申請手続き

【専門社労士が解説】障害年金は働きながらでも受給できます

障害年金の申請に関するお問い合わせの中で「働きながら障害年金を受給することはできますか?」というお問い合わせを一番多くいただきます。

障害年金は働きながらでも受給することはできます。

働きながら障害年金の申請をされる方のために、働きながら障害年金を受給されている方の現状や申請の注意点を分かりやすくご説明したいと思います。

この記事の監修者 社会保険労務士 松岡由将

年間2,000件以上の問い合わせがある「全国障害年金サポートセンター」を運営する障害年金専門の社会保険労務士法人「わくわく社会保険労務士法人」の代表社労士。
障害年金コンサルタントとしてtwitter(まっちゃん@障害年金の悩み解決するよ)やYouTube(まっちゃんの障害年金カフェ)などでも障害年金に関するさまざまな情報を発信している。

就労だけの理由で障害年金の支給が認められないことはありません

就労していることなどを理由に国の障害年金の支給が認められなかったのは不当だとして、不支給処分の取り消しを求めた訴訟の判決で、国の決定を取り消し障害基礎年金2級(月約6万5千円)の支給を命じる判決が出されました。

障害年金450万円支給へ 東京地裁が命令、国が敗訴

就労していることなどを理由に国の障害年金の支給が認められなかったのは不当だとして、発達障害と軽度の知的障害がある埼玉県内の男性(25)が不支給処分の取り消しを求めた訴訟の判決で、東京地裁は20日までに国の決定を取り消し、障害基礎年金2級(月約6万5千円)の支給を命じた。国は控訴せず、判決が確定。男性には今後の年金のほか、未支給分の計約450万円が支払われる見通し。

 代理人の関哉直人弁護士は「就労が続いていると障害年金が支給されないケースがあるが、支援の状況を丁寧に判断すべきで、判決はその点を明確に指摘した」と話している。(共同通信)

2022年4月20日 共同通信

このように就労していることだけを理由に障害年金の支給が認められないということはありません。

働きながら障害年金を受給している人はどれくらいいるの?

令和元年(2019年)のデータでは、厚生年金・国民年金両方の全ての傷病での受給者で見た場合、34.0%が働きながら障害年金を受給されています。

つまり、障害年金を受給されている方の約3人に1人は、働きながら障害年金を受け取られているということになります。

就労していることが審査に影響する可能性が高い「精神疾患で障害年金を受給されている方」で見た場合、28.3%の方が働きながら障害年金を受給されています。

精神疾患で障害年金を受給されている方に限った場合でも、4人に1人以上が働きながら障害年金を受給されているということになります。(障害年金受給者実態調査 令和元年 第16表 性別・制度別・障害等級別・傷病名別・仕事の状況別 受給者数/受給者割合 より)

このデータからも分かるように、働いているという理由だけで「絶対に障害年金が受給できない」ということはありません。

また、精神疾患でも正社員だと絶対に障害年金を受給できないということもありません。

障害年金を受給されている方がどのような仕事をされているか、男女比はどうなっているか等を知りたいという方は「障害年金の受給者の就労状況」のページで詳しくご紹介していますので、是非ご覧ください。

働いている方であっても、障害年金を受給する要件を満たしている場合は受給されます。

障害年金を受給する要件

それでは、障害年金を受給するための要件を見てみましょう。

障害年金を受給するためには、以下の3つの要件を満たす必要があります。

初診日

「初診日」に、国民年金または厚生年金保険の被保険者期間中であることが要件になります。

「初診日」とは、障害の原因となった病気やけがについて、初めて医師等の診療を受けた日をいいます。

つまり、障害の原因となった病気やけがについて、初めて医師等の診療を受けた日に国民年金または厚生年金保険に加入していた必要があります。

保険料の納付

初診日の前日」に、保険料の納付要件を満たしていることが要件になります。

保険料の未納期間が無い方は問題ありません。

未納があった場合でも受給要件を満たす場合もありますので、未納期間のある方は「障害年金の受給要件」のページで詳しくご説明していますので、ご参照ください。

障害の状態

「障害認定日」に、障害の状態が等級表に定める1級から3級のいずれかに該当していることが要件になります。

「障害認定日」とは、障害の状態を定める日です。

初診日から1年6カ月を過ぎた日、または1年6カ月以内にその病気やけがが治った場合(症状が固定した場合)はその日を「障害認定日」といいます。

1級他人の介助がなければ、ほとんど自分の身の回りのことができない状態。
2級日常生活の多くのことに援助が必要で、働いて収入を得ることが難しい状態。
3級労働が著しく制限を受ける状態。
労働に著しい制限を加えることを必要とする状態。
3級非該当障害は認められるけれど、社会生活は普通にできる状態。
参考資料:「障害等級」と「日常生活能力の程度」の相関性

障害年金を受給できる「障害の状態」とは

先程の受給要件で「働いて収入を得ることが難しい状態(2級)」「労働が著しく制限を受ける状態、又は、労働に著しい制限を加えることを必要とする状態(3級)」という記載がありました。

これは具体的には、どういった状態なのでしょうか。

例えば、職場で以下のような配慮をしていただかなければ働けないような場合は「働いて収入を得ることが難しい状態」「労働が著しく制限を受ける状態、又は、労働に著しい制限を加えることを必要とする状態」に該当していると判断される可能性があります。

  • 知らない人との会話ができないため、電話応対や接客対応などを免除してもらっている。
  • 所定時間以外に体調に合わせて特別に休憩時間を設けてもらっている。
  • 職場に本人専用のブース(小部屋)を設けてもらっている。
  • 理解力が不足しているため、自分専用のマニュアルを作ってもらっており、漢字にはルビを振ってもらっている。
  • 電車やバス通勤ができず、車での出勤を認めてもらっている(家族が送迎している場合もある)
  • コミュニケーションが取れないため、仕事の指示は一人の特定の上司からしてもらっている。

また、以下のように健常者でもあり得る事も支援に含まれることがあります。

  • 体調に合わせて急な遅刻、病欠、早退を許可
  • 通院日の休暇許可
  • 繰り返されるミスのフォロー

会社が病気を理解し叱責せずに許可していることは、ある種の配慮となります。

障害年金はいくらもらえるの?

それでは、障害年金はいくらもらえるのかを見てみましょう。

細かい条件を全て説明すると分かり難いため、ここでは一般的なケースでご説明します。

詳しい受給金額に関しては「障害年金の受給金額」のページでご説明していますので、ご参照ください。

障害基礎年金の受給額(月額)

障害基礎年金の受給額は「障害の等級」と高校卒業までの「子の有無」によって金額が異なります。

子無し子1人子2人子3人
1級81,020円99,670円118,320円124,536円
2級64,816円83,466円102,116円108,332円
参考:障害年金ガイド 令和4年度版

障害厚生年金の受給額(月額)

障害基礎年金の受給額は「障害の等級」と「配偶者の有無」と高校卒業までの「子の有無」に加えて、納付した社会保険料によって金額が異なります。

そのため障害厚生年金の受給金額は、障害の等級と子の人数が同じであっても、納付した社会保険料によって幅があります。

そこで、障害厚生年金の月額の受給額は2019年の障害年金受給者実態調査の結果をもとに概算をみてみましょう。

以下の数字は障害年金受給者実態調査 令和元年のデータを基に当事務所で推定した平均的金額です。

本人のみ
(1人世帯)
配偶者あり
(2人世帯)
配偶者と子1人
(3人世帯)
1級10~16万円12~18万円14~20万円
2級8~12万円10~14万円12~16万円
3級5~6万円5~6万円5~6万円
参考:障害年金受給者実態調査 令和元年

障害年金に所得制限はあるの?

所得制限とは、一年間に得る収入の額によって受給できるサービスが制限されることです。

例えば、「年収●●万円以上の場合は支給額が減額される」というような制限を所得制限といいます。

障害年金には所得制限があるのでしょうか?

結論から言いますと、障害年金は「20歳前傷病」と「特別障害給付金」に該当する場合にのみ所得制限があります。

「20歳前傷病」と「特別障害給付金」以外で障害年金を受給されている方は所得制限はありません。

所得がいくらあるかに関係なく障害年金を受給できます。

所得制限があるケース

以下に当てはまる場合、所得による障害年金の支給制限があります。

20歳前傷病

初診日が20歳より前の傷病(20歳前傷病)で障害年金を受給されている場合には、所得による障害年金の支給制限があります。

前年の所得額が4,721,000円を超える場合は年金の全額が支給停止となり、3,704,000円を超える場合は2分の1の年金額が支給停止となります。

扶養親族がいる場合、扶養親族1人につき所得制限額が38万円加算されます。

支給停止となる期間は、10月から翌年9月までとなります。

(日本年金機構:20歳前の傷病による障害基礎年金にかかる支給制限等

特別障害給付金

特別障害給付金とは、国民年金に任意加入していなかったことにより、障害基礎年金等を受給していない障害者の方のための福祉的措置として創設された制度です。

特別障害給付金にも所得による障害年金の支給制限があります。

前年の所得が4,721,000円を超える場合は、給付金の全額が支給停止となり、3,704,000円を超える場合は2分の1が支給停止となります。

支給停止となる期間は、10月分から翌年9月分までとなります。

(日本年金機構:特別障害給付金制度

働きながら障害年金の受給が決まった事例

働きながら障害年金の申請をされる方から「正社員で働いているのですが、障害年金を受給できますか?」「一人暮らしをしながら働いている場合は障害年金の受給は出来ないと言われたのですが、受給できませんか?」といったご質問をよく頂きます。

当事務所では「全国障害年金サポートセンター」のサイトで約900件(2022年4月18日現在)の当事務所で申請した障害年金申請の事例を紹介しています。

正社員で働いている方、一人暮らしをしながら働かれている方などの受給事例も多数あります。

ここでは、その一部をご紹介したいと思います。

正社員で働きながら障害年金3級を受給された事例

正社員で働かれている方であっても、『障害年金を受給する「障害の状態」とは』でご説明したように、実際には職場で配慮してもらうことで働ける状態の方もいらっしゃいます。

こちらの事例では正社員で働かれているけれども、以下のような状況で働かれていることを病歴就労状況等申立書に詳述しました。

  • 月に10日ほどしか出勤できない
  • 公共交通機関が利用できないためタクシー通勤が許可されている

審査の結果、「障害厚生年金3級」に認定され、最大5年間分の遡及も認められました。

一人暮らしで働いている方の事例

一人暮らしをしながら働いている方は、症状が軽いと判断されて障害年金を受給できないのではないか、というご質問もよく頂きます。

確かに一人暮らしをしながら就労されている場合は受給が難しいケースもあります。

ただ、一人暮らしで働いているからという理由だけで障害年金が受給できないということはありません。

こちらの事例は、最初にご本人が申請されて不支給の決定となった事例です。

不支給となった後に当事務所にご依頼を頂きました。

当事務所では、一人暮らしをしている理由などを丁寧にヒアリングして、以下の内容を資料にまとめて診断書を作成頂く医師に橋渡しをしました。

そして、診断書だけでは伝えられない病歴や、日常生活などについては「病歴就労状況等申立書」で補足説明をしました。

  • 頼れる身内がおらず余儀なく一人暮らしをしている
  • 病状からヘルパーなどを受け入れられず日常生活は破綻している
  • 対人交流ができず職場では孤立している
  • 常に相談員の指導の下で単純作業のみに従事している
  • 電話対応などは免除されている

結果は2カ月足らずの審査で「障害基礎年金2級」に認定されました。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

働きながら障害年金を受給できるケースがあるということをご理解いただけたかと思います。

障害の状態が、「働いて収入を得ることが難しい状態(2級)」「労働が著しく制限を受ける状態、又は、労働に著しい制限を加えることを必要とする状態(3級)」に該当するかがポイントになります。

日常生活や就労状況を正確に診断書に反映していただくように医師へ日常生活や就労状況をきちんと伝えて、診断書だけでは伝えられない病歴や、日常生活などについては「病歴就労状況等申立書」で補足説明をすることが重要です。

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