
はじめに
人工関節置換術(人工関節の手術)を受けると、大きな手術で体内に人工物が入るため「障害者手帳は当然もらえるだろう」と思われがちです。
しかし実際には一定の条件と手続きを満たさなければ、障害者手帳の交付は受けられません。
本記事では、人工関節と障害者手帳についてわかりやすくご説明したいと思います。
障害者手帳とは何か?身体障害者手帳の制度概要
障害者手帳とは、一定の障害を持つ方が各種支援を受けるために自治体から交付される手帳です。
種類は大きく分けて、身体障害者手帳・精神障害者保健福祉手帳・療育手帳の3つがあります。
本記事で扱う人工関節による障害は、主に身体障害者手帳(肢体不自由)に該当します。(※参考:厚生労働省ホームページ『身体障害者手帳』)
身体障害者手帳では、障害の程度に応じて最も重い1級から軽度の7級まで等級(障害等級)が定められています。(※参考:厚生労働省ホームページ『身体障害者障害程度等級表(身体障害者福祉法施行規則別表第5号)』)
番号が若いほど重度の障害で、手厚い支援やサービスを受けられます。
身体障害者手帳の等級は1級〜7級まで定められていますが、手帳の交付対象は原則として1級〜6級です。
7級は単独では交付対象外となります。
7級が設定されている理由は、複数の障害が重複する場合に等級を繰り上げるためです。
例えば、肢体不自由では7級に該当する障害が2つ以上重複する場合、6級として扱われるため、手帳交付の対象となることがあります。
なお、身体障害者手帳の取得は任意であり、申請しなければ交付されません。
障害があっても本人が手帳の必要を感じなければ申請は不要です。
しかし、交付を受けることでさまざまな支援策が利用可能になるため、生活上の不便や負担を軽減できる場合は取得を検討すると良いでしょう。
障害者手帳を取得するメリット・受けられる支援
障害者手帳を持つと、税金の控除や公共料金・交通機関料金の割引、福祉サービスなど幅広い支援を受けることができます。支援内容は自治体や障害等級によって異なりますが、主なメリットを以下に紹介します。
- 税金の控除・減免:障害者控除により、所得税や住民税の課税額が軽減されます。たとえば一般の障害者(等級3~6級)は所得税で年間27万円、住民税で26万円の控除、特別障害者(等級1~2級)は所得税40万円、住民税30万円の控除が受けられます。また、自動車関連では、要件を満たす場合に 自動車税(種別割)・軽自動車税(種別割) や、取得時の 環境性能割 について減免が受けられることがあります(対象要件・申請先は自治体/都道府県で異なるため要確認)。
- 現金給付・医療助成:障害の程度が重い場合、特別障害者手当(在宅で、日常生活において常時特別の介護を必要とする20歳以上の方などが対象/所得制限あり)を受給できることがあります。手当月額は改定されるため年度により異なりますが、令和7年度(2025年4月~2026年3月)は月額29,590円、令和8年度(2026年4月~)は月額30,450円とされています。自治体によっては、重度障害者医療費助成制度があり、等級1~2級程度の方を対象に医療費の自己負担分を公費補助する場合もあります。
- 公共料金・交通機関の割引:障害者手帳を提示すると、鉄道・バス等の公共交通機関運賃の割引が受けられます。また、NHK受信料の免除(一定の条件下)や、携帯電話料金の割引プラン適用、水道料金や電気料金の減免など、各種公共料金で優遇措置があります(詳細は各事業者・自治体に確認)。
- 就労支援(障害者雇用枠の活用):障害者手帳を持つことで、企業の障害者雇用枠で働くことが可能になります。障害者雇用枠では、業務内容や勤務時間の配慮(短時間勤務、通院のための休暇取得、負担の大きい作業の免除等)を受けやすく、障害を理由に選考で不利にならないメリットがあります。人工関節の術後、関節への負担を考慮した勤務調整なども期待できるでしょう。
- 生活の福祉サービス:障害の程度に応じ、訪問介護やデイサービスなど在宅生活を支援するサービスの利用、住宅改造費の補助、公共の障害者向け住宅への優先入居などの支援も受けられる場合があります。例えば、重度の身体障害者(1~2級)には訪問看護サービスや緊急通報システム設置の支援、軽度でも福祉用具の給付や在宅リハビリ支援などが用意されていることがあります。
※支援内容や適用範囲は自治体によって異なります。手帳取得後は、お住まいの市区町村の障害福祉課などで具体的なサービス内容を確認しましょう。
人工関節置換術後に障害者手帳はもらえる?認定基準の考え方
結論から言うと、人工関節の手術を受けても必ずしも障害者手帳が交付されるとは限りません。
手術によって関節の痛みや機能が改善し、日常生活に大きな支障がなくなるケースも多いため、現行制度では術後の残存障害の程度に基づいてケースバイケースで認定が行われます。
人工関節を入れたという事実だけでは交付対象とならず、人工関節置換後にどの程度関節機能が制限されたかがポイントになります。
かつては、人工関節等の置換がある場合に等級が一律に扱われる運用がありましたが、現在は(少なくとも股関節・膝関節・足関節について)術後の残存機能(可動域・筋力・動揺性など)に基づき、4級/5級/6級/7級相当/非該当といった形で個別に判断されます。
言い換えれば、人工関節に置き換えたことで関節が十分に動かないなど一定の障害が残った場合のみ障害者手帳が交付され、障害が軽微で日常生活にほぼ支障がなければ手帳交付の対象外となるということです。
特に注意したいのは、「7級」と判定されたケースです。
前述のとおり7級単独では手帳が出ないため、人工関節術後の障害が7級相当(軽度の障害)にとどまる場合、身体障害者手帳は交付されません。
例えば人工関節置換術後にわずかに足を引きずる程度の障害(軽い跛行)が残ったケースでは、等級は7級と認定されますが、他に障害がなければ手帳は交付されず優遇措置は受けられないことになります。
以上を踏まえ、次章から具体的に人工関節を置換した各関節ごとの障害等級認定基準を見ていきましょう。
ご自身の症状がどの程度に当てはまるかを把握することで、手帳取得の可能性を判断する参考になります。
股関節の障害等級認定基準
股関節(脚の付け根の関節)に人工関節を置換した場合の障害認定基準は、残存する可動域や筋力に応じて定められています。
最も重い障害から軽度の障害まで、おおむね次のような基準があります。
| 障害等級 | 認定基準の目安(股関節) |
|---|---|
| 4級(機能全廃) | 股関節の機能が完全になくなった状態。 関節可動域が全方向で10度以下、徒手筋力テスト(MMT)2以下等。 歩行が困難で、自力ではほとんど脚を動かせないレベルです。 |
| 5級(著しい障害) | 股関節の機能に著しい障害が残る状態。 関節可動域が30度以下、徒手筋力テストで3程度(自力で動かすのがやっと)。 杖や支えがないと長距離の歩行が難しいレベルです。 |
| 7級相当(軽度の障害) | 股関節の障害が比較的軽い状態。 例えば軽い跛行が見られる程度など。関節可動域や筋力はある程度残っています。 この場合は7級単独では手帳交付対象外であり、他に障害がなければ手帳は交付されません。 |
股関節の機能が全廃に近い4級では、関節がほぼ動かず筋力も著しく低下しているため、歩行や立位保持が極めて困難です。
一方、5級はそこまでではないものの可動域が狭く筋力低下もあるため、長時間の歩行や動作に支障が出ます。
7級相当はわずかな跛行など軽い障害ですが、先述の通り手帳交付には至らない点に注意してください。
膝関節の障害等級認定基準
膝関節(ひざ)に人工関節を置換した場合も、股関節と同様に術後の機能制限の程度で等級が分かれます。
膝は歩行に直接影響する重要な関節ですので、わずかな可動域制限でも日常生活に支障を来たすことがあります。
認定基準の目安をまとめます。
| 障害等級 | 認定基準の目安(膝関節) |
|---|---|
| 4級(機能全廃) | 膝関節の機能が完全に失われた状態。 【関節可動域10度以下】【筋力テスト2以下】、かつ高度の動揺関節(関節のぐらつき)や関節の高度変形を伴う場合。 自力歩行がほぼ不可能な状態です。 |
| 5級(著しい障害) | 膝関節の機能に著しい障害が残る状態。 【関節可動域30度以下】【筋力テスト3程度】、中等度の動揺関節を伴う場合などが該当します。 歩行はできても膝が十分曲がらず、杖の使用や休憩なしでは長距離歩行が困難です。 |
| 7級相当(軽度の障害) | 膝関節の障害が比較的軽い状態。 【関節可動域90度以下】【筋力テスト4程度】または2km以上続けて歩けない程度の筋力低下が該当します。 日常生活で長時間歩いたり階段昇降を繰り返したりするのに支障を感じるレベルですが、7級単独では手帳交付対象外です。 |
膝関節についても、4級では関節がほとんど曲がらず不安定なため、歩行や立位維持は非常に困難です。
5級ではある程度曲げ伸ばしは可能でも可動域が狭く力も入らないため、正座や階段の昇り降りが著しく困難になります。
7級相当は膝が90度程度までしか曲がらない、長距離を続けて歩けない等の軽度障害です。
なお両膝に軽度の障害がある場合、それぞれ7級相当と認定されれば併合して6級に繰り上がり手帳交付の対象となります(例:左右の膝がどちらも可動域制限90度以下で筋力低下がある場合など)。
足関節(足首)の障害等級認定基準
足関節にも認定基準はあり、術後の残存機能に応じて5級・6級・7級相当または非該当となります。
なお、7級相当は単独では手帳交付の対象外ですが、肢体不自由では7級に該当する障害が2つ以上重複すると6級として扱われ、交付対象となる場合があります(例:両足関節が同程度の障害など)。
| 障害等級 | 認定基準の目安(足関節) |
|---|---|
| 5級(機能全廃) | 足関節の機能が完全に失われた状態。 関節可動域が5度以内、筋力テスト2以下で、足首の高度な不安定性や高度変形が認められる場合が該当します。 足首がほとんど動かず、歩行時に足関節の働きが期待できない状態です。 |
| 6級(著しい障害) | 足関節の機能に著しい障害が残る状態。 関節可動域が10度以内、筋力テスト3程度、中等度の関節不安定性を伴う場合に該当します。 足首を大きく曲げ伸ばしできず、長時間立ち続けたり正座・あぐらが困難になります。 |
| 7級相当(軽度の障害) | 足関節の障害が比較的軽い状態。 例えば2km以上続けて歩けない、1時間以上立っていられない、正座やあぐらをかくのができない等が該当するケースです。 片足首がこの程度の障害だと7級相当ですが、単独では手帳対象外です。 ただし両足首に同程度の障害がある場合はそれぞれ7級となり、併合で6級に繰り上げられるため手帳交付が可能です。 |
肩関節・肘関節の場合は障害者手帳の対象になる?
人工関節置換術は肩関節や肘関節にも行われます。
肩関節・肘関節についても、身体障害者手帳の等級表には上肢の関節機能障害として項目があり、術後に残る機能障害(可動域・筋力・動揺性など)の程度により等級が判断されます。
ただし、軽度の場合は7級相当(単独では交付対象外)や非該当となることもあり、交付可否は個別の状態によります。
実際、肩関節や肘関節の人工関節置換後に残る障害は、日常生活動作に支障があっても片腕だけであれば等級が7級相当にとどまるケースが多く、手帳交付には至りません。
例えば肩関節の可動域が大幅に制限され腕が上がらない場合でも、肘や手首が動けば腕全体としてはある程度機能するため、「片腕の機能喪失(3級)」などの重い認定基準には該当しにくいのです。
ただし、肩・肘の障害が重度で腕全体の機能が著しく制限されれば、他の部位の障害と合わせて上位等級(1~3級)に認定される可能性はあります。
例えば「片腕がほとんど使えない」(片上肢機能全廃相当)と判断されれば2級または3級として手帳の対象となります。
しかし人工肩関節・肘関節の手術後、そこまでの障害が残るケースは稀であり、多くの場合は手帳交付の条件に満たないのが実情です。
人工関節置換術後に障害者手帳の交付が受けられるかどうかは、関節の種類と術後の障害の程度によって大きく異なります。
膝・股関節は比較的認定基準が整備されており、機能障害が重ければ4級や5級で手帳取得が可能です。
一方で肩・肘関節は明確な基準がなく、単独では対象外となりがちです。
足関節も単独では手帳にならないケースが多いです。ご自身の症状が手帳の等級に当てはまるか微妙な場合は、主治医や自治体の障害福祉窓口、専門家に相談してみると良いでしょう。
障害者手帳の申請手続き(必要書類と流れ)
障害者手帳を取得するには、お住まいの自治体に申請して交付を受ける必要があります。ここでは、申請のための一般的な手続きと必要書類について解説します。
●申請先: 本人の住民票がある市区町村の障害福祉担当窓口(市役所・区役所の福祉課など)に申請します。自治体によって窓口名称が「障害福祉課」「福祉事務所」等異なる場合がありますが、問い合わせれば案内してもらえます。
●必要書類: 障害者手帳の申請時には、以下の書類を提出します(自治体により多少異なる場合があります)。
- 身体障害者手帳交付申請書(窓口で入手、または自治体HPからダウンロード)
- 医師の診断書・意見書(身体障害者福祉法指定の様式) – 障害の種類ごとに指定医による診断書が必要です。人工関節の場合、肢体不自由用の診断書を担当医に作成してもらいます。自治体によっては所定の用紙があります。
- 顔写真(タテ4cm×ヨコ3cm程度) – 申請者本人の最近撮影した証明写真。
- 本人確認書類(運転免許証、マイナンバーカード等)
- 印鑑(認印で可)
- 個人番号(マイナンバー)の確認書類(申請書に番号を記入する場合など)
各自治体で必要書類や写真サイズが異なることもあるため、事前に市区町村の案内を確認しておきましょう。
●申請の流れ: 手帳取得までのおおまかな手順は次の通りです。
- 主治医に相談し、診断書を作成してもらう。 障害の状態が手術後しばらく経って安定した段階で、主治医に障害者手帳用の診断書作成を依頼します。指定の用紙がある場合は取り寄せて持参しましょう。指定医であれば初診から相談しておくとスムーズです。
- 市区町村の窓口へ申請書類を提出する。 主治医から受け取った診断書・意見書と、前述の必要書類一式を持って役所の障害福祉窓口に行き、申請手続きを行います。郵送申請が可能な自治体もあります。身体が不自由で窓口に行くのが難しい場合、代理人による申請も可能です(委任状と代理人の本人確認書類が必要)。
- 審査・判定:提出された書類は自治体から専門の審査機関に送られ、障害等級の判定が行われます。医師の診断書記載内容に基づき、障害等級表との照合や専門医の意見を経て認定等級が決定されます。
- 結果通知・手帳交付:審査が完了すると自治体から申請者宛に認定結果の通知が届きます。認定された場合は障害等級が記載された手帳が交付され、指定の窓口で受け取ります(郵送交付の自治体もあり)。申請から交付までの期間は通常2~3か月程度ですが、診断書の作成状況や審査機関の混雑状況によってはさらに時間がかかることもあります。余裕をもって早めに手続きすることをお勧めします。
まとめ

人工関節を置換した方にとって、障害者手帳は各種支援サービスを受ける鍵となる重要な制度です。
近年の認定基準の変更により、手術を受けた全員が手帳をもらえるわけではなくなっていますが、関節の可動域制限や筋力低下など日常生活に影響が残る場合には取得のチャンスがあります。
本記事で解説した等級認定のポイントを参考に、ご自身の状態が該当しそうか判断してみてください。
該当する可能性があるなら、主治医や自治体窓口に早めに相談し、必要な手続きを進めましょう。
手帳の取得によって税金や医療費の負担軽減、生活支援サービスの利用、就労支援など多くのメリットが得られます。
あなたの障害が少しでも生活の負担にならないよう、制度を上手に活用していきましょう。
わくわく社会保険労務士法人


