てんかんで障害年金の遡及請求はできますか?

結論から言うと、一定の要件を満たしていれば、てんかんによる遡及請求(過去にさかのぼって障害年金を受け取ること)は可能です。

ポイントは、初診日から1年6か月後の障害認定日という基準日において、すでに障害年金の支給対象となる程度の障害状態だったかどうかです。

その条件を満たしていれば、たとえ請求が遅れた場合でも障害認定日まで年金をさかのぼって受給する道があります。

ただし、実際に受け取れる遡及分は直近5年分が限度であり(年金の時効による)、それより前の期間については受け取れません。

この回答では、てんかんで障害年金を受給できる条件と、遡及請求の仕組み・注意点についてわかりやすくご説明したいと思います。

てんかんによる障害年金の受給要件(等級の目安)

まず、てんかんで障害年金を受給できる状態とはどのような場合かを押さえておきましょう。

てんかんによる障害年金の等級は、厚生労働省が定める「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」に基づき判断されます。

認定は、発作の重症度・頻度に加えて、発作間欠期の精神神経症状や認知障害により日常生活動作がどの程度損なわれ、社会生活でどのような不利益が生じているかといった点も重視して、総合的に行われます。

なお、抗てんかん薬の服用や外科的治療で発作が抑制される場合は原則として認定対象になりません(ただし、間欠期症状等を含めた全体像で判断されます)。

障害年金では障害の程度に応じて1級・2級・3級(障害基礎年金は1級・2級、厚生年金加入者は1〜3級)の等級が定められており、てんかんの場合の認定基準は厚生労働省のガイドラインで次のように示されています。

  • 1級: 抗てんかん薬など十分な治療にもかかわらず、重い発作(※AまたはBのタイプ)が月に1回以上あり、かつ常時介助が必要な状態。
  • 2級: 十分な治療にもかかわらず、重い発作(AまたはB)が年に2回以上、もしくは比較的軽い発作(※CまたはDのタイプ)が月に1回以上あり、日常生活に著しい制限が生じる状態。
  • 3級(厚生年金のみ): 十分な治療にもかかわらず、重い発作(AまたはB)が年に2回未満、もしくは軽い発作(CまたはD)が月に1回未満ある程度で、労働に制限を受ける状態。

※発作のタイプ例:【A】意識障害を伴い状況にそぐわない行為を示す発作、【B】意識の有無に関わらず転倒する発作、【C】意識を失い倒れはしないが行為が止まる発作、【D】意識障害はないが自分の意思で動けなくなる発作。

以上のように、発作の頻度や重さ、および日常生活や仕事への支障の程度が等級判定のポイントになります。

たとえば、多くの方が目安にされる2級は「重い発作が年2回以上」または「軽い発作が月1回以上」起きており、発作間欠期を含め日常生活に大きな支障がある場合に該当します。

1級はさらに状態が重く常時の介助が必要なケース、3級は厚生年金加入者の場合に限られ日常生活はある程度自立していても労働に支障があるケースです。

※20歳前の傷病を除き、障害年金は「初診日要件」「障害状態要件」に加えて、初診日の前日に保険料納付要件(納付済・免除等が一定割合あること等)を満たす必要があります。

注意

抗てんかん薬の服用や手術によって発作がほぼ抑えられている場合は、原則として障害年金の認定の対象になりません。発作が長期間起きておらず日常生活に大きな制限がない方は、残念ながら障害年金の等級に該当しない可能性が高いです。逆に、薬を服用しても発作が頻繁に起き生活に支障が出ているような場合は、等級に該当する可能性があります。

障害認定日と請求方法の基礎知識

上記のような障害状態に該当しているかどうかを判断する基準となるのが障害認定日です。

障害認定日とは、障害の状態を定める日のことで、原則として初診日から1年6か月を過ぎた日、または1年6か月以内にその傷病が治った場合(症状が固定した場合)はその日をいいます。(※障害認定日に関しましては『障害認定日とは』のページで詳しくご説明していますので、ご参照ください。)

例えば、2024年4月1日にてんかんで初診を受けた場合、その1年6か月後である2025年10月1日が障害認定日となります。

この日にどの程度の障害の状態だったかで、障害年金の等級に該当するかどうかが判断される重要な節目となります。

なお、傷病によっては人工透析開始から3か月を経過した日など、別途「障害認定日」となる日が定められているものもありますが、てんかんの場合は原則として初診から1年6か月経過時点が障害認定日になります。

また、てんかんの発症年齢が20歳未満であった場合(後述する「20歳前傷病」に該当)は少し特例があり、障害認定日が20歳前でも実際の年金支給は20歳到達後から開始されます。この点については後で詳しく触れます。

障害年金の請求には大きく分けて「認定日による請求」と「事後重症による請求」の2種類があります。

読んで字のごとく、障害認定日時点の状態で請求する方法と、障害認定日より後に症状が悪化してから請求する方法です。

それぞれの違いをまとめると次のようになります。

請求方法概要支給開始時期遡及(さかのぼり)について
認定日による請求
(本来請求)
初診日から1年6か月後の障害認定日時点で障害等級に該当している場合に行う請求方法です。障害認定日に作成した診断書などを添えて請求します。原則として障害認定日の翌月分から年金が支給開始となります。認定日から時間が経って請求が遅れた場合は遡及請求となり、障害認定日までさかのぼって年金を受け取ることも可能です。ただし受け取れるのは最大5年分まで(時効)です。
事後重症による請求障害認定日時点では等級に該当せず、その後症状が悪化して障害等級に達した場合に行う請求方法です。現在の症状で診断書を作成し請求します。請求した日の翌月分から年金が支給開始となります。認定日時点では受給権がなかったため、過去にさかのぼることはできません。支給は請求の翌月以降のみとなります。

※事後重症による請求は、請求書を「65歳の誕生日の前々日まで」に提出する必要があります。

表のとおり、障害認定日時点で受給要件を満たしていたかどうかが、遡及できるか(支給開始をさかのぼれるか)の分かれ目になります。

てんかんの場合、障害認定日(初診から1年6か月後)に前述した障害等級の状態にあったのであれば「認定日による請求」が可能であり、仮にその時点で請求を出しそびれていても後から請求して障害認定日までさかのぼって年金を受け取れる可能性があります。

一方、障害認定日には等級に該当していなかったがその後悪化して現在は該当する、という場合は「事後重症請求」となり、残念ながら過去に遡っての受給はできず請求した時点からの支給に限られます。

遡及請求を行うための条件と注意点

それでは、遡及請求を行うための条件と注意点をご説明します。

診断書

てんかんで遡及請求をするための主な条件は、「障害認定日当時に障害年金の等級に該当する状態であったこと」です。

これを証明するため、医師の診断書など当時の障害状態を裏付ける資料の提出が必要になります。

具体的には、障害認定日から3か月以内における症状の診断書(現症日付が障害認定日に近いもの)を用意することが求められます。

障害認定日から1年以上経過して請求する場合は、認定日当時の診断書に加えて、直近の診断書(年金請求日前3か月以内の現症のもの)も併せて必要となります。

これは、過去と現在の両時点で障害の状態に該当していることを確認するためです。

遡及請求の手続きの流れとしては、現在お住まいの市区町村役所や年金事務所で障害年金の請求手続きを行う際に、「障害認定日による請求」を申し出て必要書類を提出する形になります(年金事務所や専門家に相談すると「遡及請求」と言えば話が通じます)。

書類審査において、障害認定日時点の診断書により当時すでに障害等級に該当していたことが認められれば、障害認定日の翌月までさかのぼって年金支給が決定されます。

また、診断書の入手については実務上のハードルになることがあります。

障害認定日当時に受診していた医療機関でカルテ(診療記録)が残っていない場合、当時の状態を記載した診断書を書いてもらうことが難しくなる可能性があります。

診療録は法令上、5年間保存しなければならないとされています(最低保存期間)。(参考:厚生労働省ホームページ『診療録等の保存を行う場所について〔医療法〕』)

ただし医療機関の運用により保存年限は異なり、保存期間経過後に廃棄されていて入手できない場合もあります。

初診日の証明が必要なときは、早めに医療機関へ確認することが重要です。

当時のカルテがない場合でも、主治医が記憶や他の記録をもとに作成してくれるケースや、別の資料(例:障害者手帳取得時の診断書コピー等)で代用できるケースもあります。

いずれにせよ、障害認定日時点の証拠資料を用意できるかが遡及請求成功のカギになります。

時効

注意すべき重要なポイントは、冒頭でも触れた年金の時効(5年)です。

請求そのものは障害認定日以降であれば何年経過後でも可能とされていますが、実際に受け取れる年金は原則直近5年分が限度と法律で定められています。

日本年金機構も公式に「請求書は障害認定日以降、いつでも提出できますが、遡及して受けられる年金は、時効により、5年分が限度です。」と案内しています。(参考:日本年金機構ホームページ『障害基礎年金の受給要件・請求時期・年金額』)

例えば、障害認定日が2010年であった場合に2026年に遡及請求が認められても、支給されるのは過去5年(2021年〜2025年分)までであり、それより前の2010〜2020年分は時効によって支給されません。

したがって、できるだけ早めに請求手続きを行うことが大切です。

20歳前に発症した場合の特例と留意点

てんかんは小児期・青年期に発症する例も多くあります。

このように初診日が20歳未満だった場合、その傷病による障害年金は「20歳前傷病による障害基礎年金」と位置づけられます。(※20歳前表病に関しましては『20歳前障害年金とは』のページで詳しくご説明していますので、ご参照ください。)

20歳前傷病の場合、支給されるのは国民年金の障害基礎年金(1級または2級)であり、実際の年金支給開始は20歳に達した後となります。

たとえば中学生でてんかんを発症し、高校生のうちに障害認定日を迎えた場合でも、20歳になった月の翌月分から支給開始となる決まりです。

20歳前傷病のケースでも、基本的な遡及請求の考え方は上記と同じです。

障害認定日(多くの場合は20歳前後)に障害等級に該当していれば、20歳を過ぎてから請求することでさかのぼった障害基礎年金を受け取ることが可能です。

例えば、本来20歳で請求すれば受給できたものを、情報不足などで30歳で請求した場合でも、直近5年分(25歳〜29歳分)までの年金を遡及受給できる可能性があります。

ただしこの場合も、5年より前の分(20〜24歳の分)は時効で受け取れませんのでご注意ください。

さらに、20歳前傷病による障害基礎年金には所得による支給制限という独自のルールがあります。

これは受給者本人の前年所得が一定額を超えると、その年の年金が半額または全額停止される制度です。

具体的には、毎年8月に前年の所得額をもとに判定が行われ、一定基準以上の所得がある場合は当該年度(10月〜翌年9月)の年金が支給停止(全部または1/2)となります。

そのため、遡及請求が認められた場合でも、該当期間中に所得制限に引っかかる年があればその年の分の年金は支給されないか減額される可能性があります。

例えば、過去5年分を遡及受給できると決定された場合でも、そのうち高収入だった年が含まれていれば、その年の分は支給停止となり満額は受け取れません。

この点も併せて頭に入れておきましょう。

まとめ

てんかんによる障害年金の遡及請求は可能であり、実際に過去にさかのぼって受給できたケースも少なくありません。

ポイントは障害認定日時点で障害年金の等級に該当していたことを証明することです。

そのために当時の診断書など証拠書類を準備できれば、現在すでに年金を受給中の方でも「認定日請求」に切り替えて過去の分を受け取れる余地があります。

ただし、繰り返しになりますが遡及できるのは原則5年分までですので、一日でも早く動いた方が有利です。

請求の時期が遅れるほど受給できない期間が増えてしまいます。

障害年金の制度は複雑ですが、公的な制度に基づいて正当な権利を受け取るためにも、「もしかして自分も該当するかも?」と思ったら早めに情報収集や手続きを開始することをおすすめします。

疑問や不安がある場合は、日本年金機構の窓口や専門家に確認しながら進めると安心です。適切に手続きを行い、受給権があればしっかりと権利を行使しましょう。

※障害年金をさかのぼってする請求(遡及請求)に関しましては『障害年金の遡及請求とは|はじめての人にも分かりやすく解説します』のページで詳しくご説明していますので、ご参照ください。

障害年金の遡及請求とは

障害年金の遡及請求に関する説明ページと動画

障害年金の診断書に関しましては『障害年金の遡及請求とは?』のページで詳しくご説明していますので、ご参照下さい。

以下の動画でも遡及請求に関する説明をしていますので、是非ご覧ください。

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