
知的障害のあるお子さんやご家族にとって、住み慣れた地域で安心して生活を続けるにはどんなサポートがあるのでしょうか。
日本全国では、療育手帳(知的障害者としての障害者手帳)を所持している人が2022年3月末時点で約125万人にも上り、そのうち約25%は未成年です。
こうした多くの知的障害のある方々が地域社会の中で自立し、充実した生活を送るために、行政や専門機関による「地域生活支援」が重要な役割を果たしています。
この記事では、親御さんやご家族向けに「そもそも地域生活支援って何?」という基本から、「具体的にどんな支援が利用できるのか?」というポイントまで、わかりやすくご説明したいと思います。
そもそも地域生活支援って何?
「地域生活支援」とは、知的障害を含む障害のある人が住み慣れた地域でできる限り自立した生活を送るための支援全般を指します。
その根底には、障害の有無にかかわらずすべての人がお互いに人格と個性を尊重し、地域社会の一員として共に生きるという「ノーマライゼーション」(Normalization)の理念があります。
簡単にいえば、知的障害のある人も地域の中で当たり前の生活が送れるようにしよう、という考え方です。
この理念のもと、地域生活支援にはグループホームのような住まいの場の提供から、日常生活の細かな介助、就労支援、地域の活動への参加促進まで様々な取り組みが含まれています。
日本における障害者の地域生活支援は、法制度にもとづいて整備されています。
中核となるのは「障害者総合支援法」(正式名称:障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律)で、この法律によって知的障害者を含む障害のある人が個人としての尊厳にふさわしい生活を営むための必要な福祉サービスが定められています。
厚生労働省によれば、この法律のもとで提供される地域生活支援事業は「障害者及び障害児が基本的人権を享受する個人としての尊厳にふさわしい日常生活または社会生活を営むことができるよう、市町村等が実施主体となり、地域の特性や利用者の状況に応じ、柔軟な形態により計画的に実施する事業」です。
簡単に言えば、自治体が中心となって地域の実情に合わせ、障害のある人が地域で暮らすために必要な支援を柔軟に提供する仕組みです。
また、障害者総合支援法では「自立支援給付」(介護サービスや訓練サービス)と「地域生活支援事業」(市町村が工夫して実施する地域支援)の二本柱で幅広いサービス提供の枠組みが構築されています。
加えて、知的障害者福祉法や障害者基本法といった法律も相まって、障害のある人の自立と社会参加を支える体制が整備されています。
近年の法改正では、例えばグループホーム支援の充実や、地域における相談支援の中核となる「基幹相談支援センター」や緊急時の受け入れ拠点となる「地域生活支援拠点」の整備が市町村の努力義務とされるなど、地域生活を支える仕組みの強化が図られています。
こうした制度のもと、知的障害のある方が地域で安心して暮らせるよう、行政や福祉専門職が連携して支援にあたっているのです。
具体的にどんなサービスが使えるの?
それでは、実際に知的障害のある方やその家族が利用できる具体的な支援サービスにはどのようなものがあるのでしょうか。
大きく分けると、障害福祉サービスは以下の3つの区分に分類できます。
- 介護給付:日常生活上の介護や見守りを提供するサービス(居宅介護、短期入所、グループホームなど)
- 訓練等給付:自立した生活や就労に向けた訓練・支援を提供するサービス(自立訓練、就労支援、就労継続支援など)
- 地域生活支援事業:市町村が柔軟に実施する地域支援サービス(相談支援、移動支援、コミュニケーション支援、地域活動支援センター、日常生活用具の給付、日中一時支援等)
実際には個々の障害の程度や状況に応じて、これらのサービスを組み合わせて利用することができます。
ここからは、主なサービス内容をグループ別に詳しく見ていきましょう。
日常生活を支える主な介護サービス(介護給付)
知的障害のある方の日常生活を直接支援する介護サービスには、以下のようなものがあります。
いずれも障害福祉分野の専門スタッフが提供し、利用には原則として各市町村への申請と障害者手帳(療育手帳)の所持が必要ですが、公費負担により利用者負担は1割程度(所得に応じた月額上限あり)で利用できます。
居宅介護(ホームヘルプサービス)
ヘルパーが自宅を訪問し、入浴・排せつ・食事など日常生活上の介助や見守りを行います。
例えば、親御さんが家事や仕事で手が離せない時間帯にヘルパーに来てもらい、お子さんの身の回りの世話をお願いすることができます。
重度訪問介護
重度の障害がある方向けのサービスで、長時間にわたり自宅での介護や外出時の支援を包括的に提供します。
知的障害に重い肢体不自由等を伴う場合などに利用され、生活全般を支える手厚いサービスです。
行動援護
知的障害や自閉症などにより単独での外出が難しい方に対し、ヘルパーが付き添って危険を回避する支援です。
例えば、人混みでパニックになる恐れがあるお子さんと外出するとき、専門のヘルパーが同行して安全確保や移動の手助けをしてくれます(視覚障害者向けの同行援護という類似サービスもあります)。
短期入所(ショートステイ)
介護者である家族が病気や休養などで一時的に介護できない場合に、障害者支援施設などに短期間預かってもらえるサービスです。
数日間から最長1~2週間程度、専門施設で生活支援を受けられるため、緊急時やリフレッシュしたいときに活用できます。
実際に「親が体調を崩した際にショートステイを利用して助かった」というご家族の声も多く、行政も緊急時受け入れ体制の強化に取り組んでいます。
生活介護(日中活動サービス)
働くことが難しい重度障害者向けの日中活動の場を提供するサービスです。
介護が常に必要な方が通所施設で入浴・食事などの介助や創作活動・軽作業などのプログラムを受けます。
18歳を過ぎて学校を卒業した後、行く場所がないというケースでも、生活介護事業所が昼間の居場所・活動の場となります。
施設入所支援
家庭での生活が難しい場合に、入所型の支援施設で夜間や休日の介護を受けられるサービスです。
近年は可能な限り地域で暮らすことが推奨されていますが、医療的ケアが必要な場合などには入所施設も選択肢となります。
ただし入所できる定員には限りがあり、現在施設やグループホームに入居を希望しながら待機している障害者は全国で少なくとも22,000人おり、その7割以上が知的障害者だという調査結果もあります。
親御さんの高齢化に伴い、「親亡き後」を見据えて入所先を探すケースが増えていることも要因と考えられています。
共同生活援助(グループホーム)
知的障害のある方がスタッフの支援を受けながら数名で共同生活を送る住まいがグループホームです。
一般的に1つのホームに4~10人程度が暮らし、日中はそれぞれ作業所や職場、学校等に通い、夕方から翌朝までの時間帯や休日に世話人(支援スタッフ)が生活面の援助を行います。
例えば、食事の準備や服薬管理、入浴・排せつの介助、金銭管理のサポート、生活相談など多岐にわたります。
グループホームは地域生活支援において非常に重要な役割を担っており、地域で暮らしたいという多くの障害当事者・家族に利用されています。
現在、日本全国で約5,593か所の障害者グループホームがあり、約29,105人の障害のある方が利用しています(2022年の調査)。
主な運営主体は社会福祉法人ですが、近年は民間企業の参入も増えています。入居希望は年々高まっており、多くの地域で空き待ちの状態です。
先述のように知的障害者の待機者も多く、希望してもすぐには入れないケースもあります。
自治体によってはグループホームの整備を促進したり、地域で緊急時に一時宿泊できる緊急短期滞在施設を用意するなど、親御さんの不安に応える取り組みも進められています。
将来的にお子さんの自立した生活場所として検討される場合は、早めに情報収集し見学しておくとよいでしょう。
自立訓練・就労を支える主なサービス(訓練等給付)
訓練等給付は、知的障害のある方の自立した生活や就労をサポートするサービス群です。
日常生活のスキルアップから職業訓練、就労の場の提供まで含まれます。
例えば学校卒業後、すぐに一般就労が難しい知的障害のある方でも、これらのサービスを利用してできることを増やし、社会参加の幅を広げることができます。
自立訓練(機能訓練・生活訓練)
一定期間、施設に通って日常生活動作や社会生活技能の向上訓練を受けるサービスです。
食事作りや清掃などの生活スキル、対人コミュニケーションの練習など、より自立した生活に向けた訓練を行います。
知的障害のある方の場合、高等部(特別支援学校)卒業後に「自立訓練(生活訓練)」の場に2年間ほど通い、生活スキルを身につけてから就労やグループホーム入居に移行するケースも多くあります。
就労移行支援
一般企業への就職を目指す方向けに、職業訓練や就活支援を行うサービスです。
事業所に通い、ビジネスマナーや作業訓練、履歴書の書き方や面接練習、企業実習などを経て、ハローワーク等と連携しながら就職を目指します。
知的障害の程度によっては就労移行支援を利用して一般就労を実現する方もおり、企業の特例子会社や障害者雇用枠で働くケースも増えています。
就労継続支援A型・B型
一般就労が難しい方に働く場を提供する福祉的就労支援サービスです。
A型事業所は雇用契約を結んで給与を受け取りながら働き(比較的就労移行の延長線上にある)、B型事業所は雇用契約を結ばずに工賃(月給)を受け取ります。
例えば知的障害のある方がパン工房や清掃作業所などに通って作業し、収入を得ながら社会参加する、といった形態です。B型は障害程度が重めの方向けで、比較的負担の少ない作業や創作活動が中心となります。
就労定着支援
就労移行支援等を利用して一般企業に就職できた方が、職場に定着できるよう支援するサービスです。
就職後しばらく定着支援事業所の職員が定期的に面談したり、企業側に助言したりして、長く働き続けられるようフォローします。
知的障害のある方は環境の変化に戸惑うことも多いため、第三者の継続的なサポートが職場定着に効果を上げています。
自立生活援助
比較的軽度の知的障害のある方が施設やグループホームを出て一人暮らしを始める際に利用できる新しいサービスです。
専門スタッフが定期的に自宅を訪問して生活全般の様子を確認し、相談に乗ったり必要な援助を行います。
一人暮らしで困ったときは電話等で24時間相談できる体制も提供されます。
家庭を離れて地域で自立生活を送る第一歩を支える心強いサービスです。
地域での暮らしを支える主な地域生活支援事業
地域生活支援事業は、市町村が地域の実情や利用者ニーズに応じて柔軟に実施する事業で、地域で生活するために必要な様々な支援が含まれます。
具体的には次のようなメニューがあります。
相談支援
障害のある方やその家族の相談役となってくれるサービスです。
市町村に必ず設置されている相談支援事業所や「基幹相談支援センター」では、専門の相談支援専門員(ソーシャルワーカー)が障害者本人やご家族からの相談に応じ、必要なサービス利用計画(サービス等利用計画)を一緒に考えてくれます。
また、福祉サービスの情報提供や関係機関との連絡調整、権利擁護のための助言など包括的なサポートを受けられます。
困ったときはまず相談支援専門員に相談することで、状況に合った支援策を案内してもらえるでしょう。
移動支援
知的障害や発達障害などで一人での移動が難しい方の外出をサポートするサービスです。
ガイドヘルパーと呼ばれる支援者が付き添い、買い物、銀行・役所の手続き、余暇活動やイベントへの参加など、安全に外出できるよう支援します。
例えば、「コンサートに行きたいけれど一人では不安」という場合に移動支援を利用すれば、同行者が付き安全面を配慮して連れ添ってくれます。
自治体によって利用範囲(行き先や目的)は多少異なりますが、余暇支援の重要なサービスとなっています。
意思疎通支援(コミュニケーション支援)
視覚障害・聴覚障害などコミュニケーションに支障のある障害者向けに、手話通訳者や要約筆記者の派遣、点字や代読・代筆の支援などを行うサービスです。
知的障害のみの場合は直接の対象ではないかもしれませんが、重度の知的障害で意思表示が難しい方へのコミュニケーション手段の支援(コミュニケーションボードの活用など)が行われる場合もあります。
自治体によっては発達障害コミュニケーション支援講習を受けたボランティア等が派遣されることもあります。
日常生活用具の給付
障害のある方が日常生活で便利に使える福祉用具を支給・貸与してもらえる制度です。
例えば、知的障害のある方向けには見守り機器(徘徊を検知するセンサーやGPS端末)、コミュニケーション支援機器(会話を補助するタブレット端末等)、生活リズムを支援する時計やタイマーなど、自治体が定めた用具を給付・貸与してくれます。
身体障害があれば特殊ベッドや入浴補助具なども対象です。お子さんの場合は成長に合わせて必要な用具を支給してもらえる場合もあり、ぜひ活用したい制度です。
地域活動支援センター
障害のある方が気軽に交流や余暇活動ができる場を提供する施設です。
各市町村に設置されており、創作活動やレクリエーション、仲間づくりのプログラムなどを実施しています。
利用登録をすれば誰でも立ち寄って相談したり、イベントに参加したりできます。
地域によってはカラオケやパソコン教室、スポーツ活動など独自の活動を展開しており、障害のある人の地域居場所として機能しています。
家に閉じこもりがちな方も、こうした場を利用することで生活にハリが出たり、地域とのつながりが生まれる効果が期待できます。
日中一時支援
日中の見守りや一時預かりを行うサービスです。
学校の放課後や休日、あるいは成人の方でも家族が留守にする日中の時間帯に、一時的に障害者を預かって生活支援を提供します。
例えば、夏休み期間中に保護者が仕事の日は日中一時支援事業所にお子さんを預けてケアしてもらう、といった利用ができます。
ショートステイが宿泊を伴うのに対し、日中一時支援は日帰り型の預かりサービスといえます。
緊急時だけでなく、家族のリフレッシュ目的でも利用でき、地域生活支援の重要なメニューです。
成年後見制度利用支援
知的障害のある方が成年後見制度を利用する際に、利用申請の支援や費用助成を行う事業です。
成年後見制度とは、判断能力が不十分な成年者を保護・支援するために家庭裁判所が後見人等を選任する制度ですが、手続きの難しさや費用負担から利用が進んでいません。
そこで市町村が専門家による申立て手続きのサポートを行ったり、資力が乏しい場合に報酬費用を助成する仕組みを設けています。
親御さんが高齢になり将来が心配な場合、成年後見人(親族以外の第三者を含む)を付けておくことで、財産管理や契約手続きなどを安心して任せられるメリットがあります。
必要に応じて相談してみるとよいでしょう。
福祉ホーム
比較的自立度の高い障害者が安価な料金で下宿のような形で共同生活できる住まいです。
食事提供などのサービスは基本ありませんが、自立した生活に不安がある方に住居を提供し、世話人による見守りや生活相談が受けられます。
定員4名以上の小規模な施設で、空き家などを活用している場合もあります。
現在はグループホームが主流となっているため数は多くありませんが、地域によっては福祉ホームを整備し地域生活へ移行するステップとして活用しています。
なお、18歳未満の障害児向けには、上記とは別枠で児童福祉法に基づくサービスが用意されています。
例えば、学校終了後や休暇中に預かり支援を行う「放課後等デイサービス」や、小学校就学前の幼児が通う「児童発達支援」、障害児の短期入所(ショートステイ)などがあります。
知的障害のあるお子さんがいるご家庭では、これら児童向けサービスと18歳以上の大人向けサービスをライフステージに応じて使い分けることになります。
児童期から積極的に福祉サービスを利用しておくことで、本人の成長やご家族の負担軽減につながり、スムーズに成人期の地域生活支援へ移行しやすくなります。
おわりに

知的障害者への地域生活支援について、基本的な考え方から具体的なサービス内容まで幅広くご紹介しました。
ポイントを整理すると、地域生活支援の目的は知的障害のある人の自立と社会参加を地域で支えることにあり、そのために公的な制度として多様なサービスが整備されています。
ご紹介したように、日常生活の介助から就労支援、住まいの提供、相談窓口、緊急時の預かりまで、困りごとに応じたサポートを受けることができます。
大切なのは、親御さんやご家族が一人で抱え込まずに支援制度を活用することです。
地域生活支援のメニューは種類が多く複雑に感じられるかもしれませんが、まずはお住まいの市町村の障害福祉担当窓口や相談支援センターに問い合わせてみてください。
専門の相談員が、利用できるサービスの案内から申請手続きの方法まで丁寧に教えてくれます。
また、サービスを利用することで「家族の負担が軽くなり心に余裕ができた」「子どもの成長に繋がった」といった声も聞かれます。行政の公式情報や実績データに裏打ちされた支援策ですので、安心して頼ってください。
知的障害のある方の地域生活は、家族だけでなく地域社会全体で支えていく時代です。
適切な支援を上手に使いながら、ご家族も無理をしすぎず、地域の中でともに暮らす道を模索していきましょう。
この記事が、その一助となり、皆様の不安や疑問の解消に繋がれば幸いです。
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