知的障害のお子さんの大学進学

知的障害のあるお子さんをお持ちの保護者の皆さまは、「うちの子は大学に進学できるだろうか?」という不安や疑問を感じているかもしれません。

結論から言えば、知的障害があっても大学進学は可能です。

そのための環境整備や支援制度も少しずつ整ってきています。

本記事では、知的障害のあるお子さんの大学進学について、わかりやすくご説明したいと思います。

知的障害があっても大学に進学できるの?

結論は 「はい、進学できます」

近年、日本社会では障害のある人の高等教育への門戸開放が進んでいます。

2016年施行の「障害者差別解消法」により、大学等では障害を理由とする不当な差別的取扱いが禁止されました。

合理的配慮の提供については、施行当初は国公立大学等で法的義務、私立大学等では努力義務と整理されており、いずれも過重な負担とならない範囲で個別に検討されます。(参考:独立行政法人日本学生支援機構『大学、短期大学及び高等専門学校における 障害のある学生の修学支援に関する実態調査 分析報告』)

ただし「進学できる」とはいえ、実際に知的障害のある学生が大学で学ぶケースは多くありません

従来、知的障害のある子どもは高校卒業後すぐ就職したり福祉施設等に通所するルートが一般的で、進学はごくわずかでした。

しかし最近では状況が少しずつ変わりつつあります。

例えば文科省資料では、平成26年3月に特別支援学校高等部(本科)を卒業した「知的障害」の卒業者16,566人のうち、進学計は70人(0.4%)とされています。

内訳は、大学・短大等(大学等)への進学が4人、専攻科が66人です。

別年度の文科省公表データでも、知的障害のある生徒の進学(大学等・専攻科等)は低水準で推移しており、継続的な支援整備が課題です。

障害のある学生の修学支援に関する実態調査
独立行政法人日本学生支援機構『障害のある学生の修学支援に関する実態調査

※上のグラフは日本学生支援機構(JASSO)による全国調査データで、日本の大学等における障害のある学生数の推移を示しています(2006年~2024年)。2024年度調査から「知的障害」カテゴリが新設されデータが集計され始めました。

2010年代以降、障害学生数は年々増加していることがわかります。

特に2016年の障害者差別解消法施行以降、大学側の受け入れ態勢が強化されたことも背景にあります。

とはいえ、知的障害のある学生の大学進学はまだ「険しい道」です

背景には、「高校(特別支援学校高等部)のカリキュラム自体が大学受験を想定していない」「進学の受け入れ先となる大学側の準備が十分ではなかった」ことがあります。

多くの特別支援学校では卒業後の進路を就労に絞り、高等部では職業教育が中心で受験対策が行われないのが現状です。

しかし近年は文部科学省も中心となって、障害者の生涯学習や高等教育機会を充実させる施策が進められており、一部の大学や地域で知的障害者が学べる新しいプログラムも模索されています(後述)。

以上より、「制度的には大学進学は可能であり、以前より道は開かれてきているが、実情として知的障害のある学生の数はまだ少なく、進学へのハードルも残っている」と言えます。

次章から、そのハードルを乗り越えるための具体的な支援策や留意点を見ていきましょう。

大学入試で受けられる配慮・サポート

知的障害のあるお子さんが大学受験に臨む際には、事前に大学に相談することで様々な「受験上の配慮」を受けられる可能性があります。

受験上の配慮(例:試験時間の延長、別室受験、座席配慮など)は、試験の種類や大学、本人の状況、申請手続きによって取り扱いが異なります。

まずは志望校(または試験実施機関)の「受験上の配慮」案内を確認し、早めに相談・申請することが重要です。

入試方式の工夫

知的障害のある受験生の場合、一般入試(学力試験一発勝負)以外の入試方式も積極的に検討しましょう。

例えばAO入試(総合型選抜)や推薦入試では、筆記試験だけでなく面接・志望理由書・調査書等を総合評価します。

学力試験が不得意でも、これまでの頑張りや適性をアピールできるチャンスがあります。

実際に「障害者特別選抜」枠を設ける大学も一部にあり、知的障害や発達障害の学生がAO入試で合格した例も報告されています(※公式な統計は少ないですが、当事者団体の調査で事例が紹介されています)。

特別支援学校から直接受験を受け入れている大学も増えつつあります。

大学ごとの差

注意したいのは、大学によって障害への対応方針に差があることです。

全国障害学生支援センターの調査(受験編概要)では、回答校(381校)のうち、知的障害について「受験可」(問い合わせ前の段階で受験を認める方針)と回答した大学は140校(37%)でした。

視覚障害など他の障害区分と比べても受け入れ表明率が低く、まだ慎重な大学が多いのが現状です。

したがって、志望校選びの際は各大学の障害学生受け入れ実績や方針を調べることも大切です。

大学の公式サイトで「障がいのある受験生の方へ」というページを用意して積極的に情報公開している大学は、比較的受け入れ態勢が整っていると考えられます。

反対に情報が見当たらない場合でも、諦めずに直接問い合わせてみると対応してくれるケースもあります。

大学入学後の支援体制は?

合格はゴールではなくスタートです。

知的障害のある学生が大学で4年間学び抜くためのサポートも重要です。

近年、多くの大学には「障害学生支援室」「バリアフリー支援室」などの部署が設置され、在学生への合理的配慮提供や学習支援を行っています。

以下に、大学在学中に受けられる主な支援・配慮例を紹介します。

  • 履修・学習面でのサポート:講義についていけるよう、ノートテイク(筆記通訳)や要約筆記サービスを提供する大学があります。授業中、サポートスタッフやボランティア学生が板書や口頭の説明を逐語的にパソコン等で入力し、リアルタイムで表示してくれる仕組みです。また、事前に教授から講義資料をデジタルデータで提供してもらい、難しい専門用語に注釈をつけたり予習できるよう支援することもあります。レポート課題については提出期限の延長代替課題への差替えなどを認めてもらうケースもあります(例:筆記試験が難しい場合に口頭試問やプレゼンテーションで評価する等)。これらは学生本人と大学側が相談して決めるオーダーメイドの配慮です。
  • 学生生活面での配慮:知的障害の程度によっては、時間割の管理やキャンパス移動に支障が出ることもあります。支援室では履修登録や成績管理のサポート、構内移動の付き添い調整などを行います。また、試験期間中にストレスで不調が出やすい学生には別室での休憩スペースを用意する、図書館利用時に職員が本探しを手伝う、といった配慮も見られます。
  • ピアサポート・メンター制度:大学によっては先輩学生や同級生がサポーター(ピアサポート)として学習や生活面を支える制度があります。昼休みに一緒に食事をとり会話に入る手助けをしたり、サークル活動への参加をサポートしたりと、大学コミュニティへの溶け込みを促します。知的障害のある学生の場合、周囲の学生が特性を理解し共に学ぶことで、お互いにとって有益な交流が生まれます。
  • 専門スタッフによる相談:障害学生支援室には臨床心理士や特別支援教育の知識を持つ職員が配置され、定期的な面談や学習計画の相談に応じています。必要に応じて教員との連絡調整を行い、「どの科目でどんな配慮が必要か」について教員側に周知したりもします。保護者の方も心配な場合、大学側と連絡を取り合って学生を見守るケースがあります(ただし大学生は成年扱いなので、基本的には本人の同意のもとになります)。

法的義務

障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(障害者差別解消法)」の枠組みでは、大学等は障害を理由とする不当な差別的取扱いをしてはならず、合理的配慮についても(過重な負担にならない範囲で)個別に検討することが求められます。

(※参考:障害者差別解消法リーフレット

これは講義中の配慮から試験や学生寮での生活に至るまで、必要な対応を合理的範囲で行う責務があることを意味します。

たとえば「特定の科目履修を一部免除する」「成績評価方法を個別に変更する」といった対応は公平性の観点で慎重な検討が要りますが、「障害のない学生と比べ不利にならないように措置する」という基本原則のもと、大学はできる限りの支援を行います。

もっとも、大学側の支援にも限界や課題はあります。

前例の少ない知的障害学生への対応に各大学が試行錯誤している状況です。

「周囲に合わせて大学のシステムを大幅に変えるのは難しい」という声もあり、実際無理なく卒業まで到達できるかは個々のケースに依存します。

したがって入学後も、学生本人が自分に必要なサポートを遠慮なく求めることが大切です。

支援室や教員とのコミュニケーションを密に取り、「こんな配慮が欲しい」と発信していく姿勢を育むよう、保護者として見守りましょう。

大学進学のメリットと課題

知的障害のあるお子さんにとって、大学に進学することにはどんなメリット(利点)があり、どんな課題(デメリット)が考えられるでしょうか。

主な点を整理します。

ぜひ進路選択の参考にしてください。

メリット(利点)課題・注意点(デメリット)
学びの機会拡大
興味のある専門分野を体系的に学べる。知的探求心を満たし、自己成長につながる。
学習面のハードル
大学の講義内容や課題は高度で量も多い。理解に時間がかかり、周囲のサポートが欠かせない。
モラトリアム期間の確保
卒業後すぐ就職せず、4年間かけて将来を模索できる。社会適応の訓練期間にもなる。
卒業までの継続が難しい可能性
適切な支援があっても大学生活についていけず中退リスクがある。特に履修登録や試験など自己管理が求められる部分で苦労する。
就職の選択肢が増える
大卒資格が得られれば就職先の幅が広がる可能性。企業の中には大卒以上を要件とする職もあり、将来の職業選択に有利になり得る。
就職に直結しない可能性
知的障害の程度によっては、大卒でも一般就労が難しいケースもある。4年通っても就職でつまずくリスクはゼロではない。
同世代との交流
キャンパスで健常の同世代と交流することで、互いに理解が深まり人間関係の幅が広がる。友人 network は将来の財産に。
周囲の理解が必要
学生生活では周囲の学生や教員の理解が不可欠。誤解やコミュニケーションの難しさから孤立する恐れもあり、継続的なフォローが求められる。
自己肯定感の向上
「大学生」になることで自信がつき、成功体験を積むことで自己効力感を高められる。家族以外の社会の中で認められる経験にもなる。
経済的・時間的コスト
4年間の学費や生活費の負担がある。また卒業までに健常学生以上に時間がかかる場合も(留年するケースも想定)。家族のサポート体制含め長期的準備が必要。

このように、大学進学には得られるものと乗り越えるべき課題が両方あります。

特に「大学に入ること自体が目的ではなく、入ってから卒業することが本当の目的」である点は念頭に置いてください。

在学中に辛くなっては元も子もありません。次章では、そうした課題を見据えつつ進学の準備や検討段階でできることをまとめます。

大学進学に向けた準備とアドバイス

知的障害のあるお子さんの大学進学を目指すにあたり、保護者として早めに準備・検討しておくと良いポイントを整理しました。

1. 学力面の見極めと補習:大学の講義についていくためには、高校相当の基礎学力が必要です。お子さんの得意・不得意を把握し、必要に応じて補習や予備校・家庭教師の力も借りましょう。特に特別支援学校在学の場合、高等部の学習内容だけでは大学受験科目を網羅しきれないことがあります。学校の先生とも相談しつつ、通信教育やオンライン教材なども活用して学習習慣をつけておくと安心です。得意分野があればそれを伸ばし、苦手科目は受験方式によっては課されないこともあるので戦略的に対策します。

2. 志望校・学部の選定:お子さんの興味関心や将来やりたいことに合った学部・学科を選ぶことがモチベーション維持に繋がります。また大学ごとの支援体制も重要な選択基準です。オープンキャンパスに参加したり、大学の障害学生支援室に直接問い合わせてみて、どの程度受け入れ実績があるか、支援内容はどんなものかを確認しましょう。「障害者差別解消法に基づく対応指針」を公表している大学や、学生数に占める障害学生の割合が多い大学(国公立大学や定員規模の大きい私大など)は比較的整備が進んでいます。

3. 受験情報とスケジュール管理:入試の種類(一般、推薦、AO)ごとに時期や準備内容が異なります。受験カレンダーを早めに作成し、出願締切日や配慮申請締切、面接日などを家族で共有しましょう。配慮申請には診断書作成など時間がかかる場合もあるため、少なくとも受験前年の夏頃には志望校に相談を開始しておくのがおすすめです。

4. 福祉制度・奨学金の活用:経済的な面では、日本学生支援機構(JASSO)の給付型奨学金や各自治体の障害者奨学金制度など利用できるものがあります。特別支援学校出身者を対象にした奨学金を用意する自治体もありますので、地元の教育委員会や社会福祉協議会に問い合わせてみてください。また、お子さんが20歳以上になれば障害基礎年金の受給対象になる可能性があります。学業と金銭面の計画を立て、無理のない範囲で支援制度を活用しましょう。

5. 卒業後を見据えた選択肢も考慮:仮に「学力面で4年制大学は難しいかもしれない」と判断した場合でも、高等教育を受ける道は大学だけではありません。例えば短期大学(2年制)や専門学校で実践的なスキルを身につける進路もあります。あるいは特別支援学校高等部に併設された専攻科(高等部卒業後さらに2年程度学ぶ場)へ進む選択も検討できます。最近では民間の社会福祉法人などが運営する「福祉型大学」と呼ばれるプログラムも登場しています。これは正式な大学ではありませんが、4年間のカリキュラムでコミュニケーション訓練や職業準備訓練を行い、大学生活に近い体験を積める場です。進路は一つではないので、最終的にはお子さんの希望と適性を尊重し、複数のルートを比較検討してください。

6. 本人の意思確認とメンタルケア:最後に一番大切なのは、お子さん本人が「大学で学びたい」という意欲を持っているかです。親御さんの期待だけで無理に進学させても、途中で辛くなると本末転倒です。大学に行く目的や将来の展望を一緒に話し合い、本人の意思を尊重しましょう。また、受験や進学準備の過程でプレッシャーからストレスを感じることもあります。適宜息抜きや励ましを入れつつ、自己肯定感を育む声かけを心がけてください。困ったとき専門家(特別支援教育士や心理士)に相談するのも有効です。

おわりに

まとめ

知的障害のお子さんの大学進学について、現状から支援策まで幅広く説明しました。

まだまだ課題はありますが、「障害があっても学びたい」という願いを叶えようとする社会の動きは確実に進んでいるといえます。

誰もが共に学び合う共生社会の実現に向け、大学側も受け入れ態勢を整えつつあります。実際、知的障害のある学生が大学で学位取得を目指すだけでなく、学位にとらわれず専門分野を学べるプログラムに参加したり、健常学生と一緒にサークルや寮生活を送ったりしている例も出てきています。

少数とはいえ先輩たちの存在は大きな希望です。

保護者の皆さまにおかれては、お子さんの可能性を信じてサポートしつつ、時には専門機関とも連携しながら無理のない範囲でチャレンジを後押ししてあげてください。

「進学するか就職するか」の二者択一ではなく、「どうすればその子にとって最善の学びと成長の機会を提供できるか」を軸に考えれば、自ずと道が見えてくるはずです。

悩んだときはひとりで抱え込まず、ぜひ周囲のリソースを活用してください。

お子さんの未来が実り多いものとなるよう、心から応援しております。

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