知的障害のあるお子さんを育てる保護者の皆さんの中にはお子さんの将来について、「大人になったらこの子はどうなるのだろう?」と不安に感じている方もいらっしゃると思います。
障害のある子どもの将来は、親であれば誰しもが不安を抱えるものです。
この記事では、そうした不安の理由と現状、そして将来に向けて利用できる支援制度や進路の選択肢について解説したいと思います。
皆さまと一緒に考えてていければ幸いです。
親御さんが将来に不安を感じる理由とは
知的障害のある子どもを持つ親御さんの多くが、成長した後の暮らしに強い不安を抱えています。
その背景には、障害のある子どもの自立が難しく、親のサポートへの依存度が高い現状があります。
厚生労働省の調査によると、在宅で生活する障害児の約3分の2は常に見守りや介助が必要(23.5%)か部分的な介助が必要(43.1%)という状態でした。(厚生労働省:第3回 障害児通所支援に関する検討会)
つまり、多くの子どもたちが日常生活で継続的な支援を必要としており、親御さんは「自分がそばにいないとこの子は生活できないのでは…」と感じてしまうのです。
さらに、日本では知的障害のある人の大多数が成人後も親元で暮らし続けている現状があります。
2022年時点で知的障害のある人(療育手帳所持者)は約125万人おり、そのうち推計91%(114万人)が家庭で生活しています(グループホーム等の利用者を含む)。
19~64歳の知的障害者では、約63%が親と同居しているとのデータもあります。
この同居率は他の障害種別と比べても非常に高く、親御さんがケアを担い続けている割合が際立っています。
そのため親御さんにとって、子どもが親元を離れて自立するイメージが持ちにくいのも無理はありません。
実際、ある調査では母親たちの約4割が「わが子が親元を離れて暮らす将来」を思い描けないと回答しています。
それだけ、「親がいない将来なんて考えられない」という切実な思いを多くのご家庭で抱えているのです。
こうした不安には、「親である自分にもしものことがあったら、この子はどうなってしまうのだろう」という心配が常につきまといます。
今まで子どものケアを一手に引き受けてきただけに、他人にわが子の世話を任せることへの抵抗感も大きいですよね。
親御さんの中には「自分たち以外に、この子に愛情を持って接してくれる人なんていないのでは…」と感じる方もいます。
このように、家庭で長年積み重ねてきたケアと信頼関係があるからこそ、将来の暮らしを他者に委ねることに不安を覚えるのは当然のことです。
親亡き後の生活設計-誰がこの子を支えるの?
親亡き後の不安はほとんど全ての親が感じています。
「親亡き後(親がいなくなった後)の生活に不安があるか」という調査結果で、95.3%もの保護者が「不安あり」と回答したものもあります。(参照:岡崎市社会福祉協議会ホームページ「親亡き後」)
ほとんど全てのご家庭で、「自分たちが亡くなった後、子どもはちゃんと暮らしていけるだろうか」と心配しているのです。
また別の調査では、約7割の親が「自分の死後、子どもの世話を誰がしてくれるのか」が心配だと答えています。
このように「親亡き後問題」は多くの親御さんに共通する大きな課題です。
親亡き後の不安には、具体的にいくつかのポイントがあります。
例えば以下のような点で悩む親御さんが多いでしょう。
- 生活の場と世話をしてくれる人: 子どもが将来どこで暮らし、誰が日々の世話や見守りをしてくれるのか。長年親が担ってきたケアを代わりに担ってくれる存在が必要です。
- 経済的な支え: 子どもの生活費や医療費はどう工面するのか。十分な貯えや保険、年金など、金銭面の準備ができているか。
- 法的な後見: 判断能力が十分でない子どもの場合、親に代わって契約や財産管理をしてくれる成年後見人など法的なサポートは確保できるか。
- 孤立や危険からの保護: 周囲に頼れる人がいないと、悪意のある人に騙されたり犯罪被害に遭う恐れもあります。実際、親亡き後に詐欺や悪徳商法の被害に遭ったり、生活費が尽きて困窮する障がい者のケースも報告されています。緊急時に助けてくれる人がいない孤独・孤立も避けたい問題です。
こうした課題に備えるために、親御さんは早めの生活設計を考えておくことが大切です。
例えば、信頼できる親族と話し合っておいたり、将来的に子どもの後見人となってくれる人を家庭裁判所で選任する(成年後見制度の利用)方法があります。
また、経済的には特定障害者扶養信託制度や生命保険の活用によって、親亡き後に子どもが受け取れる資金を確保しておくこともできます。
自治体によっては親亡き後を見据えた相談支援サービスを提供しているところもありますので、地域の障害者相談支援センターなどに一度相談してみるのもよいでしょう。
親御さんが元気なうちに計画を立て、少しずつ準備しておくことで、「もしもの時」への不安はかなり軽減できるはずです。
施設で暮らすという選択肢
子どもが親元を離れて生活する方法の一つに、福祉サービスを利用した施設での暮らしがあります。
代表的なものがグループホーム(共同生活援助)です。
グループホームとは、障がいのある人が少人数でスタッフのサポートを受けながら共同生活を送る住宅のことです。
一般的な家庭に近い環境で、食事や入浴など日常生活の援助を受けつつ、自立した生活リズムを身につけることができます。
入居者は自室でプライバシーを保ちながらも、同じ施設の仲間や支援員との交流があり、地域の中で暮らすことを実現できます。
施設での暮らしについて心配な点の一つは費用ですが、公的な障害福祉サービスの制度により利用者負担は収入に応じた定額となっており、多くの場合、障害年金や工賃収入の範囲で賄えるよう配慮されています。
特にグループホームは地域生活移行を促進するため整備が進められており、「親亡き後」に備えて親が存命のうちから短期入所(ショートステイ)や体験入居を利用し、子どもが徐々に親以外の環境に慣れる練習をする家庭も増えています。
実際、知的障害のある方の約21%は「グループホームに住みたくない」と答えている調査結果もありますが、裏を返せば約8割はグループホームという選択肢を前向きに検討できる可能性があるとも言えます。
子どもに合った居場所が見つかれば、親御さんの安心にもつながるでしょう。
大切なのは、親と離れても暮らしていける環境を本人と一緒に探しておくことです。
見学や体験利用を通して、ここなら安心して任せられると思える施設やグループホームを見つけておけば、将来に向けた大きな支えになります。
親御さん自身も「この子にはこの場所がある」と思えるだけで、心の負担が軽くなるはずです。
就労支援で広がる仕事の可能性
将来の不安のもう一つの大きな要素が「仕事」の問題です。
知的障害のある人が大人になったとき、働く場を見つけられるかどうかは、ご本人の生きがいや収入の面で重要です。
近年は障がい者雇用も進んでおり、一般企業で活躍する知的障害のある方も増えてきました。また、それを支える就労支援制度も整っています。
例えば就労継続支援A型・B型という福祉サービス事業があります。
これは一般企業での就労がすぐには難しい人向けに、働く場を長期的に提供する仕組みです。
A型事業所は比較的就労能力がある方向けで、事業所と雇用契約を結んで働き、最低賃金以上の給与が支払われます。(障がいビズ「就労継続支援A型とは」)
一方のB型事業所は、雇用契約を結ぶのが難しい方向けで、契約は結ばずに作業に応じた工賃(成果報酬)が支払われます。(障がいビズ「就労継続支援B型とは」)
A型は規則正しく通勤できることが求められますが、その分安定した収入が得られます。
B型は体調やペースに合わせて無理なく働ける柔軟さが特長で、比較的重度の障害がある方でも利用しやすいです。
A型・B型事業所の数や利用者も年々増加しています。
厚労省の調査では、令和4年度時点で全国にA型事業所が4,429か所、そこで働く利用者は約101,448人います。
B型事業所はさらに多く、15,588か所に約406,577人もの障害のある方が利用しています。
B型の利用者数はA型の約4倍にも上り、就労が難しい多くの人がB型事業所で作業や訓練に取り組んでいる現状がわかります。
このように就労継続支援の場は全国で数多く用意されており、働きたいという思いを支えてくれる環境が整いつつあります。
また、一般就労を目指す人には就労移行支援という制度もあります。(障がいビズ「就労移行支援とは」)
就労移行支援では、職業訓練や面接対策、職場実習などを通じて一般企業への就職活動をサポートしてくれます。
特別支援学校の高等部では在学中に職場実習を経験する機会も多く、学校卒業後にそのまま企業に就職するケースもあります。
さらに国の制度として障害者雇用促進法により企業に一定割合の障がい者を雇用する義務(法定雇用率制度)があるため、知的障害のある人が働ける受け皿も用意されています。
近年では障がい者雇用に積極的な企業も増え、特例子会社(障がい者が働きやすい職場として親会社が設立する子会社)で多数の知的障害のある人が働いている例もあります。
重要なのは、お子さんの特性や体調に合った働き方を選ぶことです。
福祉的な就労支援事業所で無理なく働き続ける道もあれば、支援を受けながら一般企業でチャレンジする道もあります。
就労支援員やハローワークの障害者窓口、学校の進路担当者と相談しながら、最適な仕事の形を探してみましょう。
「うちの子に仕事なんてできるのだろうか…」と不安な親御さんもいるかもしれませんが、社会にはお子さんの力を発揮できる場がきっとあります。
実際に働き始めると、自信がついて生き生きとする方も多いですよ。
知的障害のある子の進路選択肢
お子さんの将来を考える上で、中学卒業後の進路選択も大きなテーマです。
知的障害のある子どもの多くは、小中学校段階では特別支援学級(通常の学校内の特別支援クラス)や特別支援学校(障害のある子どもが通う学校)で学びます。
そして義務教育終了後、高校進学にあたっては主に次のような選択肢があります。
「特別支援学校高等部」への進学
小・中と同じ特別支援学校の高等部(高校課程)に進むケースです。
特別支援学校では幼稚部・小学部・中学部・高等部と一貫して設置されていることが多く、引き続き少人数できめ細かな指導を受けられます。
生活スキルや職業訓練に重点を置いたカリキュラムが組まれ、自立や就労に向けた力を伸ばすことができます。
「高等特別支援学校」への進学
地域によっては高等支援学校と呼ばれる、高校課程単独の特別支援学校があります(東京都などで見られます)。
高等支援学校は入学選考(試験や面接)を経て入学するケースが多く、比較的軽度で自立度の高い生徒が集まります。
授業では一般的な高校科目に加えて職業教育や実習が充実しており、卒業後の就労を強く意識した教育が特徴です。
高等部との違いは地域にもよりますが、「就労を目指すための専門的な高校」というイメージです。
「定時制・通信制高校」や「職業訓練校」への進学
知的障害の程度や希望によっては、定時制高校や通信制高校、あるいは高等専修学校(職業訓練校)などに進む例もあります。
通常の高校課程で学びたい場合や、特定の職業スキルを身につけたい場合に検討されます。
ただし支援体制は学校によって様々なので、本人に合った環境か十分に見極める必要があります。
福祉サービス利用への移行
学校卒業後すぐに就職せず、福祉サービスの利用に移行するケースもあります。
例えば就労移行支援事業所に通って職業訓練を積んだり、就労継続支援B型事業所に通所して日中活動の場とする道です。
無理に学校に進まずとも、それぞれのペースで社会参加する方法が選べます。
お子さんの進路を選ぶ際は、「どんな環境ならこの子が伸び伸びと成長できるか」「将来の自立に繋がる経験を積めるか」を軸に考えてみてください。
特別支援学校や高等支援学校の見学会や説明会に参加し、学校の雰囲気や卒業生の進路を確認することも大切です。
先生方と相談しながら、お子さんの可能性が最大限に活かせる進路を一緒に見つけていきましょう。
おわりに
知的障害のあるお子さんの将来についての不安は、決して特別なものではなく、多くの親御さんが抱える共通の思いです。
だからこそ、日本各地で様々な支援制度や受け入れ先が用意され、親亡き後も含めたサポート体制が少しずつ整えられてきました。
不安に感じることがあれば、一人で抱え込まずに周囲の支援に頼ってください。
同じ立場の親同士が情報交換できる親の会や、自治体の障害者相談窓口なども積極的に利用しましょう。(※親の会に関しましては当ブログの『知的障害のあるお子さんを持つ親御さんの「親の会」とは』の記事でもご説明していますのでご参照下さい)
先輩の親御さんの体験談や専門家のアドバイスから、思わぬヒントが見つかることもあります。
将来への不安は尽きないかもしれませんが、お子さんの成長とともにできることも増えていきます。
小さな一歩でも、親子で経験を積み重ねていけば、それが自信となり希望につながります。
この記事で紹介したデータや制度は、決して「厳しい現実」を突きつけるためではなく、「適切な準備と支援によって未来をより良くできる」ことをお伝えするための材料です。
どうかお子さんの可能性を信じてください。
最後までお読みいただきありがとうございます。
親御さんとお子さんの未来が、安心できるものになりますように。
困ったときには、周囲の支援資源を活用しながら、一歩一歩進んでいきましょう。
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