
知的障害のお子さんをお持ちの親御さんにとって、お子さんの将来の仕事は大きな不安だと思います。
この記事では、療育手帳B2(軽度の知的障害)を持つ人は、どのような仕事に就けるのか、どんな支援制度を利用できるのかをご紹介します。
療育手帳B2とは何かという基本から、具体的な就職先の選択肢、利用できる支援サービス、向いている仕事の種類、就職活動の進め方まで、わかりやすく解説したいと思います。
療育手帳B2とは?軽度知的障害の判定区分
まず「療育手帳B2」とは何かを確認しましょう。
療育手帳は知的障害がある方に交付される障害者手帳で、障害の程度に応じて等級区分があります。
多くの自治体ではA(重度)とB(それ以外)に分かれ、さらに細かくB1(中度)とB2(軽度)に分ける場合もあります。
B2判定は知的障害の中でも最も軽い「軽度」にあたり、一般的にIQがおおよそ51~75程度の方が該当します。
B2の方は日常生活はほぼ一人で自立して営むことができ、情緒面の著しい問題行動や特別な医療的ケアは必要としないとされています。
以下は療育手帳の判定区分(例:兵庫県)の一例です。自治体によって呼び方や判定基準に差異はありますが、概ね似た区分となっています。
| 判定区分 | 知能指数(目安) | 日常生活や支援の目安(例) |
|---|---|---|
| A(重度) | IQ35以下 (A1/A2等) | 食事・排泄など日常生活に介助が必要。 問題行動や他の重複障害を伴う場合も。 |
| B1(中度) | IQ36~50程度 | 身のまわりのことは概ね自分でできるが不完全で指示が必要。 情緒・行動面で注意が必要。 |
| B2(軽度) | IQ51~75程度 | 日常生活は自立可能。 情緒面の特別な配慮は不要で健康状態も良好。 |
※自治体により判定基準が多少異なる場合がありますが、B2は一般に「軽度知的障害」に分類されます。
学習面では読み書き計算などが苦手だったり、理解や判断に時間がかかるといった傾向がありますが、基本的な生活習慣は身についているレベルです。
療育手帳B2の人が直面する就職への不安
療育手帳B2を持つお子さんの就職について、親御さんは様々な不安を感じるでしょう。
「一般の企業でちゃんと働いていけるのか」「周囲に迷惑をかけないか」「どんな仕事が向いているのか」など、悩みは尽きません。
軽度とはいえ知的障害があると、仕事上で困難を感じやすい場面もあります。
例えば「初めての作業を覚えるのに時間がかかる」「臨機応変な対応が苦手」「一度に複数のことを頼まれると混乱しやすい」「コミュニケーションの行き違いが起こりやすい」等が挙げられます。
特に周囲の理解がない職場だと、失敗が重なって自信を失い、二次的にうつ病や不安障害を発症してしまうケースも指摘されています。
しかし一方で、適切な支援や配慮があれば能力を発揮できる場面も多いのです。
知的障害のある方は一度覚えた作業を繰り返し行うことで着実に身につけていく傾向があります。また「教えられた手順やルールを忠実に守る」「几帳面でミスを減らす」といった強みも指摘されています。
実際、ある企業では療育手帳B2の女性を採用し、紙書類のスキャニングや保管作業を任せたところ、単純ミスが激減し職場の助けになっているといいます。
このように、環境さえ整えば長所を活かして戦力となり得るのが軽度知的障害のある方なのです。
療育手帳B2の人が利用できる就労支援制度
「では具体的に、療育手帳B2を持つ人はどうやって仕事を探し、どんな枠で働けばいいのか?」――これには大きく分けて 「障害者雇用枠での就職」 と 「福祉サービスを利用した就労支援」 の二つのルートがあります。
障害者雇用枠の活用
療育手帳B2は障害者手帳の一種です。
そのため、この手帳を所持していれば企業の「障害者雇用枠」で応募・就職することが可能です。
障害者雇用枠とは、障害のある人が働く機会を得やすくするために企業に設けられた制度で、一定規模以上の企業には法定雇用率以上の障害者を雇用する義務があります。
2025年現在、民間企業の法定雇用率は2.5%で、従業員40人以上の企業は少なくとも1人以上の障害者を雇用しなければならないと定められています。(参考:厚生労働省ホームページ『障害者雇用のルール』)
この法律により、多くの企業で障害者雇用枠の求人募集が行われています。
障害者雇用枠で働くメリット
障害者雇用枠では、勤務時間や業務内容について障害特性に応じた配慮を受けやすいのが大きなメリットです。
たとえば体調や特性に合わせた勤務時間の短縮、難しい業務へのサポート、周囲の社員への障害特性の説明など、職場環境の整備が比較的進んでいるケースが多いです。
「障害者の法定雇用率を達成する」という企業側の目的もあるため、受け入れる側も最初からある程度の理解とサポート体制を整えています。
療育手帳B2を持つ方が安心して長く働くには、このような配慮のある環境を選ぶことが望ましいでしょう。
障害者雇用枠で働く上での注意点
一般の求人と比べると応募できる求人数がまだ限られている点には注意が必要です。
特に軽度知的障害の場合、障害者雇用枠の中でも業務内容が比較的簡易な仕事に限られる傾向があります。
また、障害者雇用枠といえど正社員募集から契約社員・パートタイムまで雇用形態は様々なので、条件面は求人票をよく確認することが大切です。
とはいえ、療育手帳B2をお持ちならまずは障害者雇用枠の活用を検討する価値は大いにあります。
実際に療育手帳B2の取得者には、後述する就労支援サービスを利用しながら障害者雇用枠で一般企業への就職を果たしているケースが増えています。
特例子会社という選択肢
障害者雇用を語る上で「特例子会社」も重要な選択肢です。
特例子会社とは、親会社(大企業)が障害者雇用の受け皿として設立した子会社のことで、多くの場合、障害のある社員が働きやすいよう業務内容や職場設備が工夫されています。
親会社の法定雇用率達成のカウント対象となるため、特例子会社は比較的多くの障害者を雇用しており、知的障害者向けの作業も用意されていることが多いです。
軽度の知的障害がある方だと、特例子会社で清掃や郵便仕分け、文書のスキャン、データ入力など決められたルーチン作業に従事するケースが見られます。
特例子会社は障害者に特化した安心して働ける環境が整っているため、親御さんにとっても安心材料になるでしょう。
就労移行支援・就労継続支援などの福祉サービス
次に、就労支援サービスの活用についてです。
障害者枠での一般就職がすぐには難しい場合や、就職するための準備を整えたい場合には、公的な福祉サービスを利用して就労訓練やサポートを受けることができます。
療育手帳B2の方が利用できる代表的な就労支援サービスには、「就労移行支援」と「就労継続支援」の2つがあります。
就労移行支援
一般企業への就職を目指す障害者のための職業訓練・就活サポートサービスです。
就労移行支援事業所に最長2年間通い、ビジネスマナーやPCスキルの習得、実習や職場体験、履歴書の書き方指導や模擬面接など包括的な訓練を受けます。
就職先の紹介や定着支援(就職後のフォロー)も受けられるため、初めて働く方やブランクのある方でも安心です。
知的障害のある方の場合、特別支援学校を卒業後に直接就職せず、この就労移行支援を経てから一般企業に就職するルートもよく利用されています。
就労継続支援
障害のためにいきなり一般企業で働くことが難しい方向けに、働く場そのものを提供する福祉サービスです。
就労継続支援にはA型とB型の2種類があります。A型事業所は利用者と事業所が雇用契約を結び、最低賃金以上の給与が支払われるのが特徴です。
企業に雇われる形で、軽作業や内職的な仕事を行い、働くリズムやスキルを身につけます。
一方、B型事業所は雇用契約を結ばず、作業の成果に応じた工賃(作業報酬)を受け取る形態です。
B型はより障害程度が重い方向けで、マイペースで通所しながら簡単な作業を行い、社会とのつながりを保つ場として利用されます。
軽度の知的障害であるB2の方の場合、基本的には将来一般就労を目指せるA型の利用が多くなりますが、体調や状況によってはB型から始めて徐々にステップアップする場合もあります。
これらの福祉サービスは療育手帳を持っている人だけでなく、手帳を持たない人でも医師の診断書など所定の手続きを踏めば利用可能です。
就労移行支援やA型事業所を利用して職業スキルや就労習慣を身につけ、その後に企業の障害者枠で一般就労へ移行するという流れが一つのモデルケースです。
実際、特別支援学校高等部を卒業した軽度知的障害の若者が、A型事業所で勤務経験を積んだ後に一般企業へ転籍するケースも見られます。
療育手帳B2の人に向いている仕事の種類
「軽度知的障害の人にはどんな仕事が向いているのか?」――これは一概に断定することは難しく、本人の得意不得意や興味によって大きく異なります。
ただし、厚生労働省の調査や現場の事例から、比較的就きやすい職種や業種の傾向がわかっています。
厚生労働省「障害者雇用実態調査」の結果によれば、知的障害者が従事している仕事内容は「サービス業(運搬・清掃など含む)」が最も多く、次いで「製造・加工」「販売(流通)」「事務」の順となっています。
特にサービス業には幅広い業種がありますが、清掃業務、施設や店舗の裏方作業、郵便・配送、福祉・介護補助など、人と接客するより裏方でコツコツ行う仕事に就いているケースが多いようです。
実際、知的障害のある生徒が通う特別支援学校の就職先でも、ホテルやレストランのバックヤード業務、ゴルフ場の整備、訪問介護員(ホームヘルパー)といった職種が多いという報告があります。
具体的に、療育手帳B2(軽度)の方が活躍しやすい仕事の例をいくつか挙げます。
- 清掃・設備管理系の仕事:オフィスビルや商業施設の清掃スタッフ、工場内の清掃・メンテナンス補助など。ルーチン化された清掃手順を繰り返す業務は、一度習熟すれば安定して行いやすく、変化も少ないため安心です。几帳面さを活かして丁寧な清掃を継続できれば、職場からの評価も高まります。
- 軽作業・製造ライン:工場や倉庫でのピッキング(商品集め)や仕分け作業、梱包や検品作業、簡単な組立ライン作業など。決められた手順に沿って行う反復作業は得意とする方が多く、集中力を活かしてミス無く遂行できる強みがあります。また農業分野でも、野菜の栽培や収穫補助など軽作業的な仕事が少しずつ増えてきています。
- 小売・物流の補助業務:スーパーやドラッグストア等での品出し・商品陳列、在庫管理の補助、倉庫内作業、郵便物の仕分け・配達補助など。接客よりも裏方で商品管理をする業務であれば、臨機応変な対応を求められる場面が少なく、取り組みやすいでしょう。実際に、軽度知的障害のある方はお客様対応を伴わないバックヤード業務に就いていることが多いと報告されています。
- 事務補助・オフィスサポート:大企業ではオフィス内の庶務業務を障害者雇用で募集する例もあります。郵便物の仕分け、書類のスキャン・ファイリング、データ入力、勤怠チェック、備品管理、簡単な伝票処理などが典型です。パソコン操作が得意な方であれば、こうした事務補助的な仕事にチャレンジすることも可能です。実際に療育手帳B2を持つ方が大手企業のオフィスサポート職に就職したケースも報告されており、得意分野を活かせば事務仕事で活躍する道も開けます。
以上のように、「決められた手順を繰り返す」「裏方で支える」「細かな作業を丁寧に行う」ような仕事は、比較的ミスマッチが少なく長所を発揮しやすい傾向にあります。
逆に、変化が激しく臨機応変さが求められる職場(たとえば飲食店のホールで次々と注文に対応する、ベンチャー企業でマルチタスクをこなす等)はストレスが大きく定着が難しいかもしれません。
ただし最終的には本人の興味や意欲が何より大切です。
興味が持てない仕事だと健常者でも長続きしないものです。
お子さん本人が「やりたい」「好きだ」と思える仕事かどうかも尊重しつつ、適性を見極めてあげましょう。
就職活動の進め方と支援の受け方
療育手帳B2を持つお子さんの就職活動をどのように進めればよいか、大まかなステップとポイントをまとめます。
親御さんができるサポートや利用できる機関についても触れます。
進路相談・情報収集
早い段階から学校の進路担当や地域の障害者就業・生活支援センターなどに相談しましょう。
特別支援学校の高等部に通っている場合は、学校が企業実習や職場見学の機会を設けてくれることもあります。
また、お住まいの自治体の障害福祉課やハローワークにも障害者雇用の相談窓口があります。
まずはプロの相談員に現在の状況や希望を伝え、アドバイスをもらうことが第一歩です。
ハローワークに障害者登録する
ハローワークでは障害者手帳を持つ方専用の「専門援助部門」があり、職業相談や職業紹介を行っています。
療育手帳B2を取得したら、ハローワークに障害者求職登録をしておくとよいでしょう。
専門の担当者が付き、求人票の見方や応募書類の書き方、面接指導などもサポートしてくれます。
障害者雇用枠の求人情報はハローワーク経由で得られるものが多いです。
また、地域障害者職業センターでは職業評価(適性検査)やジョブコーチ(職場適応援助者)の派遣など、より専門的な支援も実施しています。
就労支援サービスの活用を検討
前述した就労移行支援は、卒業後すぐの就職に不安がある場合に強い味方です。
2年間の訓練期間を通じて社会人マナーからパソコン技能まで学び、実習で実際の職場を体験し、自信をつけてから就職活動に臨めます。
利用にはお住まいの自治体での申請が必要ですが、費用は原則1割負担(所得により減免あり)で利用できます。
特別支援学校を卒業した後、一度就労移行支援事業所に通ってから就職するルートも一般的になっています。
また在学中から放課後等デイサービスやアルバイトで簡単な就労体験を積むのも良いでしょう。
適した求人への応募と面接
応募する際は、無理に一般枠を狙うより障害者雇用枠の求人に的を絞る方が現実的です。
求人票には業務内容や求められるスキルが記載されていますので、お子さんの出来ること・苦手なことと照らし合わせて検討します。
応募書類や面接では、障害についてオープンに伝えるか悩むところですが、障害者枠の場合は最初から企業も理解していますので、配慮してほしい点があれば正直に伝えた方がミスマッチを防げます。
例えば「読み書きに少し時間がかかるので、数字のチェック業務はゆっくり取り組みたい」など具体的に伝えると良いでしょう。
最近では企業側も合理的配慮の提供義務がありますので、面接時に相談してみてください。
就職後のフォロー
晴れて就職が決まった後も、定着支援を受けられます。就労移行支援事業所を利用した場合は、就職後6ヶ月~1年間程度は職場定着支援サービスがあり、困り事の相談や企業との調整をサポートしてもらえます。
ハローワークにも就職後にフォローアップを行う専門員が配置されています。
また、必要に応じてジョブコーチ(職場に出向いて本人と企業双方を支援する専門スタッフ)の派遣制度もありますので、職場になじむまで遠慮なく利用しましょう。
親御さんも定期的にお子さんの職場での様子を聞き、体調管理や生活リズムの支援を続けていくことが大切です。
まとめ

療育手帳B2(軽度知的障害)を持つ方の就労について、概要から具体策まで述べてきました。
軽度の知的障害があっても、適切な環境と支援のもとで十分に戦力となり得ることが各種データや事例から分かっています。
実際、民間企業で働く知的障害者の数は年々増加傾向にあり、令和6年時点で約15.8万人が民間就労しています。
企業側も障害者雇用に取り組む姿勢を強めており、職場での合理的配慮も少しずつ進んできています。
親御さんにとっては心配も多いでしょうが、国の制度や支援サービスを上手に利用しながら進めれば、道はきっと開けます。
ポイントは「焦らず、その人のペースで、得意なことを活かせる場を見つける」ことです。
療育手帳を取得しておくと障害者枠での就職や各種サービス利用などメリットが多いので、まだお持ちでない場合はぜひ検討してください。
そして、お子さんの興味や強みを尊重しながら、専門家とも連携してサポートしていきましょう。
知的障害や発達障害がある方の就職支援のプロである就労移行支援事業所や障害者就業支援機関は強い味方です。
一人で悩まず、周囲のリソースを活用して、「自分らしく働ける未来」を親子で実現していってください。
悩みが解決し、疑問が少しでも解消する一助となれば幸いです。
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