うつ病の障害厚生年金3級

はじめに

昇進をきっかけに不眠や頭痛が続き、医療機関を受診されたものの、そのときの診断名は「自律神経失調症」でした。

その後「うつ病」へと傷病名が変わり、途中には自己判断で精神科への通院をやめていた期間もありました。

診断名が変わったことと、通院が途切れた期間があること。

このどちらも、初診日をどこに置くのかという点で、ご本人が判断に迷いやすい事情です。

本事例では、最初に受診した医療機関の証明を取得したうえで請求を進め、障害厚生年金3級が決定しました。

(※うつ病で障害年金の申請をご検討の方は『うつ病で障害年金はもらえる?3つの条件と金額の目安』をご覧ください。)

対象者の基本データ

ご相談時の状況と、申請の結果は次のとおりです。

支給額は、決定した当時の年額です。

項目内容
病名うつ病
性別男性
就労状況退職後、療養中(復職は困難な状態)
請求方法事後重症による請求
申請結果障害厚生年金3級
支給額年額 約63万円(決定当時)
障害の状態・家族の付き添いがなければ外出や対外的なやり取りも困難
・意欲、思考力の低下から食事や身の回りのことを行うだけで精一杯
・対人恐怖が強く、過呼吸を生じることもある
・福祉サービスの利用も検討している

ご相談までの経緯

ご相談に至るまでの経過を、ご本人・ご家族からうかがった内容にもとづいて整理します。

発症から15年以上が経過しており、その間に受診先も傷病名も変わっていました。

15年ほど前、昇進に伴う仕事の重圧から、不眠や片頭痛などの症状が現れました。

次第に気分が不安定になり、休息をとっても改善しないため、医療機関を受診されます。

当初の診断名は「自律神経失調症」で、医師の指示によりまもなく休職となりました。

治療を続けるうちに症状は悪化し、仕事は退職に至ります。

この経過のなかで、傷病名は「うつ病」へと変更されました。

療養に専念するうちに症状が安定していると感じられ、精神科への通院を自己判断で中断されます。

ただし通院を完全にやめたわけではなく、内科へ不定期に通院し、薬の処方を受けながら長く過ごしておられました。

その後、仕事を再開し、再び昇進が決まったことを契機に、不調を強く自覚するようになります。

仕事だけでなく家庭内の問題も重なり、体調が急激に悪化しました。

食事も睡眠も十分にとれない状態となり、医師からは入院を勧められています。

しかし入院環境への不安と恐怖心が強く、ご家族からサポートを受けられる環境を整えることを条件に、外来での通院治療を継続されました。

ご家族の生活支援によってなんとか最低限の日常生活が保たれている状態で、仕事への復帰は非常に困難な状況でした。

将来への不安から受けられる支援を探しておられたところ、障害年金制度を知り、当事務所にご相談いただくこととなりました。

①申請のポイントと苦労した点

本事例で時間を要したのは、初診日の証明を整えるところでした。

ご体調が優れないなかで、ご家族の協力を得ながら準備を進めておられましたが、医療機関とのやり取りが進まず、医証を取得できないことに悩まれていました。

当事務所のフルサポートでは、ご本人様に代わって病院への説明や年金事務所への来庁なども行っています。

サポートの内容をご説明したうえで、すでに集めておられた情報を引き継ぎ、申請を進めさせていただくこととなりました。

最初に受診した医療機関に、受診状況等証明書の作成を依頼した

障害年金の請求では、初診の医療機関と診断書を作成する医療機関が異なる場合、初診の医療機関に「受診状況等証明書」の作成を依頼します。

本事例では、15年ほど前に最初に受診した医療機関が対象でした。

ご本人様も一度は病院へ問い合わせをされていたそうですが、どの書類を、どのように依頼すればよいのかが伝わらず、病院側では保留の扱いとなっていました。

当事務所から改めて、必要な書類の内容と記載していただきたい事項をご説明したところ、受診状況等証明書を作成していただくことができました。

その結果、最初に受診した医療機関の受診日が初診日として扱われることとなり、初診日が確定しました。

初診日が確定したことで、その時点の年金の加入制度と、保険料の納付要件を確認できる状態になります。

本事例では、いずれも要件を満たしていることが確認できました。

受診状況等証明書とは

通院が途切れていた期間について、経過を整理した

本事例には、精神科への通院を自己判断で中断していた期間がありました。

通院をやめていた期間があると、「その後に受診した日が新しい初診日になるのではないか」と考えられる方が少なくありません。

しかし本事例では、中断していたのは精神科への通院であり、その間も内科で薬の処方を受けておられました。

そこで、いつからいつまで、どの医療機関に、どの程度の頻度で通っていたのかを、ご本人・ご家族への聞き取りをもとに時系列で整理しました。

そのうえで、この期間の受診状況と治療の内容を、病歴・就労状況等申立書に順を追って記載しています。

通院していた期間と、していなかった期間を区別しながら、日常生活や就労の状況とあわせて記載しました。

なお、この考え方の整理は、後述の「本事例のポイント」で扱います。

診察で伝えきれない経過を参考資料にまとめ、主治医へお渡しした

診断書の作成を依頼するにあたり、これまでの治療経過や日常生活の状況を参考資料としてまとめました。

限られた診察時間のなかでは、日常生活の困りごとをすべてお伝えすることが難しいためです。

ご本人・ご家族からうかがった内容を整理し、主治医の先生へお渡ししました。

資料は事実の経過をお伝えするものであり、診断書の記載内容は主治医の先生のご判断によります。

診断書が完成した後、発病から現在までの経過や背景を病歴・就労状況等申立書に詳述し、請求を行いました。

【自分で書ける】病歴・就労状況等申立書

②結果

審査の結果、障害厚生年金3級が決定しました。

本事例は事後重症による請求であるため、支給は請求を行った月の翌月分からとなります。

障害年金を受け取るには、初診日の要件、保険料の納付要件、障害の状態の要件をいずれも満たす必要があります。

(※受給要件の詳細は『障害年金をもらえる人|3つの受給要件をわかりやすく解説』をご覧ください。)

本事例では、受診状況等証明書によって初診日が確定したことで、初診日の時点でどの制度に加入していたか、保険料の納付要件を満たしているかを確認することができました。

初診日に厚生年金保険の被保険者であったため、3級に該当する場合は障害厚生年金が支給されます。

決定した年金額は、当時の年額で約63万円でした。

※当法人が関与した個別の事例であり、認定の一般的な基準を示すものではありません。個別事案により判断は異なります。

③担当者の振り返りと感想

本事例で当事務所が行ったことは、大きく二つです。

医療機関への説明を代行したことと、診察では伝えきれない経過を資料として整理したことです。

受診状況等証明書は、ご本人が問い合わせをされた段階では保留になっていました。

書類が存在しなかったわけでも、病院が拒否されたわけでもありません。

「何を、どの様式で、どこまで記載していただきたいのか」が伝わっていなかったために、手続きが止まっていた状態でした。

体調が優れないときに、この説明をご自身で行うことは負担が大きいと感じます。

代わりにお伝えするだけで前に進む場面は、実務のなかで少なくありません。

もう一点は、参考資料の作成です。

15年にわたる経過を、限られた診察時間のなかで口頭ですべてお伝えすることは困難です。

時系列と日常生活の状況を書面に整理してお渡しすることが、経過を正確に共有するうえで役立ったと考えています。

本事例のポイント

本事例には、初診日を考えるうえで迷いやすい事情が二つ含まれていました。

診断名が途中で変わったことと、通院が途切れていた期間があったことです。

この二つは、それぞれ考え方が異なります。

【本事例のポイント】診断名が変わったときの初診日

最初に受診したときの診断名と、いま治療を受けている傷病名が異なることは、精神疾患ではよくあります。

このとき初診日をどこに置くかについては、性質の異なる二つの道筋があります。

一つは、同一の傷病として扱われる場合です。

障害認定基準は、初診日を次のように定めています。

「初診日」とは、障害の原因となった傷病につき、初めて医師又は歯科医師の診療を受けた日をいう。

(出典:日本年金機構『国民年金・厚生年金保険 障害認定基準』令和4年4月1日改正 第1の3)

診断名が変わっても、医学的に同一の傷病と判断される場合は、その傷病について初めて診療を受けた日が初診日になります。

これは初診日の定義そのものであり、相当因果関係を持ち出す必要はありません。

日本年金機構の資料でも、同一の傷病で転医があった場合は、一番初めに医師等の診療を受けた日が初診日になると示されています。

(出典:日本年金機構『かけはし別冊 障害年金講座<基本事項>』)

もう一つは、前後が別の傷病であり、相当因果関係が認められる場合です。

同じ認定基準は、次のように定めています。

「起因する疾病」とは、前の疾病又は負傷がなかったならば後の疾病が起こらなかったであろうというように、前の疾病又は負傷との間に相当因果関係があると認められる場合をいい、負傷は含まれないものである。

(出典:同基準 第1の2(2))

この場合は、前の傷病で初めて診療を受けた日が、後の傷病の初診日として取り扱われます。

いずれの道筋をとる場合でも、判断の出発点になるのは、最初の受診でどのような症状について診療を受けていたかという記録です。

本事例では、最初に受診した医療機関の受診状況等証明書を取得したことで、その受診日が初診日として扱われました。

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【本事例のポイント】通院を中断していた期間があるとき(社会的治癒)

通院をやめていた期間があると、初診日が新しくなるのではないかと考えられる方がおられます。

ここで関係してくるのが「社会的治癒」という考え方です。

社会的治癒は、初診日を過去にさかのぼらせるものではなく、後ろに置くものである点に特徴があります。

過去の傷病がいったん治り、その後に再び悪化した場合は、再発として過去の傷病とは別の傷病として取り扱われます。

医学的には治っていないと認められる場合であっても、軽快と再度の悪化との間に社会的治癒があったと認められるときは、再発として取り扱われることとなります。

社会保険審査会の裁決では、社会的治癒があったと認め得る状態について、相当の期間にわたって症状がなく、予防的医療を除く医療を行う必要がなくなり、通常の勤務に服していたことが認められる場合とされています。

(出典:厚生労働省「社会保険審査会 裁決例」令和元年(厚)第1492号・令和3年8月31日裁決)

逆に、治癒が認められない場合は、過去の傷病と同一の傷病が継続しているものとして取り扱われます。

本事例では、精神科への通院は中断していたものの、内科で薬の処方を受け続けておられました。

本事例では、最初に受診した医療機関の受診状況等証明書によって初診日が確定しており、通院の中断があったことをもって初診日が後ろに移ることにはなりませんでした。

なお、社会的治癒に当たるかどうかは、期間の長さだけで決まるものではなく、その間の治療の状況や就労・生活の状況を含めて判断されます。

また、症状が落ち着いていた時期があったことを不利に感じておられる方もいらっしゃいます。

障害認定基準は、気分(感情)障害の認定について次のように定めています。

気分(感情)障害は、本来、症状の著明な時期と症状の消失する時期を繰り返すものである。したがって、現症のみによって認定することは不十分であり、症状の経過及びそれによる日常生活活動等の状態を十分考慮する。

(出典:日本年金機構『国民年金・厚生年金保険 障害認定基準』令和4年4月1日改正 第3第1章第8節/精神の障害 A(2)イ)

症状の良い時期と悪い時期を繰り返すことは、認定にあたって経過を考慮すべき事柄として、基準そのものに書かれています。

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本事例に関するよくあるご質問

本事例に関連して、当事務所によくお寄せいただくご質問をまとめました。

いずれも一般的な考え方であり、実際の判断は個別の事情によって異なります。

Q. 最初に受診したときの病名が、いまの病名と違います。初診日はどちらになりますか。

診断名が変わったというだけで、初診日が自動的に変わるわけではありません。

医学的に同一の傷病と判断される場合は、その傷病で初めて診療を受けた日が初診日になります。

前後が別の傷病であっても、両者に相当因果関係が認められる場合は、前の傷病の初診日が引き継がれます。

いずれに当たるかは、診療録などの記録をもとに個別に判断されるため、まずは当時の受診歴を確認することが出発点になります。

Q. 通院をやめていた期間があると、初診日は新しくなりますか。

期間が空いていることだけで初診日が変わるわけではありません。

社会的治癒が認められる場合には、再発後に初めて受診した日が新たな初診日として扱われます。

ただしこれは、相当の期間にわたって症状がなく、予防的医療を除く医療を行う必要がなくなり、通常の勤務に服していたことが認められる場合とされています。

投薬などの治療が続いている期間については、同一の傷病が継続しているものとして取り扱われるのが原則です。

Q. 過去にさかのぼって受け取ることはできますか。

本事例のような事後重症による請求では、支給は請求を行った月の翌月分からとなり、過去にさかのぼった分は支給されません。

障害認定日の時点で障害の状態に該当していた場合には、障害認定日による請求を行うことで、さかのぼって受け取れる可能性があります。

ただし、時効により、さかのぼれるのは最大で5年分です。

どちらの請求ができるかは、障害認定日当時の診断書を用意できるかどうかにも左右されます。

(※詳しくは『障害年金の遡及(そきゅう)請求とは|はじめての人にも分かりやすく解説します』をご覧ください。)

Q. 体調が悪く、病院や年金事務所とのやり取りが難しいのですが。

障害年金の請求では、医療機関への書類の依頼や、年金事務所での手続きが必要になります。

ご本人が動くことが難しい場合、ご家族や社会保険労務士が手続きを代わりに行うこともできます。

年金事務所での年金相談や手続きを代理人に委任するときは、ご本人が作成した委任状を提出する必要があります。

(出典:日本年金機構「年金相談や手続きを代理人に委任するとき」)

本事例でも、病院への説明や年金事務所への来庁を当事務所が行いました。

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※本記事は2026年9月時点の年金法令・障害認定基準に基づき作成しています。
法令改正等により内容が変更される可能性があるため、最新の情報は日本年金機構の公式サイト等でご確認ください。
個別の事案については社会保険労務士・弁護士等の専門家へのご相談を推奨します。
医学的判断は主治医にご確認ください。