糖尿病が重症化した場合、就労や日常生活に支障をきたし、経済的に困窮して不安が募ることもあります。
こうしたとき、公的年金制度から障害年金が支給されれば、生活の安定につながるかもしれません。
とはいえ、「糖尿病でも障害年金を受給できるの?」「どんな症状なら対象になる?」といった疑問を持つ方も多いでしょう。
本記事では専門家の立場から、糖尿病による障害年金の受給条件や認定基準、申請時の注意点についてやさしく詳しく解説します。
目次
障害年金とはどんな制度?糖尿病も対象になるの?
障害年金とは、病気やけがによって生活や仕事などが制限されるようになった場合に受け取ることができる公的年金です。
高齢者向けの「老齢年金」と異なり、現役世代でも病気や障害で生活が著しく制限されたときに受け取れる社会保障給付です。
糖尿病などの内科疾患による長期療養の場合も、一定の要件を満たせば障害年金の支給対象となります。
障害年金には障害基礎年金(国民年金)と障害厚生年金(厚生年金)の2種類があり、初診日(その病気で初めて医師の診察を受けた日)にどの年金に加入していたかで受給できる種類が決まります。(※初診日に関しましては『初診日とは』のページで詳しくご説明していますので、ご参照下さい。)
初診日に国民年金に加入していた場合は障害基礎年金、厚生年金に加入していた場合は障害厚生年金となります。
さらに障害厚生年金には3級まで支給されるのに対し、障害基礎年金は1級・2級までしかありません。
糖尿病の場合は3級に認定されるケースが多く、その場合初診日時点で厚生年金に加入していた人(=障害厚生年金の該当者)でなければ実際には年金を受け取れない点に注意が必要です。
なお、障害厚生年金に該当する状態より軽い障害が残った場合に、障害手当金(一時金)を受け取れる制度もあります。
障害年金を受給するための基本要件
糖尿病に限らず障害年金を受給するには、まず以下のような共通の要件を満たす必要があります。
- 年金加入要件:初診日に公的年金制度に加入していること(20歳前や60歳以上65歳未満で初診の場合など一部例外あり)。
- 保険料納付要件:初診日の前日時点で、所定期間の年金保険料を納付(または免除)していること。一般には初診日のある月の前々月までの加入期間のうち2/3以上の保険料を納めていることが必要です。(※初診日が令和18年3月末日までのときは、初診日において65歳未満であれば、初診日のある月の前々月までの直近1年間に保険料の未納がなければ納付要件を満たします。)
- 障害状態要件:障害認定日(原則、初診日から1年6か月経過時点)において、公的年金法令で定める障害等級に該当すること。一般に1級は日常生活に全面的な介助が必要な状態、2級は日常生活に著しい制限がある状態、3級は労働に制限が生じる状態が目安です。
以上のように、公的年金に加入して一定の保険料を納め、障害の程度が国の定める基準に該当すれば、障害年金を請求する資格があります。
糖尿病で障害年金を受給する場合も、この基本要件をクリアしたうえで、次に述べる糖尿病特有の認定基準に当てはまる必要があります。
糖尿病で障害年金はもらえるケースとは?
結論から言えば、糖尿病による障害でも障害年金を受給できる可能性があります。
ただしそのためには、糖尿病が原因で日常生活や労働が困難になる程度の障害状態に至っていることが条件です。
糖尿病そのものの診断だけで直ちに年金が支給されるわけではなく、合併症の有無や重症度、治療経過、日常生活への支障度など総合的に判断されます。
具体的には大きく分けて以下の2パターンが考えられます。
【パターン1】必要な治療を行ってもなお血糖コントロールが極めて困難な場合
合併症が顕在化していなくても、インスリン治療など適切な治療を継続しても血糖値のコントロールが著しく困難な一部のケースでは、障害等級3級に該当しうると認定基準で定められています。
これは2016年(平成28年)6月の認定基準改正により追加されたもので、1型糖尿病などで治療しても症状を十分改善できない人を救済する目的があります。
詳細は後述しますが、この場合は初診時に厚生年金に加入していれば障害厚生年金3級として年金支給対象になり得ます(国民年金のみ加入者は3級では支給なし)。
【パターン2】糖尿病の重篤な合併症により障害状態になった場合
糖尿病が原因で生じた様々な合併症(腎不全、失明など視力障害、神経障害による歩行困難、足の壊疽による切断など)が一定の重度に達すると、障害等級1級または2級に該当します。
この場合は初診時の年金種別に関わらず(国民年金加入者でも)障害基礎年金として受給できる可能性があります。
特に人工透析が必要な腎不全や両眼の著しい視力低下などは原則2級以上に認定される典型例です。
上記のとおり、糖尿病患者でも就労や生活に重大な支障を来すレベルであれば障害年金の支給対象となり得ます。
以下では、①治療しても血糖コントロールが困難な場合の詳細な基準と、②主な糖尿病合併症ごとの認定基準についてそれぞれ見ていきましょう。
糖尿病による障害認定基準(等級の目安)
必要な治療を行っても血糖コントロールが困難な場合【3級相当】
検査日より前に、90日以上継続して必要なインスリン治療を行っている糖尿病患者については、一定の要件の下で障害等級3級と認定される可能性があります。(参考:日本年金機構ホームページ『平成28年6月1日から 国民年金・厚生年金保険 「代謝疾患(糖尿病)による障害」 の認定基準を一部改正します』)
具体的には、(1)~(3)のいずれかに該当し、かつ一般状態区分表の「イ」または「ウ」に該当する場合、障害等級3級相当として認定されることがあります。
(1)内因性のインスリン分泌が枯渇している状態で、 空腹時または随時の血清Cペプチド値が0.3ng/mL未満を示すもの
(2)意識障害により自己回復ができない重症低血糖の所見が 平均して月1回以上あるもの
(3)インスリン治療中に糖尿病ケトアシドーシスまたは 高血糖高浸透圧症候群による入院が年1回以上あるもの
上記いずれかに該当し、かつ以下の(イ)または(ウ)に該当することであれば3級が認定される可能性があります。
(イ)軽度の症状があり、肉体労働は制限を受けるが、歩行、軽労働や座業は できるもの 例えば、軽い家事、事務など
(ウ)歩行や身のまわりのことはできるが、時に少し介助が必要なこともあり、 軽労働はできないが、日中の50%以上は起居しているもの
この3級相当の状態が障害認定日の時点であれば、「障害認定日による請求」として請求できます(請求自体は後日でも可能ですが、遡及して受けられる年金は時効により原則5年分が上限です)。
障害認定日時点では該当しなくても、その後悪化して該当した場合は「事後重症による請求」となり、請求日の翌月分から受給開始します。
請求書は原則として65歳の誕生日の前々日までに提出する必要があります。
なお、症状や日常生活状況によっては3級相当のケースでもさらに上位等級(2級や1級)に認定される可能性もあると基準上明記されています。
例えば低血糖発作や合併症により日常生活にも著しい制限が出ている場合などは、2級相当と判断されるケースもあり得ます。
2016年の基準見直し
平成28年改正前は、糖尿病で合併症がない場合は障害年金の対象になりにくい状況でした。
しかし2016年の基準見直しにより、「必要な治療をしても血糖コントロールができないケース」は新たに障害年金の対象として明文化されました。
この改正により1型糖尿病の患者さんなどが合併症を発症していなくても障害厚生年金3級に認定されやすくなっています。
糖尿病の主な合併症による障害認定【1級~2級相当】
糖尿病は長年の高血糖状態によりさまざまな合併症を引き起こすことが知られています。
合併症が原因で一定以上の障害が残った場合、それぞれ該当する障害等級で認定されます。
主な糖尿病合併症と障害年金上の等級の目安は次のとおりです。
| 糖尿病の主な合併症 | 認定の判断基準と障害等級の目安 |
|---|---|
| 糖尿病性腎症(慢性腎不全) *人工透析療法を導入した場合 | 腎臓の障害として認定され、原則2級に該当。 透析中は日常生活に大きな制限が及ぶため、保険料要件を満たせば障害基礎年金2級(+初診時厚生年金なら障害厚生年金2級)受給が可能です。 症状や生活状況によっては1級に認定されるケースもあります。 なお、透析開始が初診日から1年6か月以内の場合は特例として透析開始から3か月経過時点を障害認定日とできます(通常は初診から1年6か月)。 |
| 糖尿病性網膜症 *両眼の視力低下・失明 | 眼の障害として認定されます。 眼の障害は、障害等級表に基づき認定されます。例えば、両眼の視力がそれぞれ0.03以下の場合は障害の程度1級の例示に該当します。 また、2級は別の基準(例:両眼の視力がそれぞれ一定水準以下 等)により判断されます。 糖尿病の合併症(網膜症など)で請求する場合でも、原則として、障害の原因となった傷病について初めて医師(歯科医師)の診療を受けた日(初診日)が基準になります。 |
| 糖尿病性神経障害 *手足の感覚麻痺・激痛、自律神経症状など | 神経系統の障害として認定されます。 たとえば四肢の著明な知覚障害や激しい神経痛により日常生活が著しく制限される場合は2級相当になる可能性があります。 立つ・歩くといった基本動作に介助が必要なレベルなら肢体不自由としての認定も検討され、複合的に判断されます。 軽度の場合は認定非該当となることもあります。 |
| 糖尿病性足壊疽(下肢切断など) | 肢体の障害として認定されます。 足の切断や重度の運動障害が残った場合、義足装着で歩行が可能か、自力での屋外移動ができるか等に応じて2級または1級に認定されます。 例えば片足の膝上での切断の場合は通常2級相当ですが、両足に及ぶ場合や他の合併症も併発する場合は1級も検討されます。 糖尿病の壊疽は進行すると足の切断につながる重篤な合併症であり、この段階では障害年金の支給対象となる可能性が高いです。 |
上記以外にも、糖尿病に関連する心疾患や脳卒中などで後遺症が残れば、それぞれ心臓の障害や精神の障害等の認定基準で等級が判断されます。
重要なのは、糖尿病そのものではなく合併症や後遺症の程度によって等級が決まる点です。
特に代表的な合併症である腎症・網膜症・神経障害については、年金機構の認定基準でも糖尿病に起因する場合の評価方法が明示されています。
該当しそうな症状がある方は、ぜひ一度ご自身の状態が障害年金等級に当てはまるか専門家や年金事務所に確認してみてください。
糖尿病で障害年金を申請する際のポイント
初診日の特定が最重要ポイント
糖尿病で障害年金を申請する上で、もっとも重要かつ難しい作業が「初診日」の特定です。
障害年金では初診日を証明できなければ請求そのものが成立しません。
通常は初めて糖尿病と診断された医療機関のカルテを基に、その病院で受診状況等証明書という書類を書いてもらい初診日を証明します。
しかし糖尿病の場合、発症から障害認定基準に該当する状態になるまで長い年月が経つことが多く、初診の病院が廃業していたりカルテが廃棄されていたりして初診日が証明できないケースが少なくありません。
特に合併症で申請する場合、初診日は合併症の初診日ではなく糖尿病本体の初診日になる点に注意が必要です。
例えば20年前に糖尿病と診断され、その後最近になって人工透析が始まったケースでは、20年前の糖尿病と診断された日の証明が必要になります。年月が経つほどカルテ破棄のリスクも高まるため、自力で初診日を突き止めるのが難しいこともあります。
対処法
初診日の記録が取れない場合でも、「受診状況等証明書が添付できない申立書」という書面を提出し代替手段で認めてもらう方法があります。
具体的には、当時の診療券やお薬手帳、糖尿病手帳、健康診断の記録、処方箋やレセプトなど手がかりになる資料を集めて初診日を推定し申立書に記載します。
また、糖尿病の場合は長期間血糖値が安定して社会的に問題なく過ごせた期間があると「社会的治癒」とみなされ、新たな発症として初診日をやり直せる場合もあります。(※社会的治癒に関しましては『社会的治癒とは』のページで詳しくご説明していますので、ご参照下さい。)
社会的治癒が認められれば、最初の発症から何年も経っていても再発後の初診日を起点に障害年金を申請できる可能性があります。
このように諦めず工夫することで初診日を特定できるケースもありますので、専門家と相談しながら証拠集めを進めましょう。
医師と相談し、適切な診断書を書いてもらおう
障害年金の審査では医師の診断書が極めて重要な役割を果たします。
特に糖尿病の場合、診断書に認定基準に沿った詳細な記載があるかが受給可否の分かれ目になることが多いです。
主治医には以下のポイントを相談してみましょう。
現在の症状や検査値を具体的に
日常生活の困難さ(例:低血糖で倒れて救急搬送された頻度、視力低下で読み書き困難など)や最新の検査結果(血糖値の変動、合併症の所見)を詳細に伝え、診断書に反映してもらいます。
例えば「重症低血糖で月1回意識消失している」など具体的な記載があると認定側も判断しやすくなります。
認定基準を共有する
医師が障害年金の認定基準を必ずしも熟知しているとは限らないため、該当しそうな認定基準の項目(先述のCペプチド値や低血糖発作の頻度、透析開始日など)を患者側から伝えることも有効です。
年金機構の資料や専門家がまとめた情報を見せながら、どのポイントが重要か医師と共有しましょう。
診断書の作成は早めに依頼
診断書は原則として、障害認定日より3か月以内の現症のものが必要です。 (参考:日本年金機構ホームページ『障害基礎年金を受けられるとき』)
ただし、障害認定日と年金請求日が1年以上離れている場合は、これに加えて直近の診断書(年金請求日前3か月以内の現症)も必要になります。
主治医が変わっていたり転院している場合、それぞれの時点の担当医に書いてもらう必要があるため早めに準備を始めましょう。
特に初診から長期間経っている場合、当時の主治医に書いてもらえないケースもありますので、その際は現在の主治医に経過を推定して記載してもらう方法なども検討します。
社労士など専門家への相談も検討を
糖尿病による障害年金の申請は、初診日の調査や大量の書類準備など手続きが複雑になりがちです。
仕事や治療と並行して申請準備を進めるのが難しい場合は、社会保険労務士(社労士)など障害年金専門の相談先に頼るのも一つの方法です。
社労士は年金制度のエキスパートであり、糖尿病のケースでも初診日の特定方法や書類の書き方について豊富な知識があります。
実際、「自分は該当しない」と思い込んで諦めていた人が専門家に依頼して受給できたケースも多く報告されています。
相談自体は無料で行っている窓口もありますので、少しでも受給の可能性を感じたら一度プロに相談してみると良いでしょう。
まとめ
糖尿病患者にとって、障害年金は治療費や生活費の経済的支えとなり得る重要な制度です。ポイントを整理すると次のようになります。
- 障害年金は糖尿病でも受給可能:ただし障害の程度が年金の定める等級(原則3級以上)に該当する必要があります。特に合併症がなくても血糖コントロール困難なケースでは3級、重篤な合併症による障害状態では2級以上の可能性があります。
- 厚生年金加入者は3級も対象:糖尿病は3級認定例が多いため、初診日が厚生年金か国民年金かで受給可否が分かれます。初診時に会社員等で厚生年金に加入していた方は3級でも支給対象となり得ます。
- 初診日の証明と診断書がカギ:長期間にわたる糖尿病では初診日の特定が最大のハードルです。古いカルテや資料を探し、どうしても無ければ申立書で代用しましょう。また医師の診断書には認定基準に沿った情報を網羅してもらうことが重要です。
- 困ったら専門家に相談を:手続きや書類準備に不安があれば、社労士や年金事務所の相談窓口を積極的に利用しましょう。早めに行動することで時効(支給権は5年で時効消滅)にも間に合います。ダメ元でも構わないので、該当しそうと思ったらまずは行動を起こすことが大切です。
糖尿病は慢性疾患であり、障害年金の請求には時間と手間がかかる場合があります。
しかし、本記事で解説したように条件を満たせば受給できる可能性は十分あります。
ご自身やご家族の症状が該当しそうな場合は、ぜひ障害年金の制度を前向きに活用することをご検討ください。
不明点があれば年金事務所や専門家への相談を通じて、一人で抱え込まず解決への第一歩を踏み出しましょう。
今回の解説が、糖尿病で障害年金の申請を検討されている方のお役に立てば幸いです。

