後3か月時点(障害認定日特例該当日)前後の主治医の診断書を入手する必要があります。
すでにその時期から年月が経っている場合、当時のカルテ記録や現在の主治医の所見をもとに作成してもらうことになります。
医療機関によってはカルテ保存期間の問題もあるため、できるだけ早く相談し診断書の発行を依頼することが大切です。
なお、ケースによっては現在の診断書1枚のみで遡及請求が認められる場合もあります。
たとえば現在の診断書に透析開始時期や経過が明記されており、それによって障害認定日特例に該当した日が明確に確認できる場合などです。
しかしこれは例外的な取り扱いのため、基本は2通の診断書準備を念頭に進めましょう。
5年の時効
障害年金には法律で時効による受給権消滅期間(時効消滅)が5年と定められています。
簡単に言えば、受給権が発生してから5年以上経過した年金は遡って受け取ることができないということです。
そのため、遡及請求によって受け取れるのは直近5年分までに限定されます。
例えば障害認定日から8年後に請求して認定日時点での権利が認められた場合でも、受け取れるのは過去5年分(3年分は時効消滅)となります。
遡及請求は早めに行うに越したことはありません。
5年を超える未払い期間があると、その超過分は原則受け取れなくなる可能性が高いためです。
その他の注意点
請求のタイミングにも注意が必要です。
65歳の到達
障害年金の新規請求は原則65歳までに行う必要があります。
65歳の年齢制限があるのは主に「事後重症による請求」で、請求書は65歳の誕生日の前々日までに提出する必要があります。
一方、「障害認定日による請求(認定日請求・遡及請求)」は、障害認定日以降であれば請求書を提出できます。
ただし、遡及して受けられる年金は時効により原則5年が上限です。
また、老齢年金と障害年金など、支給事由が異なる年金を複数受けられる状態になった場合は、原則としていずれか一方を選択する仕組みがあります(65歳以後は例外的な組み合わせが認められる場合があります)。
既存受給者
既に事後重症請求で障害年金を受給中の方もいるでしょう。
そのような場合でも、過去にさかのぼって受給できる可能性が残っているなら遡及請求を検討できます。(※『すでに障害年金を受給中ですが、後から遡及請求できますか?』のページで詳しくご説明していますので、ご参照下さい。)
具体的には、「障害認定日時点で実は障害状態に達していたのに当時請求していなかった」というケースです。
後からでも当時の診断書を取得し、その時点で障害等級に該当していたと認められれば、現在受給中の方でも過去の分をまとめて受け取ることができます。
ただしこの場合も5年の時効制限がありますので、受給開始から時間が経ち過ぎていると全額は受け取れません。
まとめ
人工透析による障害年金でも、条件を満たせば遡及請求は可能です。
特に初診日から1年6か月以内に透析導入となった方は、透析開始3か月後の障害認定日に遡って年金を受給できるチャンスがあります。
請求が遅れてしまった場合でも、5年以内であれば未払い分をまとめて受け取れる可能性があります。
一方、透析開始が初診から1年6か月を大きく超えている場合は、認定日時点では権利がなかったため過去に遡ることはできず、請求した時点からの受給となります。
いざ遡及請求する際は、当時の障害状態を証明する診断書の確保や5年の時効期間に注意しましょう。
必要書類を整え適切に手続きすれば、人工透析患者の方も本来受け取れるはずだった障害年金を取り戻すことができます。
悩んだときは専門機関に相談し、権利をしっかりと行使していただきたいと思います。
障害年金の遡及請求に関する説明ページと動画
障害年金の診断書に関しましては『障害年金の遡及請求とは?』のページで詳しくご説明していますので、ご参照下さい。
以下の動画でも遡及請求に関する説明をしていますので、是非ご覧ください。
遡及請求に関するよくある質問
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すでに障害年金を受給中ですが、後から遡及請求できますか?
障害年金の遡及請求と事後重症請求の違いは何ですか?
遡及請求で障害認定日の診断書が入手できない場合はどうすればよいですか?
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